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タイトル一文字。 同音異字から連想する物語、あいうえお順に書いてみた。

「ほ」 -帆・歩・舗-

作者: 牧田沙有狸

は行

「隣に歩くと視界にいない」

身長差が30cm近くあったあいつに言われた。

ちびっ子すぎるから子供連れてるみたいで嫌だと、

照れているのか変なこだわりか手を繋ぎたがらなかった。

だからいつも、あたしはあいつが肩から下げている帆布のトートバックにつかまっていた。

そっちの方がよっぽど子供っぽいだろうと思うが、それは可愛いと言っていた。

あの、裾をぴっぴって引っ張る女子が可愛いっていうやつと同じ類になるのか。

脚の長さも違うから歩幅も違くて、時々追いつかない。小走りになるあたしをからかった。

そんなあたしを好きなんだと、好かれてるんだと思っていた。

怒りながら叫びながら、笑いながら

この舗道を二人でよく歩いた。


帆布の中に詰まったあいつの夢。

いつもスケッチブックが入っていて、何かが降りてきたみたいになると

所かまわずデッサンを始めた。

絵を描くのが大好きなあいつ。

君はガリレオかって、バカにしてみてるしかなかった。

そんなあいつが好きだった。その時間、あたしは置き去りだ。

それが二人の心地よい関係で、身長差と同じくらい愛しい二人の距離の取り方だと思ってた。


何度か、あたしの絵を描いてよとお願いした。

でも、いつも「お前を見てたら、見てるだけで終われないから描けない」と

嬉しい言葉ではぐらかされた。

絵を描くのは、まずは見ることが大事だという。

見て見て見て、飽きるまで見てから描く。描く力なんてたいして必要じゃないと言っていた。

そうやって、自分の絵の描き方を偉そうに説明しながら自分だけの領域にすぐ行ってしまう。

そんな姿が誰よりも眩しかった。


いつもの舗道を歩くあいつの歩幅が大きすぎて追いつかなかった。

いつもどおりの会話をしようとしているけど、帆布バックにつかまる手を嫌がって反対の手に持ちかえるあいつの不自然な態度に哀しい予感がした。

あたしは、無理やり帆布バックを奪って勝手にスケッチブックを見た。

あいつは、見せないようにしようとか取り返そうとかしなかった。

知らない女の人の絵を見つけた。

モデルを前に描いたような絵じゃなかった。

盗み見して、恋い焦がれて、彼女を想って描いていた。

迸る想いを抑えきれずに、脳裏に揺らめく彼女の姿を絵にした。

自分の手で自分のものにした。

見てるだけで愛しい人。

そんな絵だった。

あたしはスケッチブックを見ながら聞いた。

「キレイな人だね」

「え、ああ」

「ずっと見てたの?」

「ああ」

「この人は君のこと見てないよね」

「ああ、自分の夢だけを見てる」

あいつは遠い目をした。


それから何日かして、スケッチブックの絵の人と歩いているあいつをみた。

帆布のバックをつかむこともなく、同じ歩幅で歩いていた。

その人もスケッチブックを抱えていた。

同じ歩幅で同じ視界が広がっているんだと思った。

同じ夢を見ている目だった。

あたしは夢を見ているあいつを見るのが好きだけど、同じ夢をみられない。

「この舗道、危ないから手を繋いでくれる人と歩きたい」

あたしはそう言って、あいつがさよならを言ってくる前に、視界から消えた。


この舗道で、帆布バックを提げて歩いている人を見るたび思い出す。

あいつの夢は叶ったのかな。



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― 新着の感想 ―
[一言] すっと頭に入ってくる文章ですね。 悲しい物語なのにすがすがしい気持ちになるのは登場人物が皆前を向いているからでしょうか。
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