少女がえらい事を思い出させてくれました。
始まりの町ー町中ーアリスの家前
辺りは暗く満月が嫌に眩しい。魔神ペスタークとの失恋から立ち治れない俺は今日も生きる気力を失っている。
アリスと言う少女に拾われた俺は、その日からここアリスの家の入り口前に首輪を付けられ外で生活している・・・もうこの生活も1週間は過ぎたであろう・・・流石に涙は枯れ果てた・・・・・
アリスと言う少女は人気ものらしく友達の訪問が絶えない。ドアを開ける度にドアの角が俺の眉間にクリティカルをかますが、そんなのどうだっていい・・・
そんな人気者のアリスが俺の事を可愛がってるのが気に入らないのか、少年達はアリスに気が付かれない様に俺の尻に木の枝を思いっきり刺しては笑い、刺しては笑いを繰り返していたが、そんなのどうだっていい・・・
生きる気力を失った俺は食べ物にも手を付けずただ静かに時に身を任せ生命が尽きるのを待っていた。そんな俺の考えを察したのかアリス達は必死に食べ物を俺に摂取させる方法を思考してチャレンジしてきた。
そして・・・苦労の末アリス達は俺に食べ物を摂取させる方法をとうとう編み出した・・・
それはアリスの父親が家庭大工で作成した拘束具を使用し俺が動かない様に頭・首・手・足・胸・腰を固定して、熱々のカレーのルーを俺の口に流し込み、口をガムテープで封すると俺の鼻を摘みカレーのルーを無理やり飲み込こませるという子供にはちょっと過激な拷問プレーでは有ったが、俺の口にカレーのルーが残っていない事を確認するとアリスは泣いて喜んでいた。
そんな感動も時が経つと大分薄れた様で今では俺が悶え苦しむ姿を喜んでいる様に見えるのは気のせいであろうか?あまりも酷い仕打ちに見かねたアリスの父親が止めに入ると、舌打ちするアリスとアリスの母親はきっと俺が生きる気力が失った事による俺の思考が見せる幻覚なのであろう・・・
そんなカレーのルーしか食べない俺にアリスは名前を付けてくれた。
子供の考える事は単純でカレーのルーしか食べない俺・・・嫌・・・正確にはカレーのルーしか与えられていない俺をアリスは【ルー】と呼んだ。
俺がこの家に来た時仕込んでいたらしきカレー・・・
「アリスと話してたらカレー焦げちゃった。もう食べられないわ・・・こんなに仕込んだのに・・・」
と言う幻聴が聞こえた気もしたがこれも俺が生きる気力を失った事によるものだろうと俺はそれ消化する。
いつもならこのまま目を閉じれば明日の朝を迎えるのだらうと思っていたのだが・・・今日は違った・・・いつもならもう開く事ないアリスの家のドアが勢いよく開く・・・勿論ドアの角が俺の眉間にクリティカルヒットする。幾ら生きる気力を失ったとはいえ痛いものは痛い。
言葉無く悶え苦しむ俺。
そんな俺に優しく声をかける人物がいた。
「ルー起きてる?」
アリスであった・・・もうそろそろ寝る時間なのであろうアリスは寝る服に着替えいつも後ろで束ねてある髪は自然に重力に従い下に垂れていた。
「じゃじゃ〜ん」
アリスは俺が起きている事を確認し後ろに隠し持っていた本を俺に見せる。
「アリスね、元気ない時これ読むの」
アリスが差し出した本は【ロロの冒険】と言う誰もが一度は読んだ事がある童話であった。
「ルー元気無いから、アリスが呼んであげるね・・・コホン、じゃ〜いくよ!!むかーし、むかーし、あるところにロロと言う、いきものがいました」
勿論であるが子供の頃、俺読んだ事のある童話。
「ロロは、ぼうけんをしていました」
もう900年以上も昔になるのではないかな?
「ロロは、あるいていると」
何処で読んだのだろ?かと俺は考えていた。
「ホビットぞくの、むらにつきました。ホビットぞくは、ロロに、あそびをおしえると、いっぱい、いっぱい、いっしょに、あそびました。・・・ホビットぞくは、いっぱいあそんだ、えっ〜と、しる・・・し?に、ロロの、せいぞう?・・・をつくりました。」
俺の頬に涙が溢れる。
「ロロは、ホビットぞくとわかれると、また、ぼうけんに、でかけました」
思い出した・・・この童話は俺の母がいつも読んでくれていた・・・
俺はアリスが読んでくれている童話に添ってもう忘れかけていた母との時間を思い出していた。
・
・
・
・
俺は決していい息子では無かった・・・
母は人間で俺を女の手一つで育ててくれた・・・
父親は知らない、母は俺の父親の話はしなかったし、俺も別に母に尋ねる事はしなかった・・・
嫌・・・俺に父が居ないと分かったのは、俺がもう物心ついた時で、その頃の俺はこの世界の事をある程度把握していた、俺の父は人間に殺されたとそれを消化していたのである・・・
エルフであった父親は人間にすれば魔族に組する存在・・・言うなればエルフであった父親は魔族である・・・
幼かった時の俺は感情の起伏を調整する術を知らなかった・・・
普段は人間と変わらない容姿をしていた俺だが・・・感情が高ぶるとエルフの血が濃くなり、俺の容姿をエルフに近づけた・・・
人間の容姿をしていた時は、小さかった俺の頭を優しく撫でてくれたおじさん・・・「お腹減っているだろ?」と俺に果物をくれたおばさん・・・
しかし俺が人間では無い存在だと分かると、人々は必ず俺の命を脅かす存在となった・・・
その度に村を転々とする俺と母・・・
勿論そんな生活をしている俺に友達など作る気も起きず・・・只時間が経つのを刻々と家で過ごした・・・
俺は一切働く事無く只家で過ごし、母は俺達の食べ物を確保する為働いていた・・・
そんな母に俺は感謝する事も無く俺は沈黙でそれに答えた・・・
そんな生活に嫌気がさしていた俺は、何かムシャクシャする時は母に当たった・・・
「なんで俺なんか!産んだんだよ!!」
その言葉を聞いた母の悲しい顔は今も忘れはしない・・・
しかしその頃の俺は、やり場の無い怒りをどう収めていいのか分からず、母に当たるしか出来なかった・・・
そんな俺なのに、俺の前では母はいつも笑顔であった・・・
しかし俺は知っていた・・・母は人知れず俺が居ない所で泣いていた事を・・・
だからと言って俺は俺を生んだ母を許す気にはなれなかった・・・嫌違うな・・・ホントは母に優しい言葉を掛けたかった・・・「いつもありがとう」と言いたかった・・・
だが・・・
そんな母も・・・
人間である。
俺は母が俺の母親である前に人間である事に恐怖していたのだ・・・
いつか母が俺を捨て、俺の命を狙う・・・そんな母にいつ裏切られてもいい様に・・・そう振る舞ってた・・・
だが・・・
その日は・・・
訪れなかった・・・・
・
・
・
・
・
アリスの音読は終盤へと差し掛かる。
ぎこちない音読であったがアリスの一生懸命読む姿を、俺が無邪気で何も知らない頃の俺の姿と照らし合せて見ていた・・・
そして俺が読むぎこちない音読をただ静かに耳を傾け微笑みながら聞く母の姿がそこにあった。
《【ロロの冒険】話の内容はこうだ。
ロロはこの童話が作られた時に最も繁栄していた12の種族の所に出向き、其々の得意とする分野を取得して、認めてもらった証拠に石像を建ててもらうと言う話。そして全ての村の冒険を終えロロは・・・》
「すべてのむらを、ぼうけんしたロロは、すべての、しゅぞくに・・・」
俺が冒険者を目指した理由・・・
俺と違って人間であった母の短い寿命をみとり・・・
この童話に微かな望みを抱き・・・
母に一言言葉を掛ける為に始めた冒険・・・
そう・・・
母に一言・・・
感謝の気持ちを伝える・・・
12の職業をマスターし得るもの・・・
それは・・・
「神様と呼ばれる様になりました。」
アリスより先に俺は言葉を発していた。
「えっ?」
アリスは目を見開き驚いた顔で俺を見ている。
俺は横たわる体を起こし足を組み座る。グッタリ横たわっている姿しか見せていなかったアリスはそんな俺を見て更に驚く。
「アリスありがとう色々思い出せたよ。本当にありがとう。」
俺が初めてアリスにかけた言葉である。俺はアリスに深く深く頭を下げていた。
そう俺は神になり母に一言・・・
「産んでくれてありがとう」と伝える為に・・・・・
読んでくれてありがとうございます。