私、ミリア・フォレストの今後はどうなっちゃうの?③
ミリア過去3です。
それはある日突然にやってきた。
とある村の入り口に一人の冒険者が倒れていたのである。その倒れた冒険者を囲う様に村人が立ち尽くしている。
そんな村人達に声を掛ける男がいる。
「どうした?何かあったのか?」
「ああ、ミロの旦那、いやね冒険者が倒れていまして・・・」
「何?」
ミロは倒れている冒険者の方へ目を向ける。
「ねぇ~ミロどうしたの?」
後から食材を抱えた一人の女性がミロに声を掛ける。
ミロは声がする方に振り向く。
「ああ、イリアか・・・これだ!多分禁忌犯しだ・・・」
そう言葉を発するとミロは自分の体を退けて、イリアに倒れている冒険者を見せる。
【禁忌犯し】冒険者に対して教会が定める規定でいくつのも制約があるその禁を破った者を禁忌犯しと言う。
イリアは倒れている冒険者の傍に来ると目蓋の指で広げ瞳孔を確認する。
確認した瞳孔は血の様に赤く染まっていた。
「不老の禁忌ね」
イリアはその目を見てそう言葉を発した。
【不老の禁忌】体を不老にする禁忌である。不老となる方法は幾つかあるが代表的なのがアンデッドの血肉を体内に取り込む事により少しづつ体を不老にする方法である。つまり食べるという事である。
不老になる理由としては勿論年を取らないのもあるが・・・物理攻撃の耐久性を上げるという意味もある。魔法攻撃に関しては弱体化するのだが魔法を使用する魔物は少なく、見習い冒険者が浅はかに手を出す事も稀にある。
不老の禁忌に手を出す冒険者はほぼ切羽詰まった冒険者である。その禁忌に触れてまで冒険者をする理由は大抵がGが目的である。
そしてイリアは冒険者の首にかかっている冒険者プレートを手に取りそれを言葉して読む。
「サーマン」
冒険者プレートにはそう名前が刻み込まれていた。
そしてミロがイリアに声を掛ける。
「恐らく不老の禁忌であろう・・・かなり進んでいる様だ・・・でどうする?教会に預けるか?」
教会にこのサーマンという冒険者を預けるという事はこの冒険者がもう二度と職業に就く事が出来ない事を意味した。禁忌を犯したものは教会から無理矢理職業を取り上げられ、重度であれば死刑・軽くて拷問を余儀なく強いられる事になる。
そして暫く考えたイリアは・・・
「う~ん、家で預かる!」
余程の理由がこのサーマンという名の冒険者にはあるのだろうと考えたイリアから言葉が発せられる。
「お、おい!!ミリアも居るんだぞ!」
とミロが慌てて言葉にすると・・・
「大丈夫、大丈夫、一か罰(八)かだよミロ」
とイリアは答えた。
「たく・・・お前は・・・しゃーねぇな、ほら退いた退いた」
その言葉を聞いたミロは観念して倒れている冒険者を家へ運ぶのであった。
イリアの口癖「一か罰(八)か」これはイリアが他の人間が迷っている時に使われる言葉で、私を信じてという意味が込められている。
幼い頃からの知り合いであったイリアとミロはイリアの「一か罰(八)か」の言葉に何度も助けられ・・・嫌・・・イリアのその言葉は神がかっており、全てが上手くいった。そうミリアの運は母譲りなのである。
しかしサイの目に罰(八)が存在するという事は天文学的に有り得ない数値だとしてもそれは実際するのである。そしてこの場で振られたサイの目は罰(八)であった・・・嫌・・・自分の生命の存続という面的に考えるとその目は1だったのかもしれない・・・
それはほんの些細な解れからであった・・・
冒険者の男が来てから3日目の夕方何時もの様に台所に立ち夕飯の支度をしていた時だった。
「痛たっ!もう私ったらホントドジやんなっちゃう。」
イリアはナイフで食べ物と切ろうとして誤って指を切ったのである。ただその傷は抑えて3秒ぐらいしたら血が止まりほんの些細な出来事であった。
夕飯の支度がある程度出来上がりイリアはミリアにミルクを与える。その後大きめの深い皿に水を溜めると布を用意して、布を水に浸し、布を絞り、今だ起きない冒険者の体を拭いていた。
水に指が浸り血が水に溶け込む・・・そうとは知らずにその布で体を拭くイリア・・・肩を拭き、首を拭き、顔を拭いた・・・
ピクリと冒険者の男の指が動く・・・それに気が付かないイリアはまだ男の体を拭いている。
その時・・・・
「オギャーオギャー」
台所の子供カゴに入れているミリアが泣いたのである。その声を聞いたイリアは直ぐに台所へ向かう。
「およちよち、大丈夫でちゅよー」
とミリアをあやし冒険者の男の部屋に向かうと・・・ベッドで寝ている筈の男がいない!!
そして・・・
それが起こった・・・
足に違和感を感じたイリアは目線を下に向けると・・・そこには冒険者の男がイリアの足を噛み付いている・・・
イリアは全く理解が出来なかった・・・自分が何故?「一か罰(八)か」が何故?そう思うしかなかったのである。
「イヤアァァァァーーー!!」
イリアは大声で叫んだ!その大声に足を噛んでいた冒険者は一目散に家を駆けだし出て行った・・・・
・
・
・
・
・
「ただいま」
家に入りそう声を出したのはミロであった。
暫くしたが返事がない・・・・
ミリアは子供カゴでスヤスヤ寝ていた。
食事の下ごしらえがしてある。
「おい、イリア?」
返事が無い・・・
不思議に思い部屋を見回る。
イリアは冒険者の男が居たベットの上に座っていた・・・
様子が変だと直ぐに察知したミロはイリアに駆け寄ろうとしたら、床が濡れておりそれに足を取られる・・・何だ?と見ると其処には血が付いていた・・・血の跡を追うと・・・その血はイリアの足から出ている事に気が付いた。
ミロの顔が青ざめる。
「お、おい飯にしようか?」
真実を知りたく無いミロは現実を逃避する・・・・
「なぁ~イリア・・・今日はいい事あったぞ!」
ミロは普段はしない話の話題を振る。
そんなミロを他所にイリアは・・・
「・・・・・・れた・・・」
非常に小さくて聞き取れなかった。しかしミロの顔が少し歪む・・・
「・・・・・まれた・・・」
非常に小さくて聞き取れなかった。しかしミロの顔がさらに少し歪む・・・
「・・・・かまれた・・・」
耳に言葉が入る・・・ミロの顔が大きく歪みイリアに抱き付く・・・
イリアは虚脱状態で一人事の様に何回も何回もそう呟いていた・・・・
・
・
・
・
いつも間にか日が昇り始めた・・・ミロはイリアを抱きながら眠っていた・・・
イリアはそっとミロをベッドに寝かすと台所にある出口に向かう・・・
子供カゴに入っているミリアの横を通ると少し立ち止まり・・・
ミリアを見つめ涙を流すイリア・・・
そして・・・イリアは・・・家を出て行った・・・
・
・
・
・
イリアが向かった先は村から少し歩いた崖であった・・・
それは底まで1000mはある崖であった。そこから飛び降りれば必ず死が待っているそんな崖であった。
イリアは少し戸惑いながらも崖の先を目指し歩く・・・
色んな思い出がイリアの頭によぎる、小さかった自分そこに居る兄とミロの姿、冒険者になって初めてミロとエリックで魔物を倒し喜び合った時、魔物に囲まれ絶対絶命のピンチ、ミロから「結婚しよう」と言われた日、結婚式で友人たちに祝福された時、そして・・・ミリアが生まれた日・・・
自然に涙が零れ落ちる・・・
そして崖の先端まで行きつくと・・・
「ごめんなさい・・・」
そう一言呟き崖から身を投げた・・・
しかし無情にも・・・
イリアの意思とは関係なく「一か罰(八)か」のサイが投げられた・・・
出た目は1・・・
イリアが崖から飛び降りた直後に突風が吹き体が流され、イリアは崖の中央部分から滑る落ちる様に崖の下に転げ落ちた。
腕数ヵ所の骨折・足数ヵ所の骨折・打撲・擦り傷を作り崖の下で倒れこむイリアに・・・
そして・・・
無情にも再度「一か罰(八)か」サイは投げられる・・・
又しても出た目は1・・・
「イ、イリアおばちゃん大丈夫?」
その声は、村で一番イリアを慕いいつもイリアに駆け寄ってくる5歳になる近所の青年マルコであった。
イリアは驚いた・・・何故?こんな所にマルコが・・・
そうそれこそ強運・・・イリアを生かす為に動いた「一か罰(八)か」のサイコロの力・・・
イリアの中のヴァンパイアの毒が囁く・・・
≪細胞を取り込もう≫
青ざめるイリア。
「マルコ家に帰りなさい!!早く帰りなさい!!」
イリアは怒りながらマルコに言葉を掛ける。
≪早く細胞を取り込もう≫
「でもイリアおばちゃん、怪我してるよ」
マルコの足は止まらない。
「いいから行きなさい!!!!」
目をつぶりさらに大声で怒りながらマルコに言葉を掛ける。
「・・・・」
暫くの沈黙行ったか?と思われたが・・・・
耳元で・・・
「ねぇ~大丈夫?」
マルコの声がした・・・
≪さぁ傷を治そう≫そうヴァンパイアの毒が囁いた・・・
・
・
・
・
そこからは記憶が無かった・・・気が付くとイリアの服は血で染まり・・・
骨折してた箇所は元に戻り打撲・擦り傷一つ無い体になっていた・・・
そして・・・
足元には変わり果てたマルコが横たわっていた・・・
「イヤ・・・イヤ・・・イヤァァァーーーー」
自我が壊れる音がした・・・
イリアはヴァンパイアの毒に完全に犯される・・・
イリアをヴァンパイアとして生かす為にヴァンパイアの毒・・・嫌・・・本能が知性・理性・感性・感情・記憶を蝕む。
本能が人間を欲している・・・
ロードに成れと本能が囁く・・・
そしてイリアは人間としての機能をほぼ失い・・・本能に従うまま捕食を開始するのであった。
・
・
・
・
ヴァンパイアと化したイリアは村に戻っていた。
一番最初に目に入ったのは何時も畑仕事に精を出す年寄りだった。
「やぁ~イリア今日は・・や・・・」 《捕食》
そして次はその年寄りの妻とされる人だった。
「イリア、どうしたの?血・・が・・」 《捕食》
近所の中の良い中年男性
「ああ、イリアかこれ・・ミロ・・に・・」 《捕食》
その中年男性の子供
「イ、イリア、お、おば・・ちゃん・・」 《捕食》
その母親
「イ、イリア、や・・め・・て・・」 《捕食》
その一番下の子
「ごごごご、ご・・めん・・な・・さ・・」 《捕食》
・
・
・
・
・
次々と人々に襲い掛かり村が血で染まる・・・人々は逃げ惑いその悲鳴は勿論ミロの耳にも入る・・・悲鳴で起きたミロは周囲を見渡す・・・イリアが居ない・・・
ミロに不安が過る・・・
急いで外に出ようとしたが、それを察したのかミリアが泣き出す。
ほって置く事も出来たい為、ミリアを抱きかかえミロは外へ飛び出す・・・
外へ飛び出しミロが見たそれは・・・
目の強膜は黒く、瞳孔が赤く、気持ちが悪いほど白くなった人では無い者がいた。
その服・顔・髪には村人の返り血で赤く染まっていた。
「イ、イリアなのか?」
ミロがそう人では無い者に問いかけると・・・
ゆっくりミロの方へ振り返り、ゆっくりミロの方へ歩いてくる。
ミロは顔を引きつり笑顔を向ける。
しかしそれは淡い考えであった・・・
ミロ傍まで来ると人では無い者がミロに襲い掛かってきたのである。完全に無防備であったミロは吹き飛ばされ転がる。ミリアを守る様に腕をしっかり抱きしめて・・・ミリアの鳴き声が振動で大きくなる。
人では無い者は転がったミロに再度襲いかかるのか?と思われたその瞬間
「・・・リア・・・リア・・・ミリア・・・」
人では無い者はそう言葉にすると・・・流れる筈がない瞳から一粒の涙を零す。
そして人では無い者は興味がそぐれたのかその場を後にして村を出て行った。
ヴァンパイアの本能が奪わなかった記憶が一つだけあった、それはイリアが生きていく中でもっとも大切にしていた記憶であり、それを失うと生命が危険に陥ると本能がそう判断し残したのである。
そうそれは・・・
「ミリアと過ごした時間であった。」
読んで頂いてありがとうございます。




