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戦闘したらえらい事に涙が止まらなくなりました。

 【始まりの町】冒険者になると必ず最初に訪れる場所である。


 冒険者になる条件それは12の職業の内何れかになる事で、始めの職業の神の加護値は低く、とてもでは無いがこの始まりの町以外からは冒険を始める事は出来ない。


 ではほぼ魔界に近い町、つまり上位魔物や魔獣が出る町で冒険者になる事は不可能なのか?というとそうでは無い。各町や城など人が住める場所には教会から神父が派遣されている。その各町や城に配属された神父は転移魔法が使用でき、冒険者になる事を前提に無償でこの始まりの町に転移してくれるからである。


 教会にとって魔族は神の信仰において邪教の類とされており、人間がその魔族に対抗する唯一の手段である職業の斡旋をするのは当然の事である。


 その始まりの町に11の職業をマスターし【運】以外ステータスMAXの俺が足止めをくらっている。そう俺にとって・・・嫌・・・ソロを好む冒険者にとっての呪いスキル【一人ボケ】によって・・・


 しばし考え混んでからある不安にかられる。それは戦闘時にもこのスキルは発動するのか?という不安。論より証拠という言葉がある。


 「試すか・・・」


 そう呟いた後周りを見渡す。


 始まりの町の周囲は広大な草原が広がっている。俺は目を細めて辺りを見渡しスキル【鷹の目】発動、条件下【目を細めて見ると視力が5倍になる】を使用する。


 平原は視界を遮るものが無い為に丸見えで、とりあえず探すべきは魔物は魔族で一番弱い【スライム】であろう。

 鷹の目でスライム単体を確認、距離にして10kmという所かな?普通に走れば1分とかから無いのだが、ここでスキル【一人ボケ】が発動する。


 俺は10km距離をムーンウォークで移動するはめになった。


 ムーンウェークで移動するということは足元が見え無いという事であり、俺は軽い突起に足を取られ数回転ぶ、気がつくと俺の顔は明後日の方向を向いており、ムーンウォークでも視界が見渡せる様に成っていたのである。


 【運】以外のステータスMAXの俺の転び方はそれはもう遥かに人間の領域を超えた転び方であった。



 スライムと対峙する・・・


 勿論俺はスライムに顔を向けている。それはつまり体は真逆を向いるという事で・・・

 

 丁度いいハンデだと俺はそれを消化する・・・


 その容姿は円形状のゼリーで大きいクリクリの目が2つ、口は釣り上がっており、常時無表情の笑いをしているようだった。


 スライムは明後日の方向に体が向いている俺を気遣い、何も言わず、ただ普通に接してくれてやる気を見せている様で色々試すのに好都合であった。


 スライムと戦闘を開始して1時間後・・・


 「あ、ありえない・・・」


 俺は想像以上の結果に絶望のドン底にいた・・・


 結論から言うとスライムは逃げた・・・


 ステータス【運】以外MAXのこの俺がスライムを逃がしたのだ・・・


 しかもスライムは笑顔で逃げて行った・・・嫌・・・正直に言おう。スライムと俺は笑顔でバイバイしたのだと・・・


 俺はありとあらゆる攻撃を試みた。

 

 しかしその全てがスキル【一人ボケ】によって阻まれた・・・


 時に踊りだしスライムと一緒にダンス・時に変な顔を作りスライムを笑わせ・時にほのぼのとスライスと恋話を繰り広げていた。そんなスライムと最後は友情が芽生え握手をしてバイバイしたのである。


 これだけは言っておく!!この場を離れたのはスライムだ!!だから逃げたのはスライムだ!!決して俺は逃げてない!!これだけは譲れない!!


 半泣きになりながらも俺は誰もいない平原に自分の意見を主張する。


 10回程戦闘を繰り返し結果は最初とほぼ一緒であった。

 1回だけスライムを倒す事が出来たがまともな攻撃では無かった。明後日の方向に顔が向いている為に、俺の足がもつれて転びそうな所、スライムが俺を助けようとかばって下敷きになり、【運】以外のステータスMAXの人間の領域を遥かに超えた転び方に巻き込まれスライムを倒したのだ・・・


 俺をかばった時のスライムの顔が忘れられない、スライムは俺にまんべんな笑顔を浮かべ、倒れ逝く際もその顔を崩さなかった。

 

 まるでスライムは俺に悪く無いよと言っていた様だった。そんなスライムは俺の腕の中で息を引き取った・・・


 もう動かなくなったスライムを見て・・・


 俺は泣いた。正直自分を呪った・・・

 俺をかばって倒れたスライムを思い涙が止まらない俺・・・

 幾ら時間を費やしても涙が止まらない・・・


 しかし俺は気が付いた・・・


 確かに最初はこの呪われた職業遊び人のスキル【一人ボケ】の犠牲になったスライムを思い涙をこぼしていたのだが・・・


 今は違う・・・


 今俺の心を締め付ける思いはそう・・・


 魔神ペスタークとの戦いに明け暮れた日々を思い出し泣いていたのである。


 ペスタークの高さは約5m程で6本の腕を持ち、1本の太さは約1mぐらいではないだろうか?容姿は昆虫に近くセミの幼虫と表現するのが一番シックリくる、そんな化け物を思い出し・・・


 「あっあれ?何で?涙が止まんない!!」


 魔神ペスタークと戦いに明け暮れた日々それは何よりも尊い時間であった。失われて初めて気がつくとはこう言う事を言うんだなと今は思う。


 スライムとの数回の戦闘の結果、俺はソロでは呪われたスキル【一人ボケ】によりまともに戦闘する事が出来ない。


 それは魔神ペスタークとの戦いに終焉を迎えた事を意味した・・・


 前にも説明したが俺以外に魔神ペスタークに立ち向かえる冒険者はこの世界にはいないと断言出来る。パーティを組まないとまともに戦う事が出来ない俺と魔神ペスタークの前に10秒と立っている事が出来ないパーティメンバー。


 仮に死を覚悟して俺の狩場に付いてくれる冒険者が居たとしても、俺がまともに戦えるのはその冒険者が生きている間だけ、パーティメンバーが死ぬイコール俺の死が決定する。

 例えパーティメンバーが寄生であったとしても、俺がソロで魔神ペスタークを倒せる迄に掛かる時間は5時間である。


 「持つ訳がない・・・」


 そう思うと涙が止まらないのだ・・・

 だが涙の意味がわからない?

 

 何故だ?!


 確かに魔神ペスタークと過ごした時間は長い。それは産みの親である母と過ごした時間より、気の合う冒険者と過ごした時間よりである。魔神ペスタークと過ごした時間それは俺が人生で睡眠を取るという時間の次に大く過ごした時間。


 そう考えると胸が痛くなった・・・


 「なんだよこれ?」


 俺の声は震えていた・・・


 目を閉じると魔神ペスタークとの戦った日々が脳裏に浮かぶ・・・


 魔神ペスタークが右腕一番上を振りかぶり上段からの下へ振り落とし、それを簡単に避ける俺。その後襲い掛かる衝撃波をスキル【受け流し】で回避すると同時に魔法【ラメディル(火属性無効化)】で属性攻撃無効化。


 振り落とした右腕一番上をスキル【燕返し】で即座に俺の位置に照準を合わせるのと同時に右腕中段でスキル【二段切り】で俺に襲いかかる。


 俺は右腕一番上をスキル【見切り】で紙一重でよけると、右腕中段攻撃を襲いかかる、右腕中段のペスタークの手を俺の手で合わせて起点にして避けようと思い、手と手が触れ合った時にペスタークと目が合う。


 二人はウブな少年少女の様に頬を火照らせ目を背ける・・・


 「・・・・・」

 「あ、あれ?」

 「・・・・・」

 「ドキドキが止まらない・・・」


 もう言うまでも無い・・・


 この気持ちか何なのか俺は知っている・・・


 頬に熱い物が目から溢れ落ちる・・・


 そして俺は今思う事を素直に言葉にする・・・



 「ぺスターク・・・メスかな?・・・」



 どうやら俺はキモ専だったらしい・・・

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