【習作】告白してやった。後悔はしてない
連載してるのほっぽり出して何やってんだ(白目
「ねぇ、これ可愛くない?」
栗色の髪を揺らした彼女がそう言って見せてきたのはツギハギだらけの毒々しい色をした熊らしきストラップだった。
俺はそれをたっぷり十秒ほどかけて見てから言った。
「・・・いや、可愛くはねぇよ」
まず、色が毒々しい。そして血のようなもので赤く染められた斧を紐で背負っている。
ツギハギである意味もわからない。さらに金太郎を意識しているのか金を丸で囲った前掛けをしていた。
金太郎の斧が赤いのはまだわかる。もしかしたら相撲ではなく斧で打ち勝ったのかもしれない。だが熊が持つ斧が赤いと、それはもう金太郎を返り討ちにしたことしか想像できない。
それになにより―――
「なんでデフォルメされてるのじゃなくて鮭とってるやつなんだよ・・・」
―――木彫りとかで見かける鮭を口にくわえているタイプのやつなのだ。デフォルメされているならわかるが、やたらにリアルなのにツギハギを施しているので正直気持ち悪い。お世辞にも可愛いとは言えそうにない。
「えー、可愛いと思うんだけどなぁ・・・」
一体どこを見て言ってるんだろうか・・・。若干美的センスを疑う品だぞこれ・・・。「キモ可愛い」などと言われているが、キモいものは「キモい」でいいと思うのだ。
なんだってわざわざ一緒にしてしまうのか・・・全、わけがわからないよ。
「あげる」と手に残された熊を見て、若干途方に暮れざるを得ないんだが・・・。
翌日
「ねえ、これ可愛くない?」
手に持っていたのは鮭だった。いや、今の言い方には語弊がある。鮭のストラップが正しい。
デフォルメなんてされておらず、目を見開いて口をあけている。完全に死の間際だった。
「いや可愛くねえよ」
「なんで?」
えぇ・・・こっちが疑われるんですかぁ?
「死にかけた魚のどこに愛らしさを見いだせって言うんだ」
「いけると思ったのに・・・」
さらに翌日
「ねえ、これ可愛くない?」
緑色のスライムが握られていた。や、ちょっと意味わかんないです。
そもそも俺はあまりスライムが好きではない。あの湿っぽい感じとかがどうも・・・ね。
「不定形のゲル状物質を可愛いと言いはれるのは正直尊敬するわ」
「えへへ、どうも」
「ほめてねぇよ、皮肉だ。どこが可愛いんだよ」
最後はあまり大きな声で言っていないというのに、鹿島はしっかりと食い付いてきた。
「えっと、このぷよぷよした感じとか・・・?」
「俺そのしっとりぷよぷよ感が好きじゃないんだけどなぁ」
「えー?かわいいじゃん!うりうり〜」
「や、やめろよ・・・こっち寄ってくんなよぉ!」
じりじりとにじり寄ってくる鹿島との距離がゼロになった時、俺の頬にむにゅっとした柔らかい感触が・・・アッー!
その後もそんなことが何日か続き・・・その翌日のこと
その日は久々に何も言ってこなかった。
いや、だからと言って別に寂しいとかそういうわけじゃなく・・・
その翌日
「ねぇ、これ可愛くない?」
「何で昨日言ってこなかったんだよ・・・」
そう言うと鹿島は身を乗り出して
「あれ?寂しかった?」
とからかう様に言ってくる。
なんでちょっと嬉しそうなのか、まったくわからん。
「嬉しそうに言ってんじゃないよ」
「否定しないんだ?」
鹿島の方をちらりと見ると、ニヤニヤとしながらこちらを見ていた。
「『押してダメなら引いてみろ』大作戦大成功ですな」
「・・・大と大を被せるんじゃない、ちょっと馬鹿みたいだろ」
反論できずツッコミを入れることになる。
「ふふ、照れてるんだー。かわいい」
「全然うれしくないです」
男に可愛さを見出してどうしようというのか、今日もからかってくる彼女の笑顔は眩しかった。
そして翌日
朝、眠気を訴える頭を推して食事をしながら考える。・・・考えたのはほんの数秒―――決断を済ませる。
決断を抱えたまま、妙にスッキリとした頭で学校に向かう。
そしてもはや毎日のお決まりになりつつある質問が投げかけられる。
「ねえ、これ可愛くない?」
最早周囲の人もこちらを見ることはなく、意識の外側に置いているのがわかる。
早鐘を打つ心臓のことなどおくびにも出さず、用意していたセリフを言う。
「いや、お前の方が可愛いよ」
周りが静まりかえり、ギョッとした目でこちらを、俺を見るのがわかる。
きっと思っていることは皆同じだ。すなわち(ナニ言ってんだコイツ)だろう。
そんな中一人だけ、彼女は動いていた。
「うーん、また・・・め・・・へ?」
一瞬理解できなかったのだろう。動きは徐々に止まり、ポカンとした表情でこちらを見ている。
「い、いまかわいいって・・・?」
「言った。お前の方が、とも」
あの、恥ずかしいっす。
「えと、そういうのはす、好きな人に言ってあげると・・・」
鹿島はちょっと赤くなっていて、だんだん意味を理解してきているのが見てとれる。
「俺、お前のこと好きだよ」
少し半笑いになっているのがわかる。同時に更に視線がこちらに集まっているだろう、とも。
ぶっちゃけ恥ずか死しそう。
「え、えぇ!?そんな、いきなり、心の準備が・・・」
あ、かわいいっす。見るからに赤くなって悶えてるの超かわいいっす。むしろこっちが悶えそうなんですがそれは・・・
心の準備、残り時間・・・ティンと来た。
「じゃあ、ちょっと」
そう言って手を掴んで歩きだす。周りがどよめいてるが気にしない。向かう先は、屋上だ。
◇◆◇◆◇◆◇
誰もいない屋上。夏の空は高く、中途半端な雲が浮いている。
さっきの教室の時のような視線はなく、邪魔するものは何もない。
無意識のうちに繋いでいた手を離し、少しだけ距離をとる。
勢いがあったさっきとは違い、緊張で胃が痛い。
所在なさげにしている彼女を尻目に深呼吸を一つ、口を開く。
「か、鹿島美華さん」
緊張のせいか舌が回らず、少しどもってしまうが、呼びかける。
「は、はい!」
息が切れる。心臓と胃が痛い。
「気がついたらあなたを好きになってました。付き合ってください」
ああ、言ってしまった。でもどう思われてもいい。うざがられようが罵られようがいい。
気付いて、伝えたくなって、吹っ切れた。それだけだ。
「え、えと、あなたが好きだったから話しかけてました。つ、付き合ってください」
なんとも予想外だが、またも赤くなる彼女はとても魅力的で・・・気が付けば休み時間終了のチャイムの音が響いていた。
「・・・授業、始まっちゃったね。どうする?戻る?」
聞かれなくても若干察してほしいが、あんなことをした後だ。戻れば何を言われるかわかったもんじゃない。
「・・・いや、このままサボりで。戻ると冷やかしくらいそうだ。たぶん、皆が誤魔化してくれるだろうしな」
そう答えると、彼女はクスクスと笑いながら
「じゃあ、私もそうしようかな」
「いいのか?」
楽しそうに言う彼女に困惑していると、
「いいの!こういう漫画みたいなのちょっとやってみたかったし」
どうも、そういうことらしい。言いながら本当に楽しそうに笑う彼女、それを見ているとこちらも笑いがこみ上げてくる。
「二人でサボると余計何か言われそうだけどな」
そう言って笑いかけると彼女も微笑み返してくる。
「ねぇ、浩平くん」
「ん?」
唐突に呼ばれる名前呼びに、若干声が上擦った。
「だいすき」
「・・・ッ!?」
・・・今度はこっちが赤面させられる番だった。
何度、どれだけ書いても書きなれないというか、質が向上しないのはいかがなものか・・