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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
騒がしいタウーレンの町編
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六話 ギルドの方針(後編)

「テプトさんはどういった方針を考えているのですか?」

ハゲが興味津々に聞いてくる。

よくぞ聞いてくれた。そして認めよう……みんな考えることは同じなんだな。

俺は懐から長い紙を取り出しす。もちろん、それには考えた方針が書かれている。

「俺が目指すギルドはこれです。『気がつけば、ギルドはあなたの傍にいる』」

自信満々に出した紙。親しみやすいよう標語風にまとめ、且つ誰の心にも届くよう相手を指定しない手法、これはもらっただろ。

しかし、会議室内の雰囲気は俺が思っていた反応とは真逆で、冷めた雰囲気さえ感じられた。


「おい、なんで張本人がふざけだした?」

安全対策部部長が一言。いや……ふざけてないんだが。

「それは冒険者に向けて『いつもずっと見てるからな?』的な意味合いで、問題行動を抑制しようという意図ですか?」

アレーナさん……違います。

「いや、これはテプトさんのおっしゃる問題を、解決してこなかった私たちに向けての当てつけではないでしょうか?」

ハゲは神妙な面持ちで安全対策部部長とアレーナさんに説いている。それは深読みのし過ぎですから。

「テプト部長……補足を」

ミーネさんが言った。……伝わらなかったのか。そこでようやく気づいた。

「これは、町の人たちと冒険者の気持ちになって考えようという事です。確かに与えられた事だけをやっていれば、仕事は成立してしまうかもしれませんが、そんなのは誰にだって出来ます。冒険者でもない、町の人たちでも出来ない、ギルド職員にしか出来ないことを模索するんです。そのために彼らの気持ちを理解することが必要だと感じました」


「それなら、初めからそう言えばいいだろう」

安全対策部部長が呆れる。

「テプトさんでも苦手なものってあったのですね」

アレーナさんは冷静に呟いた。

「まさか、本気だったとは……これは一本取られましたね」

もう一本も生えてないから、取るところないだろ。


「わかりました。では、『ギルド職員として出来ることを模索する』という言葉に変えます。冒険者ギルドが何の目的でつくられたのか、どういう役割を担っているのかをギルド職員に再認識させます。そうすれば、職員たちの意識も変わってくるはずです。具体的には、そのための場を設けてもらいたいですね」

「それはお前が職員たちに講話をするということか?」

安全対策部の部長が目を細める。

「そうです。何か問題でも?」

「そう突っかかってくるな。別に文句なんかありゃしねーよ。純粋に面白そうだと思っただけだ」

「確かに面白そうではありますね」

アレーナさんも興味ありげに頷いた。


「とりあえず、各部長の方針は出揃いましたね?これからーーー」


「クックックッ……出揃ってませんよ」

突然そう言ったのは、安全対策部部長の隣に座るローブを着た奴だった。部屋の中だというのにすっぽりと被られたローブのせいで口元しか分からない。彼は『企画部』の部長であり、俺は心の中でローブ野郎と呼んでいる。

「ーーーあー、すいません。お聞きしても良いですか?」

謝りながら、ローブ野郎に向き直る。決して忘れていたわけではない。彼の机の前には既に長い紙が置かれており、そこに書き込んである文字がチラリと見え、敢えて話を振らなかっただけだ。

『もっと研究がしたいです』

紙にはそう書かれてあったのだ。それはお願いだろ。

ローブ野郎はギルド職員となる前は研究員だったらしい。しかし、彼の研究は周りから理解されることはなく、危険であると判断された。彼の仕事は町の中心にある闘技場の管理なのだが、その闘技場の地下を勝手に改築し研究を行っている。主に、特殊魔法についての研究をしているらしい。

「私からはこれです」

そう言って、ローブ野郎は予想通り『もっと研究がしたいです』と書かれた紙を掲げた。

「却下」

「……なっ!」

ミーネさんの一刀両断により、彼の手からはらりと紙が落ちた。そのままローブ野郎は机に突っ伏してしまう。……前にもこの光景見たな。どうやら精神的ダメージが大きかったようだ。にも関わらず、彼は何度も無理なお願いを会議に持ち出している。その根性だけは認めるしかない。

「では、今後のギルド方針を決めたいと思います」

「どうやってこの中から決めるんだ?一人一つ方針を出してんだ、多数決じゃ決まんねぇだろ」

安全対策部の部長が意見してくる。確かにその通りだ。

「多数決なんて取りませんよ。こういった意見をまとめて、みんなが納得できるものにするんです。納得出来なきゃ誰もその通りには動かないし、そうなれば方針を決めた意味がない」

「……確かに」

「では、これらの意見を踏まえて今後の方針を決めてもらいましょうか。ーーーギルドマスター」

そう言って俺はバリザスに視線を向けた。各部長たちの視線も自然とバリザスへ向かう。



「なぜだ?」


一瞬の沈黙の後、バリザスが静かに言った。

「なぜ……とは?」

「この議題を持ってきたのはお前であろう?なぜわしに委ねる?」

その言葉に俺は鼻で笑ってしまった。

「あなたがこのギルドのリーダーだからですよ。そんなことも分からないんですか?」

「お前はわしをダメな奴だと思っているのじゃろう?」

「えぇ、もちろん」

俺は即答してやる。

「そんな奴に今後のギルドの方針を任せても良いのか?と聞いておるのだ」

バリザスは目を細めて真っ向から俺を見てくる。その表情に現れる感情は怒りではなかった。

「……一つ、俺からも聞きたいですね。まだギルド職員になって三ヶ月しか経っていない奴に、このギルドの今後を決められて悔しくないんですか?」

今度はバリザスが鼻で笑った。

「悔しいに決まっておるじゃろ。しかし、それをお前は覆してきたではないか?今さらそれを否定することは出来んよ」

「俺がやってきたのは、問題の改善です。決してギルド改革じゃありません。そして、このギルドを改革するには俺一人だけでは無理なんですよ」

「たとえそうであったとしても、お前がギルドの方針を決めない理由にはなっておらん。今まで通り自分の思うとおりにやれば良いではないか」

その言葉に、思わずため息を吐きそうになったが、それを堪える。

「あなたがダメな奴でも、その椅子に座っている以上ギルドマスターなんですよ。それを自覚してください。そしてギルドマスターとは、このギルドで働く全ての職員たちを統べる者だ、その責任は俺ではなくあなたが背負うべきものです」

「しかし……」

バリザスは顔を歪めてうつむく。

「なんですか?」

「わしは……正直わからん。『冒険者と町の人たちの事を第一に考える』『頼りにされる冒険者ギルド』『部署同士の連携を密にする』『ギルド職員として出来る事を模索する』、これらの意見はどれも良いことのように思えてしまうのじゃ。一つにすることなどわしには出来ーーー」

「出来ないんじゃない。やるんですよ」

バリザスの言葉を遮って俺は断言する。

「どんなに困難でも、難しいことでもやるんですよ。あなたはそれをする義務がある」

バリザスは表情を固くした。俺はゆっくりと息を吐く。

「別に今決めろなんて言ってませんよ。今回は議題を提案し、俺の意志を示したかっただけです。俺からは以上です」

そして俺は席に座る。バリザスはを見ると、尚も険しい表情を崩すことはなく何かを考えているようだった。


たっぷり悩めよ?このギルドのためにな。


それは、俺の思い描いた通りの展開である。最初このギルドの改革を考えたとき、一番の問題はトップであるギルドマスターがあまりにも無能であることだと結論付けた。

現在バリザスと俺は、『ランク外侵入』の対策案をめぐって、とある賭けをしている。もしもランク外侵入が一年以内に出たなら俺がギルド職員を辞め、出なければバリザスが辞めるというものだ。俺は負けるつもりなどなく、いずれバリザスはギルドマスターを辞める人間だと思っている。だが、一年という時間はあまりにも長い。ギルド改革はそんなに悠長にやるつもりはない。ならば、今のギルドマスターに少しでも変わってもらうしかないと考えた。『ギルドの方針』を決めることは大切な事だ。そして、トップの意識を変えることはそれよりも重要な事だ。

まずは、ここから始めなければいけないと思った。


「……テプト部長からは、ギルドマスターに委ねるとありましたが、他に意見は?」

ミーネさんがタイミングを見計らって、切り出した。

各部長たちは顔を見合わせていたが、意見が出ることはなかった。

「ではそのようにします。テプト部長、それで良いのね?」

「そう言ってるじゃないですか」

「……わかったわ。では、これにて会議を終了します」

ミーネさんは締めくくった。




「……やはり私の意見は無視なんですね……クックックッ」

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