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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
問題だらけのギルド編
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九十一話 会議その四

「……このギルドを改革するじゃと?」


バリザスが半笑い気味に呟いた。


「そうです。なにかおかしいですか?」

笑顔で問いかけてやる。

「おかしいもなにも、お前はただのギルド職員じゃろう。そんなことが可能だと思うておるのか?このわしでさえ、ギルドを変えることなど不可能だというのに」


不可能?その言葉に俺は思わず吹き出しそうになった。

「ギルドマスター。あなたはかつてSランクまで上り詰めた冒険者だというのに、そんな言葉を口にするんですね?」

バリザスは苦虫を噛み潰したような表情を見せる。

「……冒険者とギルド職員は違う」

「決めつけているのはギルドマスター本人では?」

「はっ……とうとう頭がおかしくなったか?」

「もうあなたの戯れ言には付き合いませんよ。俺は決めました」


俺は、心の何処かで遠慮していたのかもしれない。それは、今までの俺自身がどうしようもなくアホであり、救いようのない馬鹿だったと思っていたからだ。

俺は自分に自信がなかったのだ。


だから、目の前に横たわる腐敗しきった問題に、真正面から向き合っていなかったのだ。今まではその場しのぎの方法でなんとかやってきた。だが、根本的な解決を目指さなければ、何かを変えることなど出来はしない。


気づいたつもりになって、本当にしなければいけない事を放棄していた。それは、この会議室内にいる部長たちも同じなのだろう。

『自分は精一杯やってきた』

それをいくら主張しようとも、結果が伴っていなければ意味はない。


なぜその事に気づかなかったのか。


「これからは遠慮なくやらせてもらいます。覚悟していてください」


その言葉にバリザスは何かを言おうとはしなかった。



「テプトくんのやりたいことは分かったわ。その事は後にしましょう。話が逸れてしまったけれど、会議を再開するわね。ランク外侵入の続き、お願いしても良いかしら?」

ミーネさんの言葉で、会議室内の空気が落ち着きを取り戻す。

「あぁ、そこの冒険者の二人だけど」出ていこうとしたカウルとソフィアを、ミーネさんが呼び止めた。「本当にダンジョン50階層のアイテムを手に入れたのなら、あなた達のランクも考え直さなければいけないわ。たとえ、それがテプトくんの功績であったとしてもね?だからここに残ってもらえるかしら?」


「でも、私は……」

何かを言いかけたソフィアだったが、すぐに考え直したのか「わかりました」そう言って会議室内に入ってきた。カウルと共に、隅の方でヒルの横に並んだ。


「あのー…私はどうすれば?」

「戻っていいわよ。あなたには仕事があるでしょう?」

「ですよねー」

セリエさんは、ミーネさんの言葉で退出した。あの感じだと、残りたかったらしい。彼女にはあとで報告しよう。


「『称号制度』……についてだったわね?」

「そうです。では、具体的な取り組みを提案させていただきます。書類の四枚目を見てください」

紙をめくる音が聞こえる。

「……癒す者…だと?」

呟いたのは安部の部長だった。

「そうです。栄えある最初の『称号』として、提案させていただくのは『癒す者』つまり、回復魔法の称号になります」

「…回復魔法か」

「実際に使える冒険者は少ないかと思われます。ですが、使える者がパーティにいれば、冒険者の生存率が上がることは間違いありません。基準としては、身体回復魔法、魔力回復魔法、その二つを使える事が最低条件となります。また、そのための訓練や研修なんかもこちらで企画したいと考えています」


それは、エルドが考えた提案だった。というのも、安全対策部では冒険者が安全に魔物と戦えるよう、様々な取り組みを行っている。防具の開発や武器の発展なんかもそのうちの一つだ。だが、彼等の取り組みは手の及ぶ範囲が限られている。所詮身を守るのは冒険者自身でありギルド職員ではないのだ。

回復魔法で生存率を上げるというのは単純な考え方かもしれないが、だからこそ効果がある。


「訓練や研修とはなんだ?」

執拗に聞いてくる安部の部長。てっきりエルドが話しているものとばかり思っていたが、そうではないらしい。

「まずは回復魔法を実践形式まで使えるよう、希望者を募って魔法の訓練を行います。また、ある程度のレベルに達した者には町の診療所へと派遣して実際に回復魔法を実践してもらうんです。闘技場への派遣も考えていますが、企画部部長は良いですか?」

「……医療班が充実するのは良いことです。クックック」

ローブ野郎は承諾してくれた。

「その全過程を終了した者に『癒す者』の称号を与えます」


「そういうことか」

安部の部長は納得してくれたようだ。

「診療所への研修は、向こうが引き受けてくれた時のみ行います。回復魔法は特殊魔法ですから、おそらく本職の方々には叶わないでしょう。中途半端に回復魔法を扱える者を派遣しても、足手まといが関の山ですからね」


魔法には大きく二つに分類される。基本的な属性魔法と、特殊魔法である。魔力を持って生まれた者は、魔法を使うことが出来るが全ての魔法を使えるわけではない。

属性魔法とは魔力により現象を生み出すものだが、特殊魔法は魔力を操り既に在るものを変化させる魔法である。


魔力の使い方が根本的に違い、魔力を操るというのは適正が無ければ出来ないため、そういった魔法を総称して特殊魔法と呼んでいた。


だが、特殊魔法は訓練次第でどうにでもなることを、俺は冒険者時代に発見している。

その過程で特殊魔法というのは、万能型が覚えやすい魔法だということにも気づいていた。それは魔法だけではなくスキルも関係してくるからなのだが……それはおいおいやっていくか。


「以上が『称号制度』の説明と、具体的な取り組みの案になります」


「称号はそれだけですか?」

アレーナさんが疑問の声をあげた。

「今のところは。今後はもっといろんな分野での称号を考えていきます。」

「…わかりました」



「他に質問はないかしら?」

ミーネさんが呼び掛けたが、誰も何も言わない。この時点で俺はこの対策案が通ることを確信していた。だが、もう一押しやっておくか。

「先に言っておきますが、反対するならちゃんと理由を述べて下さいね?まぁ、その意見も完膚なきまでに叩き潰す準備は出来ていますけどね」


嘘である。準備などしていない。しかし効果はあったようで、みんなの顔に緊張が走ったのが分かった。


「……良いか?」

手をあげたのはバリザスだった。どうやらこの流れがマズイと感じ始めたらしい。

「どうぞ?」

「この案を実行することによって、本当にランク外侵入が防げると思うておるのか?」

バリザスは少しだけ前のめりに聞いてきた。

それは、鋭い意見だった。正直に言ってしまえば、答えは『分からない』だ。そもそもこれは、ランク外侵入を防ぐための案ではなく、原因を取り除くための案なのだ。防げるかは分からないのである。


しかし、ここでそれを言うわけにはいかなかった。

「それは、ギルドマスター自身の目で実際に確かめた方が良いんじゃないですか?」

呆れ気味の演技でそう言ってやる。それにバリザスは少しだけニヤリと笑った。

「あのときの言葉は忘れておらぬじゃろうな?」

バリザスとの賭けのことだろう。忘れるわけがない。

「もちろん」

バリザスは笑みを浮かべたまま、背もたれに全体重を預ける。

「ならば、わしから言うことは何もない」


それは実質、ギルドマスターの承認を受けたにも近い発言。

「では、この案に賛同の方は手を挙げて下さい」

ミーネさんの言葉に、全員が手を挙げた。各部長だけで良いのに、なぜかカウルとソフィアまで手を挙げている。


可決である。


「はぁ…やっと本部から帰ってきたと思ったら、また報告事項?」

ミーネさんが愚痴をこぼす。

「頼りにしてますよ、ミーネさん」

「移動だけで結構疲れるのよ?」

言いながらも、なぜかミーネさんの目は穏やかだった。

「どうかしたんですか?まるで子供の成長を見守る母親の目をしていますよ?」

「なによその例え?言っておくけどテプトくんみたいな性格の子を、私が育てられるわけないじゃない」

「もしかしてけなしてます?」

「褒めてるのよ。いえ……呆れてるのかしら?」

どっちだよ。

「あと、一つだけ言っておくわね」

「なんですか?」

「バリザス様をあまり虐めないでやってくれる?」

「むっ!?」

バリザスが面食らった表情をした。……これは恥ずかしいだろうな。

「なぜ、ミーネさんはそんな奴に付き従っているんですか?」

彼女は少し考えた素振りを見せた。

「秘密よ。機会があればいつか話してあげる」

それは俺にとって大きな謎だったのだが、教えてはくれないらしい。

「さて、テプト部長の提案は以上かしら?」

「はい」

「なら、最後の議題ね。そこの二人……ソフィアさんと言ったかしら?もしも『幸福のペンダント』を取得しているのなら、あなたのランクを考えなければいけないわ。そのアイテムはとても強力だから」


視線をソフィアへと向けるミーネさん。

「私としては、そこの冒険者の方よりも、それを援助したテプトさんの事が気になりますねぇ」

ハゲが言い、興味津々の視線を俺に向けてきた。

「そういうのは後になさい」

ミーネさんが制す。

「50階層でのアイテムを取得したら無条件でSランクじゃないのか?」

安部の部長が意見する。

「ですが、今回はテプトさんが殆んどダンジョンを進んだようなものですから、安易にSランクに上げるのはどうかと」

アレーナさんも意見した。

「確かにそうだが、そういったアイテムを取得した者はもう冒険者規定では測れないというのが、事実であろう?」


ソフィアのランクについてどうするかの議題が始まった時だった。

「あの!!」

突然ソフィアが声をあげる。


「……どうかしたの?」

ミーネさんの言葉に、ソフィアは一回深呼吸をした。

「あの!……私のランクについてですけど、言っておきたいことがあります!」


「……なにかしら?」


「私!冒険者を辞めます!だから、ランクも考えてもらわなくて大丈夫です!」




さすがにその発言には驚いた。みんなもそうなのか、目を見開いている。隣にいるカウルなど、固まってしまっていた。












会議自体はもう一話続きますが、内容としてはこれで終了となります。

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