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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
問題だらけのギルド編
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九十話 会議その三

扉から入ってきたのは、カウルだった。

その時、部屋の隅に立っていたヒルが会議室の卓上を飛び越えて、いきなりカウルに飛びかかった。その手には、いつのまにかダガーが握られている。

カウルがそれに反応し、ダガーを握る手首を掴んでヒルを止めた。

「なにごと!?」

遅れてミーネさんの怒号が飛ぶ。


「止めろヒル!」

今にも戦闘を始めそうな二人。俺は強い口調でヒルを制した。


睨み合う二人。やがて、ヒルが先にその表情を崩した。


「いきなり入ってくるから襲撃かと思いましたよ」

ヒルは言いながら、握っていたダガーを放す。その行動に応じてカウルもヒルの手首を放した。

「さすがは冒険者ですね。敵いそうにありませんよ」

掴まれていた手首をさすりながら、ヒルは俺の横まで移動してくる。

「戦闘は苦手じゃなかったのか?」

「やれと言われればやりますよ。出来ればそうならないようテプト部長にはお願いしたいところですがね」

ヒルはそう言うと肩をすくめて見せた。それなりに戦闘は出来るようだった。

「あなた、ここは関係者以外立ち入り禁止よ」

ミーネさんが近づいてくる。俺にはカウルが来た理由がなんとなく分かったが、これは少し強引過ぎる気がする。

「ちょっと…カウルくん」カウルの後ろから、今度は息を切らしたセリエさんがやって来た。「勝手に入っちゃ…ダメじゃない」

膝に手をついて息を整えるセリエさん。その後ろにはソフィアもいた。

二人はダンジョンから戻ってきたのだろう。

カウルが俺を見つけて歩み寄ってくる。

「ちょっと?」ミーネさんが止めようとしたが、それを無視して真っ直ぐに俺の前に立った。

「すまない、遅くなった」

「別に約束してたわけじゃない。こんな所にまで来なくて良かったのに」

「だが、依頼はこの会議のためのものだったのだろう?」

「そうなんだが、無理しなくても良かったんだよ」

カウルにそう言って笑いかけたが、カウルは真顔のままだった。真面目だよなぁ。

「これが依頼の報告書だ」

それからカウルは懐から十数枚にも及ぶ紙の束を出す。

「ありがとう。ちなみに検証結果はとうだった?」

「戦闘はソフィアにやってもらった。20階層までの魔物は最低魔力で一撃、もしくは二撃以内で倒せる。魔法も中級魔法で十分だった」


ということは、ダンジョンのランク分けは正確だということになる。あくまでCランクでの範囲内だが。

「テプトくん、どういうことなの?」

ミーネさんが詰め寄ってくる。さすがに説明は必要だろう。

「彼等に、ダンジョンにおけるランク分けの検証を依頼していました。その結果が今届いたところです」

「ダンジョンのランク分け?」


「ランク外侵入の対策を考えているとき、そもそもランク分けが不適切なのではないかと考えました。冒険者は自分の実力を把握しています。そのため、実力よりも上の階層に侵入すること事態おかしな事なんです。しかし、それを規定しているランク分けが間違いなら、間違っているのは冒険者ではなく、ギルド側ということになります。その前提を調査しました」


「……で、どうだったの?」

俺の話を聞いていたミーネさんは、落ち着いた声で言った。

「どうやら、規定は間違っていなかったようです。まぁ、調査事態は20階層までですが」

「そういうこと……なら、彼等の用はもう済んだのね?」

「はい」

「なら、退出してもらいましょう」


ミーネさんがカウルに向き直った。

「役に立ったか?」

カウルの言葉に俺は頷く。

「あぁ。とても」

「なら良かった」

それだけ言って、カウルが扉へと向かう。




「待て」



それはバリザスの一言。


「カウルとやら、お主はそこのギルド職員に暴力を振るわれたのではないか?」


「暴力?」


カウルが出ていこうとしたところで振り返った。

俺が冒険者に暴力を振るったというのは、バリザスにとって切り札のはずだ。どうやら、冒険者のこともちゃんと調べていたらしい。

カウルは少しだけ怪訝そうな表情をしていたが、やがて思い出したように「あぁ」と呟いた。「あの事か」


「なぜ奴に協力する?それとも脅されたのか?」

バリザスは、分からないとでもいうかのようにカウルに問いかける。

「脅されてなどいない。俺がそうしたいからだ」

キッパリと答えるカウル。その言葉に、バリザスは表情を険しくした。

「怒っていないというのか」

「怒る?…なぜ?俺はテプトに感謝をしている。テプトがいなかったら、俺は今頃大切な仲間を失っていた。彼は不甲斐ない俺を叱咤してくれたんだ」

カウルは真っ直ぐにバリザスを見据えて言った。その言葉に嘘は感じられず、彼の誠実さが如実に表れている。

カウルは疑問の表情を浮かべていたが、やがてハッとしたように俺に顔を向けた。

「まさか、あの事でなにか問題になっているのか?」

なっているといえばなっている。……が、その問題もカウルのお陰で解消されつつあるんだよな。それを伝えようとしたが、カウルは俺の言葉を待たなかった。

「ギルドマスター、テプトは悪くない。テプトは、俺に大切な事を気づかせてくれた。もしも、俺がそれに気づかないままだったら……」


そこで悔しげに言葉を切るカウル。会議室内に、いかようにもしがたい空気が流れた。


「話が見えてこないわね?どういうことなの?」


ミーネさんがもどかしそうに呟いた。

「私が全ての原因です」

それに答えたのは、ソフィアだった。

「ちょっと!あなたまで」

会議室に入ってくるソフィアを、セリエさんが止めようとしたが、間に合わず空振りに終わる。

「おい、話さなくて良いんだぞ」

ソフィアに言ってやる。しかし、彼女は首を振った。

「ありがとうございますテプトさん。ですが、私もあなたには感謝しています。そんなあなたが私達の事で問い詰められているのだとしたら、黙っているわけにはいきません」

「…ソフィア」

「カウルからあの日のことは聞きました。みんなの前でカウルを殴るなんて、見かけによらず熱いんですね?」

ソフィアはくすりと笑った。そして、真剣な表情に戻ると、彼女はこれまでの日々を話始めた。

自分の素性を、自らにかけられた呪いの事を、そして、復讐のことを。

会議室にいる者はみんな黙ってそれを聞いていた。

話の端々でカウルが辛そうな表情をする以外、みんな微動だにしなかった。

ソフィアの話は、あまりにも重すぎた。それを経験したことのない者でさえ反論の余地を許さないほどに。



話終えた後、しばらく沈黙が流れる。

「悪かった。辛いことを話させたようじゃな」

バリザスが口を開いた。

「今はそう思ってはいません。これまでの全てが、今の私を形作っています。確かに辛いこともありましたが、今の私はそれなりに幸せです」

ソフィアは笑顔でそう答える。そこには様々な経験を得て、心の強さを持ち合わせた彼女の姿があった。

「それを考えられるようになったのは、間違いなくテプトさんのお陰です。先の見えない闇夜を歩くような現状を、テプトさんはあっという間に吹き飛ばしてくれました。彼がいなければ、私とカウルは今頃ダンジョンで朽ち果てていたかもしれません。事件の真相を知らぬまま、呪いによって死んでいたかもしれません。彼がいなければ、私は復讐の道を選んでいたかもしれません。でも、そうはならなかったんです。これって、とても凄いことじゃないですか?」


もはやそれに答える者はいない。答えなど分かりきっていたからだ。

ソフィアの言葉は素直に嬉しかったが、大層な言い方に少しだけ恥ずかしくなってしまう。

同時に、俺は自分の気持ちが、強く明確になっていくのを感じた。


「ミーネさん、先程あなたは俺がどうしたいのかと聞きましたね?」

「……えぇ」

「俺はこのギルドを良くしていきたいんです。冒険者ギルドは、冒険者だけで成り立っている組織ではないことを、この一月(ひとつき)で嫌というほど実感しました。自らの人生を賭けて冒険者をやる者がいて、それを必要とする町の人たちがいる。彼らを繋いでいるのはこのギルドで、ギルドは多くの職員によって支えられています。ですが、俺が見る限り、このギルドは問題だらけです。だから不満が生まれ、それがつもり積もって最悪の事態を招いてしまう。今のギルドで働く者たちは幸せなんですかね?そう疑問に思いますよ。万能型だとか、本部がどうだとか、過去に前例がないだとか、そういったつまらないことで、大切な事を見失っている気がします。……とはいえ、俺もそうだったんですがね」


そうなのだ。みんな常識に囚われ過ぎている。そしてそれを理由に、諦めているのだ。才能がないからなんだというのか?世界がそうだからなんだというのか?


才能があったとしても、出来ないことはたくさんある。だが、出来ないなりにもやり方などいくらでもある。


大切なのは諦めない事だ。例え上手くいかなかったとしても、それを思い続けた日々はやがて自らを助けてくれる。


もしも俺が諦めていたら、きっとカウルとソフィアを助けに行くことはなかった。ギルド職員がダンジョンに入らない常識ぐらい、俺でも知っている。だが、助けられると分かっている以上、それをしないのは許せなかった。


『間違っている』ここに来てから何度も聞いた言葉だ。だが、全力を尽くした結果に間違いなどあるはずがない。


なら、これからも俺は自分の信じた道を歩むしかない。

「俺は、この冒険者ギルドを改革します」


その言葉に、その場にいた全ての人間が息を飲んだ。












会議の話は、もう一話追加します。

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