九話 二日目
タウーレンに来てから二日目。俺は旅人が宿泊する宿屋に泊まっている。今度の休みは、住むところを探さないとな……って、俺の休みっていつなんだ?
まぁ……いいや。時間はあるしのんびりいこう。
そんなことを思いながら朝食を済ませて、冒険者ギルドに向かった。今日はまず昨日の依頼報告か。
「おはようございまー……」
ギルドに入ると、なんと朝の朝礼が行われていた。前に立っているのはミーネさんである。えぇ? 聞いてないんだけど。そんなもんがあるなら、先に説明してくれよ。俺完全に遅刻じゃないか?
皆の視線が一斉にこちらに向いた。
「テプトくん?遅刻よ」
ミーネさんが当たり前のように言い放つ。それには返す言葉もない。ならば、もういっそのこと開き直ってやろう。俺は悪くない。悪いのは、説明をしてくれなかったミーネさんなのだと言ってやるのだ。
「何か言いたいことは?」
ミーネさんの威圧に一瞬たじろいだが、息を吐いて持ち直す。そして、まっすぐにミーネさんに向かって歩いた。
自然と脇にそれるギルド職員達。
俺はミーネさんの前に立つ。彼女は依然として俺の言葉を待っている。蔑むような視線は、何故だか俺の背筋をゾクゾクさせた。
「悪いのは……」
言うぞ! 言うぞ!! 言うぞ!!!
「悪いのは?」
「おっ……俺です。すいま……せんでした。どうか、お仕置きで許してください」
くそっ。やはり無理だった。ミーネさんの視線は、今まで戦ったどの魔物よりも威圧的だったのだ。この人本当に人間かよ?なんでこんなに怖いんだよ?
ミーネさんはため息をつく。
「まぁいいわ。私も説明してなかったしね?今日は許してあげるわ」
「ミーネ……さん」
飴と鞭の使いわけ、マジぱねっす!!
「おい、あの新人すげーな。自らミーネさんにお仕置きを所望しに行ったぞ」
「あぁ、普通の肝っ玉じゃ出来ねーよ。末恐ろしいな」
「とりあえず、許されて良かった。お仕置きされてたら、恨むところだったぜ」
そんな声がギルド職員の中から聞こえたが、俺は感動のあまり、よく聞いていなかった。
朝礼とは至って簡単なものだった。時間にしても、15分足らずのものだ。終わると皆、それぞれの持ち場に戻る。
俺は部屋へと行くと、まず制服に着替えた。それから、引き出しにしまった昨日の依頼書を出して、受付へと持っていく。冒険者はまだ誰も来ていなかったので……というか、まだ冒険者受付の時間帯でもないし、依頼人も来ていない。これなら大丈夫だろう。今度から依頼の報告は朝一にやろう。
「おはよー。テプトくん」
複数ある一つに、セリエさんの姿があった。
「おはようございます。セリエさん」
「朝は災難だったね? もしかして私のせいだったりする?」
「いえ、俺の責任ですよ。気にしないでください」
「なら良いけどさ。で、依頼の報告書?」
「はい。今でも大丈夫ですかね?」
「うん。まだ誰も来てないしね」
「それは良かった」
そう言って、俺は昨日達成した依頼書の束と、討伐の証である魔物の部位を置いた。
「うわ。これ全部テプト君が?」
「はい。とりあえずは。あと魔池の調査報告書は、今日中にまとめるので明日になります」
「そうなんだ?……というか、この量は普通の冒険者でも持ってこないわね」
「内容が簡単だったからですよ」
「そうなの? ……だってこの4枚だけでも、夜にやったって事よね?」
「はい」
「暗黒草ってそんな簡単に見つけられるものだったかしら?」
「簡単ですよ。それだけなら半時もあれば出来ますし」
「それにこの救出依頼……2枚もあるんだけど!?」
「あぁ、それは俺の友達に協力してもらったんです。俺一人なら無理でしたよ」
「あれ? 私が間違っているのかしら?」
「いえ、セリエさんはいつだって正しいです」
主に、性格において。
「あっ、ありがとう。それじゃ、これは依頼達成として処理するわね? それと報酬なんだけど、ギルド職員には出ないのよ」
なんだ、そんなことか。
「大丈夫ですよ。別に報酬目当てじゃないですから」
「そう言ってくれると助かるわ。今度またご飯行こうね?」
「えぇ、いつでも」
「ふふっ」
セリエさんは嬉しそうに笑った。思わずそれに俺も笑ってしまう。
「それじゃ、やることがあるので」
「頑張ってね? 期待の新人君」
そして、セリエさんと別れた。部屋に戻ってから、『魔池の報告書』を作成する。原因が、ただの精霊の引っ越しだったので、そんなに時間はかからなかった。それを引き出しにしまうと、俺は次なる案件を取り出す。
「あとは……『冒険者の不正取り締まり』と『ランク適正試験』か」
見れば、ランク適正試験は、二日後となっている。ならこれは後回しだな。もう一方の『冒険者の不正取り締まり』の案件を取り出す。
「なになに? ……『近頃頻発している窃盗事件の犯人が、ギルド内の冒険者の可能性について』」
それは現在、タウーレンで起こっている事件について書かれていた。犯人は夜覆面をして、道行く人の懐から財布を盗んでいく。目撃者によると、その姿は冒険者っぽく、かなり手慣れた犯行であるとのこと。
なるほどねー。まぁスキルに『窃盗術』があれば誰でも出来るしなー。冒険者を装った犯行とも考えられる。これで冒険者と決めつけるのもどうなんだろうか。……これは、現場を押さえるのが一番だな。冒険者の皆も、町の人からそんな目で見られるのは嫌だろう。今夜囮捜査だな。……ってことで次。
それから二枚目に目を通す。
『ギルドの受付に並ぶ冒険者の態度について』
やはりか。……あれはどうにかしないといけないよな。
書類には、どうやって冒険者に順番待ちを守らせるかを、中心的に書かれていた。
まぁ、根本的な問題は冒険者の割合に対して受付が少ないことなんだよな? だから、いざこざが起きる。書類の内容には、順番待ちの喧嘩で損害した金額なんかも載っていた。
「これは早急に解決しなきゃいけないな」