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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
問題だらけのギルド編
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八十六話 称号

冒険者がパーティを組む一連の流れは、パーティのリーダーが有望な冒険者に声をかけるか、パーティに入りたい冒険者がリーダーに頼むという形が普通になっている。


パーティに関する規定はない。元の世界に例えると、学校のクラスメイト内で、グループを形成するのと似ているかもしれない。

気が合う者同士が集まり、共に戦う約束をする。気に入らない者は弾かれ、逆に才能のある奴はグループに引き入れられる。そう考えると、冒険者パーティというのはただの仲良しグループであり、仕事をする仲間なのかと問われれば怪しいかもしれない。

もちろん、中には違うパーティも存在する。魔物と対峙する上で、自分達に何が足りないかを分析し、それに見合う冒険者を仲間として引き入れるパーティもある。しかし、そんなパーティは圧倒的少数だ。

そして一番の問題は、仲間に引き入れる条件というのが、『強い者』という一点だけという所にある。


冒険者は『強さ』が全てと言われる所以もそこにあった。強い冒険者は、多くの者に必要とされるからだ。


そして、強さの基準は『魔力』に置き換えられる。

強い魔法を使える者。そして、魔武器の扱いに長けた者こそ、周りから強者として認められる。


にも関わらず、その実力を知らぬままに『強さ』を決めつけてしまう風習が冒険者達の中には確かに存在した。


その一番の被害者は『万能型』と呼ばれる者達かもしれない。


俺達が彼等にしなければいけないことは、正しい強さを測ること。それを目に見える形で示してやること。そして、『強さ』以外にも、仲間として受け入れる条件を示してやることだ。


たった一度だけでも、依頼やダンジョンで失敗をすれば、万能型でなくとも、周囲から『弱い冒険者』として認識されてしまう。彼等はたった一度のつまずきによって、パーティを組むことが出来なくなり、最終的に『ランク外侵入』をしてしまっていた。

もしかしたらそれは、周りを見返すための彼等なりのやり方なのかもしれない。



冒険者とは意外に鬼畜な職業なのだ。それは、失敗が死と直結してしまう職業だからに他ならない。それでも冒険者を目指す者は後を絶たなかった。魔物を倒すことさえ出来れば、他の職業よりも多くの金を手にすることが出来るからである。


「で?冒険者がパーティを組みやすいようにどう支援するんだ?」


冒険者管理部。その部屋で俺とエルドは話し合いを行っていた。

「冒険者一人一人の情報を細かく作成して、その冒険者がパーティに入ったとき、どんな利益があるのかを目に見えるようにする」


「目に見えるようにする?例えば?」

エルドは首を傾げた。

「分かりやすい例なら、冒険者のスキル、使える魔法を全て書き出して、さらにどういった戦い方が得意かを詳細にします。それを一枚の紙にまとめて、入りたいパーティのリーダーに渡すんです」


「なるほど、後はリーダーがその紙を見て、パーティに必要かどうかを判断するわけか」


「紙はギルド側で発行します。その情報が正しければ正しいほど、彼等はパーティを組みやすくなるはずです」


冒険者がパーティを組めないのは、噂や見た目などの先入観が邪魔をすることが多い。その冒険者にたいする正しい情報が何もないから、断られてしまう。


これは、俺の経験によるところが大きい。もしもそんな制度があったなら、俺は今も冒険者をやっていたかもしれない。そこまで考えてから、そんなわけないか、と思い直す。あの頃の俺が、上手くパーティを組めたとしても長続きしたと思えないからだ。自らの願望だけを押し付け、否定されれば諦めてしまう、そんな俺がパーティ内で上手くやっていけたとは考えにくい。


「だが、問題があるな。冒険者が自分の情報を教えてくれるとは考えにくい」

エルドは腕組をして唸った。


そう。冒険者は基本的に自分が修得しているスキルや魔法を他人に教えないのである。自らの情報を、簡単に他人に教える奴は馬鹿だとも言われていた。


「ですから、記載する情報はスキルや魔法じゃありません」

俺はゆっくりと告げる。スキルや魔法を教えられなくても自らを証明することは出来る。


「ん?……スキルや魔法じゃない?」


「記載するのは、『資格』です」



「資格?」


「資格というのは分かりにくいので、『称号』とでも言い替えましょうか。ギルド側で様々な称号をつくり、最終的には『冒険者の指標』をつくってしまうんです」

エルドは眉を寄せた。

「お前の話は分かりづらい。もっと他人に分かるように話せ」

怒っているように見えたが、早く内容を理解したいという焦りにも見える。俺は思わずニヤけてしまう。


「冒険者に必要なのは強さだと言われてますが、俺は正直それだけじゃないと考えています。冒険者が受けられる依頼は、魔物と戦う物ばかりではないですし、ダンジョンにおいても、戦い以外に必用な能力は沢山あります。例えば、ダンジョンを探索する能力。これには方法が色々あって、地図を使用する者や、スキルを使用する者。魔力探知に長けた者なら魔素を頼りに進む者もいます。例えば『探索者』という称号を作って、その基準に満たした者に称号を与えれば、パーティーのリーダーは、ダンジョン探索が得意という情報だけを知ることになり、その冒険者の能力がバレてしまう事はないんですよ」


「つまり、出来る事だけを記載するわけか」


「そういうことです。そして様々な分野の称号をつくり、強さだけが冒険者の資格ではないことを周知させるんです。戦いが苦手なもの者でも、得意分野を極めれば冒険者としてやっていける事実を作ってしまうんですよ。冒険者の指標とはそういうことです。自分がどこに向かって努力をするべきかの選択肢の幅を広げて、その能力を有効的にパーティで発揮してもらうわけです」


ローブ野郎が言っていた。

大切なのは一つ一つの長所を見極めること。そうすれば、目的に合わせた最高の組み合わせを作ることができる、と。

冒険者の情報が明確に分かれば、パーティを組みやすくなるし、リーダーも理想のパーティを作ることが出来る。あとは、その情報を魅力あるものにするため冒険者自身が頑張ればいい。


「最初はこのギルドだけで通用する称号だけですが、いずれは全ての町の冒険者ギルドで通用する称号をつくりたいと思っています。そうすれば、他の町に移動してもパーティで苦労することはないはずです。現在、冒険者の情報はランクしかありませんから、ランクが低い冒険者でも自分の能力を簡単に証明することが出来るようになるわけです」


「なんだか凄い規模で話が広がっていくな。だが、悪くない。もしも本当にそんなことになっちまったら、冒険者という職業に革命が起こるぞ!」


エルドは興奮気味に言った。

まぁ、実現出来ればの話だ。課題はいくつもある。

まず、『称号』をどうやって決めるか。そして、それを与える条件や、ギルドで試験をするのか、など。だが、やる価値はある。


俺は冒険者時代に、『万能型』という一点だけでパーティを断られた日々を思い出していた。


やる価値は確かにあるのだ。


「まずは一つ『称号』をつくりましょう。それを対策案に組み込んで、この案の有効性を具体的に分かりやすくします」


「俺達でつくるのか?記念すべき最初の称号を?」

エルドの声は上ずっていた。

「当たり前じゃないですか。他に誰が居るんです?」


「そうか……そうだよな。これは難題だな。しょうもない称号をつくって、『それは冒険者に必要か?』と言われちゃダメだもんな」


「大丈夫ですよ。俺達は冒険者ではありませんが、彼等の事を考えて仕事をしてきました。なら、彼等に必用な事もおのずと見えてくるはずです」


「テプト……」


「魔武器の開発だって、そういった事が分かっているから出来るんです。結果はどうあれ、俺達ならやれますよ」


「……お前には驚かされっぱなしだな。なんだか、お前がここに派遣されてきたのには、何か大きな理由があるんじゃないかと疑うぞ?」


その言葉に俺は首を振る。

「ただの偶然ですよ。それに俺はそんな人間じゃないです。褒めてくれるなら、この案を会議で通したあとにしてください」


全ては結果だ。いくら良い案を思い付いても、現実のものとしなければ意味はないのだ。

いくら能力があっても、冒険者として大成できなかったように。








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