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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
問題だらけのギルド編
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八十四話 ローブ野郎の指摘

エルドはおずおずと、抱えていた箱を机に置いた。

「これはなんですか?…グッグッ」

「これは今、安全対策部で開発中の魔武器です。魔法陣を組み込んで飛距離を伸ばした弓なんですが、どうしても魔法陣が邪魔で使いづらくなってしまいます」


「なるほど…拝見しても?」

「お願いします」

ローブ野郎が箱を開ける。中には一つの弓が入っていた。見た目はクロスボウであり、矢を設置する簡易的な台みたいなものがある。そこには、いくつもの魔法陣が刻まれていた。しかし、その台はかなり大きく、ゴツい。弓なんかよりも、鈍器としての扱いが有用そうである。


「グッグッグッ……こんなのは初めて見ましたよ。発想は悪くないんですが、やはり魔法陣が活かされていませんね?」


「一応、魔法に精通する職人によって造られています。問題点があれば教えていただきたい」


そこから、ローブ野郎の容赦ない攻撃が始まった。


「グッグッ……では、まずこの魔法陣、要りませんね」

「どれですか?」

「この『浮遊』の魔法陣です」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

そう言うと、エルドは紙を取り出してメモをしだした。

「理由を聞いても?それを足した事によって、矢の飛距離が伸びたんですが…」

「グッグッ…これの実践テストはやりましたか?」

「はい」

「…普通の弓より威力が弱かったのでは?」

エルドは目を見開いた。

「そうです」

「発射されたときの威力を、この『浮遊』が阻害しているのですよ。飛距離は伸びるかもしれませんが、威力はなくなりますね…グッグッ…もしも刻むなら、純粋に風魔法を付与する魔法陣だけでいけそうですよ…グッグッ」

「なるほど」

「それをすれば、この『硬化』の魔法陣も要りませんね…グッグッ」

「最初は威力を上げるため、矢じりの位置に『硬化』の魔法陣を刻みました。ですが、それをすると飛距離が失われたので、『浮遊』を付け足したんです」

「グッグッ…実に効率の悪いやり方ですね。目的と魔法陣の用途がチグハグです。あと、なぜこの弓自体に『強化』の魔法陣があるのです?」

「耐久性を上げるためです。目指しているのは剣にも劣らない、これだけで魔物を倒せる弓です。ですが、弓が壊れてしまっては丸腰になってしまう。弓の素材自体を変える案もありましたが、それをすると弓が重くなり、扱いづらくなってしまう。それを、補うために『強化』の魔法陣を刻みました」


そういうことか。


「グッグッグッ…実に面白いですね。そういえば、テプトさんは冒険者をしていたのですよね?」

ローブ野郎が急に話を振ってきた。

「そうですが?」

「この弓が完璧な物だったとして、これ一つで魔物に立ち向かいますか?」


俺は少し考えたが、正直考えるまでもない。

「いえ、絶対他の武器も持っていきますね」

「グッグッ…そうでしょう。パーティならあり得なくもないですが、一人で魔物と対峙する場合、弓はあくまでも補助手段です。弓だけを使う者がいるとすれば、それは弓の名手だけでしょう。しかし、私がもしも弓の名手ならば、こんな小細工じみた弓ではなく、ミスリルのみで造られた弓を持っていきますね。グッグッ…その方が魔物を倒せますから。そのためのスキルは、既に修得してしまっているのですよ。そもそも、そこまで弓のスキルを極めた冒険者がいるとも思えませんが……彼等はスキルを修得しづらいですからね…グッグッ」


「つまり、この弓は目的自体を間違えていると?」

「そうですね…グッグッ。弓だけで魔物を圧倒するというのは面白い発想ですが、それを実現するために負担を掛けすぎているのですよ」


「そう…でしたか」

「やるのなら、もっと小分けにするべきですね…グッグッ。『飛距離のある弓』、『威力のある弓』、『耐久性のある弓』などです。これは、一つの弓に詰め込みすぎているのですよ。一つ一つは有能であっても、組み合わせを間違えると、途端に全体のバランスを崩してしまう。これは、その良い例ですね…グッグッグッ」


エルドは項垂れてしまった。容赦ないな。

そんなエルドの肩に手を置くローブ野郎。

「大切なのは一つ一つの長所を見極める事ですね。それが出来れば、目的に合わせた最高の組み合わせを簡単につくることが出来ますよ…グッグッグッ」

「…はい」

ローブ野郎の追い討ちに、エルドは完全敗北してしまった。ほんと、無意識の悪意が一番怖いな。


しかし、ローブ野郎も良いことを言う。

大切なのは一つ一つの長所を見極める事か。それが出来れば、最高の組み合わせをつくる……事が……。





「ありがとうございました。また、懲りずに相談に来ても良いですか?」

「グッグッグッ…いつでもどうぞ?」

「では、失礼します。テプト帰るぞ……テプト?」

「グッグッ…どうしました?テプトさん。私の顔に何かついていますかね?」



そうか、そういうことか。


「テプト、どうした?なんで笑ったまま固まってるんだ?おーい?」


「エルドさん…分かりました」

「なにがだよ」

「冒険者が、パーティを組みやすいように支援する方法です」


「なんだと?」


俺の頭の中では、みるみるうちに『ランク外侵入』に対する案が組上がっていった。


「必要な『ピース』は、最初から揃ってたんですよ。無かったのは、それの『組み合わせ方』だったんです」


「詳しく説明してくれ」

「はい、その前に急いでギルドに戻りましょう。あとは詰めるところを詰めないと」

それから俺はローブ野郎に向き直った。

「ありがとうございました。お陰で、良い対策案を思いつくことが出来ましたよ」


「グッグッ……よく、分かりませんが、力になれたのなら良かったです」

ローブ野郎は、笑みを浮かべた。


俺とエルドは急いで、闘技場を後にした。



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