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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
問題だらけのギルド編
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八十三話 やはり危ない奴

「なるほどな。そこは確かに盲点だったかもな?なにせ、パーティに関しては冒険者に任せてある。相性とか人柄とかの問題があるからな?そこまで立ち入った事が出来ないんだろう」


闘技場に向かう途中、俺はエルドに新しい案を話した。

「じゃあ、俺の考えていたランク見直しは的外れだったって事か?」

そう呟くエルド。

「そんなことはないですよ。それに対策案の手数は多い方がいいので、そっちも同時進行でやりますよ。あと、そういった調査は対策に限らず定期的にやった方が良いと思いますからね?……そういえば、調査の依頼はどうなりました?」


「まだ誰も受けてなかったな。なにせ、ランク適正に合わせた魔物討伐だしな?数もそれなりに倒さなきゃ検証にならない。面倒臭さが依頼書から滲み出てたよ」


「ちなみに、検証討伐数は何体に設定したんですか?」


「とりあえずCランク五十体で出してある。それよりも上のランクは受けられる冒険者パーティ自体が少ないから、まずはCランクからだな?」


「うわぁ……しかも、一体一体の戦闘記録もつけるんですよね?…受ける冒険者居いますかね?」


「わからん。案外早く未達成依頼として、お前に回ってくるかもな?」

「だから、俺はギルドマスターとの約束でダンジョンには入れないんですって」


そんなやり取りをしていると、目の前に闘技場が見えてきた。

門番の兵士に声をかけて、取り次いでもらう。中にはすぐに入ることが出来た。今日は何もイベントはやっていない筈なのに、多くの人間たちが走り回って忙しそうにしている。

なにかあったのか?そう思いながら歩いていると、ローブ野郎は闘技場の隅っこにいた。


「こんにちは」

声をかける。

「これは……テプトさんじゃないですか…クックッ」

相変わらずだな。

「…そちらは?」

「はじめまして、安全対策部の副部長をしているエルド・スプランガスです」

「…そうですか」

素っ気ない態度をとるローブ野郎。だが俺は知ってるぞ?それが極度の人見知りからきていることを。

「…とりあえず中へ」

そう言って闘技場の階段を上がるローブ野郎。


「おい、この人大丈夫か?」

小声で話しかけてくるエルド。

「見た目だけですよ。中身は普通ーー」

じゃないな。

「話は通じる人ですから」

「今なんで言い直した?」


関係者しか立ち入ることが出来ない扉に入ると、中は細い通路になっていた。その中の扉の一つに『企画部』と書かれた札がかかっている。

「…どうぞ」

ローブ野郎はその扉を開けて中に入る。そこはあまり広くない部屋だが、机と椅子が置いてあり、壁際の棚には沢山の魔道具が並んでいた。中には見たことのない文字で書かれた本なども並んでいる。

「地下の部屋はどうしたんです?」

「…研究室ですか?ミーネさんの言い付け通り、開かずの間と化してますよ。あぁ、開かずの間になっているのは奥の召喚部屋で、手前の部屋の月光草は定期的に採ってますよ?」

そうなのか。

「あと、やけに騒がしいような気がしますが、何かあったんですか?」

「…ちょっと、修復作業に手間取っていましてね。…冒険者が闘技場に参加出来たのは良いんですが、彼等は魔法を使います。シールドを張っていても、少し建物が壊れてしまうのですよ。冒険者が闘技場に参加出来なかったのは、こういった理由があるせいなのかもしれないと、最近では思っています」

そう言って、ローブ野郎はため息を吐いた。苦労してんなぁ。

「で?今日は何の用事ですか?」

「実は相談があって来ました」

俺は、ランク外侵入を防ぐための案を模索していること、そのために魔法で何とかならないかを簡単に説明した。




「クックッ…また、厄介な問題に取り組んでますね?」

「魔法陣とかをダンジョンに設置して、ランク外侵入者を強制的に外に出すとか出来ませんか?」


「…無理です…クックッ」

即答でした。あと悪気はないのは分かるが、その笑いはイラッとくるな。


「無理…ですか?」


「厳密に言えば、今の魔法学では難しいと思いますよ?思いつくだけでもその魔法陣には、冒険者のランクを認識する魔法、起動させて強制的に外に送還する魔法が必要です。しかし、そんな高度な魔法は未だに発見されていません。あったとしてもかなり大きな陣になります。それをダンジョンに設置するのは不可能ですね…クックッ。……まぁ、『ラリエス』なら出来たかも知れませんが」



ラリエス?どこかで聞いた名前だな?……あぁ!ソフィアの父親に渡った偽物の魔晶を造った組織じゃないか!


「『ラリエス』を知ってるんですか?」

「…クックッ。そこに反応するとは意外でしたね?テプトさんこそご存知で?」

「まぁ、少し調べた程度ですが」

「私が研究員を続けられなくなったのも、『ラリエス』のせいなのですよ。彼等のせいで、過激と思わしき研究は、何でも禁止されてしまいましたからね?私の研究もそれに引っ掛かってしまったのですよ」

そうだったのか。…ということは。

「研究員を辞められたのは十年前ですか?」

「いえ、四年前です。『ラリエス』のせいで、そういった研究は現在でも取り締まりが厳しくなっているのですよ…クックッ。まぁ、そんなことで研究をやめる私ではありませんがね…クックックッ」

たくましいな。

「ちなみに『ラリエス』は、本当に無くなったんですか?」

「そう聞いています。かなり危ない実験をしていたらしいですからね…羨ましい限りですよ。人体実験なんかもやっていたらしく、組織の建物には、魔物か人か分からない生き物が沢山いたという噂を聞きました…クックッ」


言いながら笑みを深くするローブ野郎。その鼻からは、一筋の赤い液体が垂れてきた。鼻血である。

「おっと、失礼」

ローブ野郎は、部屋の隅に行って鼻に詰め物をしだした。


「…おい、マジで大丈夫なのかよ!?見たまんま危ない奴じゃねーか!」

エルドが脅えた様子で声をかけてきた。

「落ち着いてください。大丈夫ですから」




…たぶん。


「研究員の中では有名な噂がありましてね?『ラリエス』が無くなる時に、建物からその中で飼われていた実験体が逃げたしたらしいのです。奴は研究員を深く恨み、復讐の時を静かに待っているという噂です……グッグッグッ」


鼻に詰め物をしているせいで、笑いが鼻声になってんぞ。

「面白いでしょう?…グッグッグッ」

お前の笑いがな。


しかし、やはり魔法でなんとかしようというのは無理だったか。まぁ、ダメで元々だったしな。


「もう一つ用事があるんです」

「…なんですかな?」

「エルドさん」

エルドにバトンタッチをする。しかしエルドの顔は引きつっており、ローブ野郎に対してドン引きしているのが分かった。


あぁ、こうやってコイツは友達を無くしていったんだろうなぁ。ローブ野郎の昔を想像しながら、俺は何度目か分からないため息を吐いた。

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