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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
問題だらけのギルド編
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七十八話 立場逆転

「またお会いしましたな」

店に着くと、やはり前回と同じ男が出迎えてくれた。

「そういえば、また俺が来るようなことを言っていたな?予想は当たったってわけだ」

「いえいえ、皆さんにそう申し上げているのです。決して予想していたわけではありませんよ」

「早速だけど良いかしら?」

ソカが、以前にも取り出したカードを男に見せる。どうやらメンバーズカードらしい。

「はい、結構です」

男がそう言ったところで、俺は懐から金貨七枚を取り出した。

「別に良いのに」

ソカは言ったが、無視して男に渡す。

「ありがとうございます」

男はそれを恭しく受け取った。

「設定は前回と一緒で良いだろ?ソカは、『ダリアの十二番目の隠し子』。俺は『騎士団元副団長』」

「飲み込みが早いわね?」

「あとはカウルとソフィアだが…」

二人を見ながら考える。

「ソフィアは元貴族なんでしょ?だったら、そのまま別の町から着た令嬢で良いんじゃない?カウルはその付き人ね。ソフィアの本名は?」

「私はソフィア・オルノイスと言います」

その瞬間、黙って扉の脇に引っ込んだ男が反応したのを、目の端で捉える。

「あんた、何か知ってるのか?」

男は笑顔で答えた。

「いえ、何も。ただ……そこの女性は本名を隠した方が賢明かもしれません」

「やはり何か知っているじゃないか」

「とんでもない。私はここに長らく勤めています故、少しだけお客様方の世情というものを知っているだけです。オルノイスという名前は、あまり良く思われていない……それだけを知っているのです」


どうも納得いかないが、男は何も言う気はないらしく。静かに立っていた。

ソフィアを見れば、幾分気分を落としているようにも見える。

「お前が望んだ事だ。覚悟はあるのだろう?」

カウルが静かに言った。

「はい、もちろん」

ソフィアは顔を上げる。

「本名はダメそうね?なら、ソフィア・オルフェイスで良いんじゃない?」

ソカが提案する。安直すぎて吹き出しそうになった。

「はい、わかりました」

まぁ、本人がそれで良いなら問題ないか。


そして、俺達は扉をあけて中に入った。


「なんだ……ここは」

カウルは顔をひきつらせていた。だよなぁ、俺も最初来たときビックリしたもんなぁ。

ソフィアはそうでもないのか、ソカと共にスタスタとカウンターに向かっていた。店内には前回と同じくらい人がいて、どいつもこいつも着飾っていた。

「なるほどな。これでは俺の格好は浮いてしまっていたな」

カウルは呟いた。

「呆けてないで行くぞ」

見れば、既にソカとソフィアは男共に囲まれていた。出遅れた俺達は急いで彼女たちの元へと歩み寄る。


「やぁ、ソカちゃん。今夜はまた綺麗なご令嬢と一緒だね?友人かい?」

その中には、前回もいた金髪の男がいた。名前はたしか……なんだったっけ?というか、こいつ毎晩来てんのか?


「ソフィア・オルフェイスです」

落ち着いた態度で挨拶をするソフィア。うーむ、堂に入っている。その辺の事はやはり教えられていたのだろう。

「俺は…どうすれば良い?」

カウルは不安げに囁いてきた。お前は全然ダメだな。

「付き人だから、傍に居るだけで良いんじゃないか?」

そう答えてやると、頷いてソフィアの後ろに控えた。

「ねぇ、取り合えず二手に別れましょう。ソフィアは大丈夫そうだし」

ソカがさらりと言ってきた。それに頷く。既にソフィアにもそれは話したようで、彼女も笑顔で目配せしてきた。全く動じていない。ダンジョンでの彼女が嘘のようだ。

「それじゃあ、また後で」

「え?ちょっと!?」

ソカは金髪の男に言ってカウンターを離れた。相手にされてないんだな、あいつ。


前回は分からない事ばかりで終わってしまったが、今回は目的を持ってここに来ている。緊張していたが、それもほぐれてきた。……というよりカウルを見ていたら、そんなのは吹き飛んでしまった。

チラリと見れば、ソフィアは楽しそうにお喋りをしており、カウルはその後ろで立っているだけだ。端から見れば雰囲気のある付き人だが、俺には分かるぞ?あいつは緊張で突っ立ってるだけなのだ。

なんだか、笑えてしまう。だが、俺も俺で笑えない。彼等とのお喋りのほとんどをソカに任せてしまい、俺も付き従っているだけだったのだから。

まぁ、別にかまわないだろう。ソカは話が上手い。そして、男を惹き付けるのも上手い。俺がやるより何倍も上手い!だから、後ろで聞いているだけで、問題はないはずだ。ないはずだ。ないはずなのだ!


ソカはかなり歳上の男に話しかけた。最初は挨拶や軽い雑談を交えて本題に移っていく。

「少しばかり興味のある話があるの」

「ほう、どんなことですか?」

「知っているかしら?十年ほど前にあった事件なんだけど、『海に沈んだオルノイス号』の事」

「あぁ、ありましたな。多くの貴族を没落に追いやった悲劇ですな?もちろん知っておりますとも」

「聞いた話だと、その船は偽物の魔晶を元に造られたらしいんだけど、その魔晶について何か知らない?」

「……ほぉ、お嬢さんはその歳でなかなかに詳しい。どこでそれをお知りに?」

「友人よ。それしか知らないのだけど、なんだかモヤモヤしてしまって、事の顛末を知りたくなったの」

「好奇心は良いことですが、あまり深入りしすぎると危険を伴いますよ?」

「それはそれで面白いじゃない?こんなに退屈な世の中なんですもの」

まるで、ウンザリとでも言うかのようにソカは肩をすくめた。

「はっはっは。後ろの護衛の方も苦労しますな?」

「えぇ、まぁ」

突然の振りに、それしか言えなかった。

「よろしい。今夜出会えたのも何かの縁、あの事件の真相について少しばかりお話ししましょう。といっても、あの事件を知っている者ならば、誰でも聞いたことのある話ばかりですがね?」

「それでも良いの。この中であなたが一番知ってそうだから話しかけたのよ?」

ほんとかよ?

「素直なお嬢さんだ。少し移動しましょうか」


そして俺達は、部屋の隅へと移動した。




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