七十五話 わちゃわちゃ
翌日。案外早くその時は来た。
冒険者管理部の部屋がノックされ、セリエさんがやって来た。
「テプトくん、カウルくんとソフィアちゃんが来たわよ」
ランクの見直しについて考えていた俺は、立ち上がると一階へと降りる。
隅の方に二人が立っていて、俺を見つけると一礼してきた。
「何しに来たんだあいつら?」
「またパーティの勧誘じゃねーの?俺は御免だけどな」
「ランク外の階層に入るなんて冒険者失格よね?一緒にいるあの子が可愛そう」
周囲から聞こえる冒険者達の声。やはり噂は広まってるか。あまり居心地は良くなさそうだな。
「この間はありがとうございました」
「助かった礼を言う」
二人はそう言ってもう一度頭を下げてきた。ソフィアの首には、色褪せたペンダントがある。
「目立つから止めてくれ。それよりも、もう大丈夫なのか?」
「何ともない。ソフィアも万全だ」
「お陰さまで傷ひとつありません」
「そうか、良かった」
それから、ソフィアが一歩前に出てきた。
「あのー早速なんですけど、この間言ってた話というのは?」
「あぁ、それか」
それなんだが……ソカが居ないと始まらなー。
ヒュンーーーパシッ。
始まったな。
「なっ!?」
後ろにいたセリエさんが声をあげた。
「へぇー、真っ昼間から、女性たちと話なんて良いご身分ね?」
言いながら投げられたナイフの持ち主が歩み寄ってきた。
「ソカ。お前って奴は本当にグッドタイミングで現れる奴だな?狙ってんのか?」
ナイフを返すと、ソカは訝しげな表情を浮かべた。
「なによ?その二人じゃ飽きたらず、私にまでナンパする気?」
「よく見ろ。カウルもいるだろ?それにここはギルドだぞ?そこまで俺は図太くーー」
「ちょっと!?ナイフを投げたのはあなた?」
後ろにいたセリエさんが割り込んでくる。
「違いますけど?」
嘘をつくな、嘘を。あと、返したナイフをさらっとしまうな。
「えぇ?あなたじゃないの?…じゃあ何処から?」
信じちゃったよ。
「この男が私を見つけて咄嗟に出したんじゃない?」
「なんで?飛んできたように見えたけど」
「この前ナイフを貸してたから、今返してもらったのよ」
「そうなの?え?ソカちゃんに用事ってそのこと?」
俺に向き直るセリエさん。
どう言えば良いんだよ。嘘八百じゃねーか。ソカを睨んだが、彼女は平然としている。
「いや、それだけじゃないんですけどね?」
言ってしまおうか迷っていると、肩を叩かれた。
「あの……それで話というのは?」
ソフィアだった。その後ろにいるカウルも話が進まないことに僅かだが、イラついているように見える。
「テプトくん?本当なの?」
セリエさんが聞いてくる。
「この受付の人に言ってやんなよ。なんか疑ってるみたいだし」
ソカ、お前は黙ってろ!
ちょっと待て、一人ずつにしてくれ。
その時だった。
「おい、何やってんだ!ここはギルドだぞ!」
見れば、エルドが階段を降りてやって来た。おぉ、助かった!
「エルドさん!」
「ん?テプトじゃねーか。それに、セリエさんも」
「どうしたんですか?」
セリエさんが聞いた。
「どうしたじゃねーよ!ギルド内で騒いでる連中がいるって聞いたから止めに来たんだよ。またお前か、テプト」
なんでそうなる!?
「違いますよ。ちょっと収拾がつかなくなってるだけですから」
「何を言ってるんだ?あとセリエさん、受付が大変なことになってるから、仕事に戻ってくれませんか?」
「え?……うわっ!?」
セリエさんが受付の方を見ると、セリエさんがいなくなったことにより、冒険者の列がとんでもないことになっていた。受付にはセリエさんの代わりの人がいたが、さばききれてないようだった。
「ごめんなさい。すぐ戻ります」
それだけ言って走っていくセリエさん。受付を増やしたとはいえ、やはり最後は人のようだ。あの人仕事出来るからなぁ。
「で?あとの冒険者の方々は?」
エルドが仕切る。
「あぁ、この人達はちょっと用事があるんです。ここだと騒ぎになるんで、すぐ外に行きます」
「む、そうか。活気があるのは結構だが、ギルド内では大概にしとけよ?」
そう言って笑うエルド。この人凄いな。
「そうします。ありがとうございました」
「それじゃ俺は仕事戻るからな」
それからエルドは戻って行った。本当に忙しいらしい。
俺は残った三人に向き直る。
「とりあえず外に行きましょう」
「私も?」
ソカが小首を傾げた。
「そうだ。ちょうど用事があったんだよ」
そうして、俺達はギルドを出た。
なんか、どっと疲れたな。エルドが来てくれなかったらどうなっていたことか。




