七話 夜の依頼
日が沈み初めてきた。ギルド職員の勤務時間は20時までだ。今頃経理部では、今日のお金の計算で忙しくしている頃だろう。
俺は冒険者管理部なので関係ない……といったら嘘になるが、バリザスの様子から察するに、俺はギルド職員として認められていない。
仕事もどうせ、書類をあの掲示板に貼りつけて終わりだろう。おそらく今までもそうやってきたのだ。そして、終わらなかった仕事はうやむやのままに葬られてきたに違いない。そんなことがまかり通っていたと思うと、だんだん腹がたってくる。
それよりも今は、未達成依頼を片付けなければいけない。
「まずは……『ブラックウルフ討伐10体』ね」
ブラックウルフは、夜に活動する魔物である。放っておくと動物達を襲い、動物達が近くの作物を荒らすという二次災害に発達する。だから定期的にこの依頼がだされるのだが、なぜか未達成となっている。
「この町は冒険者の町と言いながら、こういった初歩の依頼が達成されないままになってるな」
それもそうだろう。実際、タウーレンで冒険者登録をするのは、腕に自信のある傭兵崩れの者達だ。そして彼等は知っているのだ。依頼なんかよりも、ダンジョンで魔物の素材を売る方がよっぽどお金になることを。それを為す実力があるのも困りものだ。
ダンジョンで、魔物からお金を稼ぎ、ギルドがそれを市場に出して儲け、人々の生活は潤っていく。冒険者の町というよりは、ダンジョンの町という方がしっくりくる気がする。
だが、俺が冒険者をしていた町ラントは、そんなことなかったんだよなぁ?
「……まあ、考えても仕方ないか」
俺は夜の森に飛び出した。
「『気配察知』、『夜目』」
気配察知は、視界の悪いところでも、敵の位置が補足できる。スキル。そして夜目は、夜でも視界を良好にするスキルだ。俺は空間魔法で片刃剣を取り出して、辺りを探る。
ブラックウルフは簡単に見つけられた。こっそりと忍より、
まずは一体……っと!
一太刀で、首をチョンパする。それを素早く空間魔法でしまい、また次の獲物をさがす。
一時間ほどかかけて、依頼の内容をクリアした。
「次は『暗黒草の採集』だな」
暗黒草。それは夜にだけ採ることが出来る不思議な草。他にも太陽花と、月光草がある。暗黒草は魔力回復のポーションの材料であり、俺も何度もお世話になった。スキル検索を使い、森のなかを駆ける。ほどなくして暗黒草の群生地を見つけ、依頼内容をクリアした。
「あとは『魔水の採集』と『魔池の調査』か」
魔水もポーションの材料の一つだ。そして魔水は、魔池で採集できる。
依頼内容によると、魔池から魔水が採りにくくなっているらしい。その原因を調査して欲しいとのことだった。
「まぁ、原因なんて一つしか思い浮かばないけどな」
俺は、魔池がある場所まで走った。そこは『魔物の森』の奥地。魔池は、魔力を持つ森の中にある。そして大抵そこには、
「いるのでしょう? 『我が同胞よ』」
すると、池の真ん中に、半透明の美女が現れた。
『なぜ、我らの言葉を知っている?』
彼女は精霊だ。
「少し前に教えてもらいました。それよりも何処かに移るのですか?」
『……そうだ。ここ数年でこの地の力は衰えた。良き住みかであったが、ここよりも遠く離れた地に移るのだ』
やはり、それが原因だったのか。
「ちなみに、どこに移るかは教えてくれるのですか?」
『教えられぬ』
彼女は静かにそう告げた。
「そうですか。あなた方が居なくなると困る人も多い。あなた方の魔力によって、魔は自我をもちますが、その恩恵も計り知れない。出立はいつですか?」
『次の満月の夜じゃ。最後の最後に面白き人族に会ったのう』
そして、美女は吸い込まれそうな笑みを浮かべた。
「それは良かった。俺は魔水を取りに来ただけです。ここに人が来ることも最後になるかもしれない」
『多くの人族達がこの地に訪れた。そして幾人かは我らの存在に気づいた。しかし、接触する者は限りなく少ない。こうして人族と話したのも数百年ぶりじゃ』
「でしょうね?」
言いながら俺は、水面に光る水を集めていく。それは入れ物に入れた後でも、発光し続けている。これが魔水だ。そして、あまり知られてはいないが「精霊水」とも呼ばれている。
『お主からは妙な雰囲気を感じるの』
「それ、前にも言われました」
それは、冒険者をしていた頃に会った精霊からの言葉。
『そうか。既に同胞と会っていたのか』
「えぇ、言葉もその時に。では、俺はこれで『良き旅を』」
そう言うと、美女は少し驚いた顔をして、それから笑顔で消えた。
「よっし、依頼内容クリア!! あとは報告して終わりだな」
俺はそのまま町へと向かった。それからこのタウーレンに来て何も食べてないことに気がつく。
帰ったら、飯にしよう。