六十九話 冒険者規定
冒険者のランクは大きく二つに分けられる。F~DとC~Sだ。この二つを分けている要因は、ダンジョンに入れるか、入れないかであり、冒険者になった者はまずDランクになり、Cランクの試験を目指す。
Dランクまでは、依頼の達成回数によってランクを上げられる。依頼には優劣などなく、どんな依頼を達成したとしてもランクは上げられるのだが、人気がなく報酬が少ない依頼は俺がやっているのが現状だ。
そして、Dランクから昇格するためには試験に合格しなければならない。ダンジョンでも戦っていける『強さ』を持ち得ていなければ、Cランクから先には昇格出来ないのだ。
では、ダンジョンに入ったこともないギルド職員は、なぜ冒険者の適正を測ることが出来るのか。
それは、各ギルドにある『冒険者規定』に基づいて審査をしているからである。
「まずは、冒険者規定のランク分けの項目を見直そう。そして現在の冒険者との差異を明確にするんだ」
エルドは歩きながら興奮ぎみに言った。そして安全対策部の扉の前まで来ると、中に入ろうとした。
そこで止めてしまう。
「どうしたんですか?」
「いや……そういえば、うちの部長はまだテプトの事を許してないんだ」
「そうですか。……規定書なら冒険者管理部の部屋にもありますよ?」
「そうか。なら、そっちに行こう」
俺とエルドは、冒険者管理部の部屋へと向かう。部屋に入ると、壁にある本棚を開けて、黒くて分厚い『冒険者規定』と書かれた本を取り出した。何回かめくり、その項目を捜しだした。
【冒険者のランクの基準について】
……。
・冒険者がダンジョンにて戦う事の出来る強さを有していた場合、その冒険者をCランクへと昇格することが出来る。また、強さに応じては、より先の階層を探索出来るとして、ランク適正試験により昇格することが出来る。
Cランク
ダンジョン19階層までの探索を許可する。尚、パーティを組んだ場合、29階層までの探索を許可する。
Bランク
ダンジョンにてパーティを組んだときのみ、40階層までの探索を許可する。
Aランク
ダンジョンにてパーティを組んだときのみ、50階層までの探索を許可する。
Sランク
【ダンジョンのランク適正】において、全ての項目を満たし、明確に強さを測ることが出来ない冒険者をSランクとする。
再び、数ページめくった。
【ダンジョンのランク適正】
Cランク
中級魔法を使うことが出来る。もしくは魔武器を使用し、連続攻撃最低三回を可能とする者。
Bランク
上級魔法を使うことが出来る。もしくは魔武器を使用し、連続攻撃最低四回を可能とする者。
Aランク
上級魔法を使うことが出来る。さらに魔武器を併用し、十分に威力ある攻撃を可能とする者。
尚、細かい適正については、ギルドによって定められた模擬試験管によるところとする。
…。
「なんというか、随分と大雑把だな?」
エルドは、頭を掻いた。
「まぁ、この条件さえ満たしていたら、あとは試験管次第って事なんでしょう?元となっている『エノールの探索記』は、この国が出来る以前の物ですから、古いといえば古いですが、かなり正確にランク付けしているように思います」
「エノール?……誰だっけ?」
そう言ったエルドに、俺は固まってしまった。嘘だろ?
「ギルド学校で習ったじゃないですか!初代ギルドマスターのパーティだったエノールです。彼はダンジョンを踏破した唯一の人物で、彼が残したダンジョンについて記した日記は、『エノールの探索記』と呼ばれて今も本部に保管されているんです」
「あー…。確かそんなようなこと習ったな。俺、歴史が苦手でさ」
いや、歴史じゃなくてギルド職員なら知っているはずなんだが。
『冒険者規定』は、『エノールの探索記』を元にして作られている。実際に読んだことはない。その文には、ダンジョン踏破の方法が載っていて、それを実行した者は、世界を変えられるという都市伝説がギルド職員の間でまことしやかに語られていた。
まぁ、彼がダンジョン踏破を成した事により、彼のパーティメンバーであった『ライマルト』という人物が、冒険者ギルドを立ち上げ、この国自体が発展するきっかけともなった。そう考えれば、世界を変えられるというのもあながち間違いではないのかもしれない。
ちなみに、『冒険者規定』は『エノールの探索記』を元にしてつくられているが、『ギルド職員規定』はライマルト本人が、ギルド立ち上げ時につくったものらしい。まだ、アスカレア王国が出来る以前の話である。そしてアスカレアは、ギルドと共に発展を遂げてきた。この国の歴史上にはギルドが関わっていた事柄が多くある。エルドが苦手と言ったことも分からなくはないが、せめてギルド発足に関わった事は覚えとけよ。
「ともかく!まずはこれだ」
エルドは、その文の一点を指差した。




