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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
問題だらけのギルド編
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六十六話 ソフィアの決断

突然『試練の門』が開いた。同時に、中からソフィアが飛び出してきて、門の前にいたカウルが咄嗟に受け止める。

やっと終わったのか。

カウルがなにやら考え事をしていた事もあり、会話をほとんどしていない。代わりにタロウと遊んでいたのだが、それにも飽きてきた頃だった。

ソフィアはカウルに抱き止められたあと、すぐに気絶してしまった。その首には、特に変わったところはないペンダントがぶら下がっていた。

カウルがそっと彼女の袖を捲る。そこにあった呪いの証は、キレイサッパリ消えていた。安堵の息を吐くカウル。

「どうやら上手くやったようだな」

そう声をかけてやる。

「あぁ」

カウルは言った。それから、ソフィアをそっと背中に背負った。大剣を片手に持って、もう片方の手で器用にソフィアを背負うカウル。

「それじゃ戦えないだろ」

「どの道、この階層では俺には戦えない。期待している…テプト」

真っ直ぐに見つめてくるカウル。他人任せかよ。だが、悪い気はしない。

「承った!」

『我もいるぞ』

タロウも吠えた。


「このまま戻っていいんだな?」

「あぁ、目的は達した。あとはどこにでも連れていってくれ」

「帰ったら、しばらくは大人しくしてくれよ?あと、適性ランク試験の事は忘れずにな」

「約束しよう」

随分としおらしくなったな。カウルの変化に驚きつつも、帰る準備を始める。帰りも同じく、タロウを先頭にして進んでいった。


しかし、何故だか魔物が全く現れなかった。

「まさか、これが『幸福のペンダント』効果なのか?」

カウルに背負われるソフィアを見ながら呟く。

「おそらく。しかし、これは凄いな」

カウルも驚いているようだった。


二十五階層まで来ると、冒険者パーティがちらほら見え始めた。皆、奇異の目でこちらを見ている。原因は、俺がギルド職員の制服を来ているからだろう。


「おい、あれってヘルハウンドだよな?」

「あぁ、ヘルハウンドを連れたギルド職員がいるって騒ぎになってたけど本当だったのか」

「ゾンビの群れに突っ込んで言ったらしいぞ?」

「あいつマジで何者なんだよ?」



……思ったよりも大変な事になってるな。制服だけじゃなく、タロウもいるからか。


「ほら、あいつ。カウルだよ」

「後ろに背負っているのはソフィアだ。無事だったんだな。てっきりいつものように、カウルに殺されたかと思ったぞ」

「上の奴等が言ってたぜ。二人だけで三十階層降りたんだと」

「はぁ?死にに行くようなもんだろ。よく無事だったな……え?それであのギルド職員が助けに行ったってことか?嘘だろ?」


「ーーチッ」

カウルが舌打ちをした。これはかなり噂になってるな。


「ん…っ」

しばらく歩いていると、ソフィアが目を覚ました。

「大丈夫か?」

カウルが声をかける。彼女は目を擦ったあと、自分がカウルに背負われていることに気づいたようだった。

「えっ?なに?ちょっと、カウル下ろして!」

顔を真っ赤にしながら彼の頭を叩くソフィア。カウルがしゃがむと、すぐにその背中から下りた。

「叩くことはないだろ」

「だって、恥ずかしかったから」


その光景に思わず笑ってしまった。

「あの…私は一体」

「『試練の門』から急に飛び出してきたのを、カウルが受け止めたんだ。呪いも消えているようだったし、そのままカウルがここまで背負ってきたんだよ」

「えっ!?」

ソフィアは急いで自分の袖をめくった。そして、呪いが消えていることを確認すると「良かった」と小さく漏らした。その手は、わずかに震えていた。

そして、彼女は俺の方を見て、その場で頭を深く下げた。

「ありがとうございました!」

声も少しだけ震えていた。

「顔を上げなよ。カウルには言ったけど、ソフィアにも、適性ランク試験を受けてもらわなければいけないんだから」

そう言うと、彼女は頭を上げた。そして、ジッと俺を見つめてくる。

「…どうした?」

「私、冒険者を辞めようと思います」




「なんだと?」

カウルが驚きの声をあげる。ソフィアはそんな彼に向き直った。

「ごめん、カウル。呪いを解くことが出来たら、やろうと思っていたことがあるの」


「なんだ?」


「私、十年前の事件を調べたいの」

それには、俺も驚いた。

「今までは呪いを解くことしか頭になかったし、それしか生きる目標がなかったの。でも、呪いが解けた今、私はなぜ、父が罪人とならなければいけなかったのか、なぜ母が殺されなければいけなかったのか知りたい。それを知らずに今後を生きていくことなんて出来ない。だから、気が済むまで調べたいの。ワガママを言っているのは重々承知してるわ。でも、どうしても調べたいの」


カウルは少しばかり考えていた。

「…なら俺も手伝おう」

言うと思ったよ。

「ダメよ。これは私の問題なの。私がやらなきゃいけないの」

ソフィアは即座に否定した。

「ソフィアの…問題」

「そう。私の問題よ」

ソフィアは強い口調で言った。カウルはしばらく黙っていた。

「ダメだ」

カウルは告げる。

「お前はまだ俺の仲間だ。勝手に辞めることは許さない」

おぉ。そんなセリフ、よく平気で言えるなぁ。

「お前の問題は、その仲間である俺の問題でもある。だから、手伝うと言っている」

しかも、この追加文句。俺には一生無理だな。

「どう…して、そこまで」

「それは…俺が、お前の事を…」



え?なにその流れ。まさか、ここで告白するのか!?ここまだダンジョン内部だぞ?ロマンチックもへったくれもないぞ!?いや、冒険者ならありなのか?いや、ないだろ!?

突然の展開にびっくりする。ソフィアとカウルが見つめ合った。あとは、カウルが最後の言葉を言うだけだった。

その時。


『主よ。ダンジョンとは冒険者にとって、命を賭して戦う場所なのだろう?この二人に、その厳しさを教えてやっても良いか?』


タロウがとことこ近づいて来て、二人の間でそう言った。…それ行く時もやっただろ。というか、今の狙ったのか?

俺は額に手を当てた。

「止めとけ」

『そうか』

二人は咳払いをして、少しばかり距離を取った。さすがに恥ずかしくなったのだろう。いや、見てるこっちが恥ずかしかったからな?


「ちなみに、ソフィアはどうやって調べるんだ?」

恥ずかしさを緩和してやるため、そんな言葉をかけてやる。

「あ、はい。とりあえず、知り合いだった何人かの貴族に知っていることはないか、聞いて回ろうかと」

「…あの事件で没落した貴族もいるんだよな?そんなことして大丈夫なのか?」

「わかりません。ですが、それ以外に方法がないので」

うーん。貴族か。


その時、俺はソカと行った店を思い出した。そこには、いけすかない貴族達が儲け話をしていた。十年前とはいえ、小さな村にも伝わってきた事件だ。あそこなら、何かつかめるか?


そこまで考えてから、ふと思う。おいおい、俺は何考えてるんだよ?今だけでも問題が山積みなのに、これ以上抱えてどうするんだよ?


しかしソフィアのやり方は、かなり危ない気がした。なにせ、呪いを受けたのだ。それほど恨まれているということだろう。

放ってはおけないな。どうせ乗り掛かった船だ。


俺はため息を吐いたあと、手伝ってやることにした。

「俺に考えがある。とりあえずはダンジョンを出よう」

そう言って、歩き出す。


まぁ、これは時間をかけても平気だろ。とりあえずは、カウルとソフィアのような冒険者が出ないよう、まずは『ランク外侵入』の対策を考えなきゃな。





とりあえず一段落です。

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