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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
問題だらけのギルド編
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六十一話 ソフィア・オルノイス

タロウの戦闘がだんだんと長引いてきた。魔物が強くなっているからだ。そして気がつけば、魔物に遭遇すると、タロウとカウルが協力して戦闘を行うようになっていた。

『トドメが遅いぞ小僧。相手も死ぬ気できているのだ。判断が遅ければやられるのはこちらだぞ?』

「分かっている。だからこそ用心して近づいたんだ。不用意に近づくのは馬鹿のやることだ」

『我が押さえているのを信用出来ないというのか?』

「出来ない。先程も抵抗されて一旦距離を取ったじゃないか」

『あれはお前の追撃が遅かったからだ。我のせいではない』


何だかんだと言いながらも、二人は魔物を倒していく。そのコンビネーションは戦闘を重ねるごとに良くなっていっていった。

二人が戦闘をしている間、俺はソフィアの護衛をしていた。

「うふふ…」

「どうしたんだ?急に笑いだして」

「いえ、カウルがあんなに楽しそうにしているところ初めて見ました」

「楽しそう?そうか?」

「はい。とても」

カウルは無表情なのでわかりづらい。ソフィアが言うのなら、きっとそうなのだろう。

「五十階層までもう少しだ。魔物だって今よりも強くなる。気を抜くなよ」

「はい!」

彼女はそう言いながらも、笑っていた。こいつ本当に分かってんのか?



ソフィアは、自身の内から湧き出る感情を必死で抑えていた。少しでも気を緩めれば、涙が頬を流れてしまいそうだった。


ソフィアは思い出していた。これまでの日々を。そして、カウルの言葉を。


それは、仲間だった者が死んでしまった夜。

ソフィアは冒険者を辞めると、カウルに申し出た。仲間が死んでしまった原因は明らかに自分にある。責任を取るわけではないが、せめてこれ以上の悲劇を繰り返したくはなかった。

「ダメだ」

しかし、それをカウルは一蹴する。ハッキリとした声でそう言った。

「このままでは、私は多くの人達に迷惑をかけてしまう。もしも、この呪いを解くことが出来たとしても、私にはそれが堪らなく嫌なの」

呪いを解くために、ダンジョンに挑まなければならない。しかし、ダンジョンに挑めば、自身の力不足のせいで、誰かが傷ついてしまう。

この身に受けた呪いではなく、自分の無力を自覚する事の方が何倍も苦しかった。

「ソフィア、お前は冒険者というものがわかってない」

カウルは、静かに言った。

「冒険者というのは、自由な者達だ。何者にも縛られない、それが冒険者だ。俺達は好きでやっている。それに対して申し訳ないと思うのは、侮辱に近いものがあるぞ」

「だったら、私が冒険者を辞めることも許してよ!今の私も冒険者なんだから、辞めるのも自由なはずでしょ?」

「ダメだ」

「…なんで」

「俺が許さない。俺は、お前の呪いを解くと決めた。もしも辞めたいなら俺を力でねじ伏せる事だ」

「私がカウルに勝てるはずないじゃない」

「そうだ。だからお前は、俺の我が儘に付き合うしかない」

「どうしてそこまで」

「俺がそう決めたからだ。それ以上でも、それ以下でもない」

「そのためなら、自分が死んでしまってもいいの?」

「俺は死なないし、死ぬために何かをやっている奴もいない。たとえそうだったとしても、誰にもそれを止めることは出来ない。そいつが好きでやってるからだ」

カウルは無表情のままそう言った。その頃、まだソフィアには彼の微妙な表情の変化を読み取ることは出来なかった。

「それじゃ私はこのままダンジョンに挑戦するべきなの?自分の力ではどうにもならないくせに、他人の人達の力をあてにして、のうのうと厚かましく冒険者を続けるべきなの?」

「そうだ」

「そんなの…無理よ。私には出来ない」

「その時は笑っていればいい。そんなことを言う必要もない。お前はただ、呪いから解放される未来だけを目指せば良い」

彼に何を言っても無駄だと思った。彼には揺るぎない意思がある。強いなぁ、と思った。自分には出来そうにない。それでも彼はやれと言う。

「もう遅い。明日のために体を休めろ」

カウルはそれだけ言って、去っていった。


涙が溢れた。どうしてこうなってしまったのか。なぜ、生きるというのはこんなにも辛いのだろう。逃げることも隠れることさえも出来ない。

呪いで死ぬ事が怖い。その呪いを解くために、たくさんの人達が傷つくことが怖い。世の中は怖いものだらけだ。なのに、怯える暇さえも与えてはくれない。


これが、私に与えられた罰なのだろうか?それほどの罪を犯したというのか?


父が犯してしまったことは、それほどの事だったのだろうか?たぶん、父はあんな結末を少しも予想していなかったというのに。



憎い。憎い憎い憎い。



初めて思った。父にいい加減な魔核を渡した奴が。そいつがいなければ、今でも父と母は生きていたはずだ。こんな夜でも、私は笑っていたはずだ。


もしも、この身に受けた呪いを解くことが出来たなら、そいつを捜しだして復讐してやろう。死んでいたなら、そいつの家族を苦しめてやろう。


いつのまにか、涙は止まっていた。苦しいなら、そのために生きれば良い。


その日からソフィアは笑った。苦しいときほど笑顔をつくった。カウルの言うように、まずは呪いを解くことだけを考えて。








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