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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
問題だらけのギルド編
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六十話 壊れたレコード

「テプトさん、お強いんですね!?」

その言葉は、何回目だろうか。




三十七階層までは、順調だった。というより、魔物がタロウを怖がって襲ってこないのだ。ただの探索部隊と化した俺達は、サクサクと降りていく。

「おい、なぜギルド職員であるお前がヘルハウンドを連れているんだ?」

我慢出来なくなったのか、カウルが聞いてきた。

「戦って勝った時に契約したんだよ」

「…なんだと?」

「テプトさんて強いんですね。なぜ、ギルド職員を?」

いつのまにか、ソフィアも近くにいた。あー…それは、俺にとって地雷の質問だな。

「ソフィアと同じで、俺も万能型なんだよ」

「えっ。こんなに強いのにですか?」

「うーん。俺の場合ちょっと特殊なんだ」

なにせ、神様から貰った能力だからな。規格外でも納得できる。

「そうなんですか。何か事情がおありなんですね。…それでもヘルハウンドに勝つなんて特殊すぎる気がしますけど」

「俺は周囲に、万能型だと周知されていたからな。誰も俺が強いなんて言ってくれなかったよ。まぁ、今にして思えばそれで良かったと思ってる。そんなことでしか人を判断できないような連中に認めてもらっても、嬉しくないからね」


一瞬だけ脳裏に、昔の事が蘇った。

その記憶にある奴等は、皆笑顔を浮かべていた。その目のどれもが濁り、つり上がる口角は、歪んでいるようにしかみえない。

異世界に転生しただけで、何もかもが変わったと勘違いしていた。前世で根付いたすぐに諦める癖は、直ってはいなかったのだ。だからこそ、俺はつまらない人生しか送れなかったというのに。そんな事にも気づかず、俺はただ天狗になっていただけだ。


「…テプトさん」

「昔の事だよ」

心配そうな表情をしたソフィアに、少しだけ無理をして笑顔をつくった。


魔物が襲ってくるようになったのは、三十八階層からだった。それでも、タロウ無双は四十二階層まで続いた。タロウが苦戦を始めたのは、その階層からである。


『一匹倒し損ねた!』

前方からタロウの声が響いた。同時に、鱗で全身を覆われた巨体な蛇の魔物がこちらに向かってくるのを確認する。ようやく出番か。俺は、剣を空間から出した。

「ソフィアを頼む」

その時、カウルが駆け出した。止める間もなく魔物に向かっていく。背中に背負った大剣を抜き放った。その大剣からは、握った手を通して相当量の魔力が流れているのが分かる。

蛇の魔物が口から体液をカウルに噴射した。しかし、彼はそれを見事に避けていく。今度は、独特な軌道でカウルに噛みつこうとするも、それを華麗なステップで彼は避けた。

「なんだよ。やるじゃないか」

思わず、そんな言葉が口を突いて出た。

「彼は魔力の流れを読んでいるんです。今まで彼が、魔物に対して防御態勢をとったことはありません。全て避けてしまえるからなんです」

急にソフィアの解説が入った。別に言われなくても見てれば分かるんだが。

「だからこそ、彼は余計な物を全て取り払って、その全てを攻撃に回せる」

カウルは飛び上がって、その勢いのまま大剣を振り抜いた。蛇の頭が体から離れる。

「彼が傷つく時はいつも、私を庇った時なんです」

カウルは優雅に着地した。その姿は先程と比べると別人のようだった。

戦闘力は、既にAランクに到達していると思われる。彼がAランクに上がれば、パーティを組むことなど簡単に出来たはずだ。


それから気づいた。あぁ、そうか。やりたくても出来ないのか。

もしも、Aランクに上がってしまえば、それよりも下のランク冒険者とはパーティを組みにくくなる。役に立たない者をパーティに入れるほど、冒険者は甘くない。

ソフィアが、Aランクに上がる実力を有していないのだ。


カウル。お前、凄い奴なんだな。

彼は、何事もなかったかのように大剣を背負い直した。

「なんだ?」

その姿を見ていると、彼は不機嫌そうに問いかけてきた。

「いや、なんでもない」

「なら笑うな。気持ち悪い」

こいつ、不器用なだけなんだな。そう思うと、よけいに笑えてしまう。

『小僧、やるではないか。どうだ?我と一戦交えるか?』

いつの間に戻ってきていたのか、タロウがカウルを挑発した。

「なんだと?」

カウルも剣の柄を握り直した。なんでそうなる。そう思った瞬間、タロウは既に飛びかかっていた。

「くっ!!?」

カウルが大剣を抜こうとした。

「ーーいい加減にしなさい」

『キャウン!!』

二人の間に割って入り、飛びかかるタロウを軽く殴った。

『なにをする!我は主従関係を明確にしようとしているだけではないか!?』

「別に今しなくてもいいだろ!」

それから、カウルに向き直った。

「悪いな。しつけが行き届いてなくて」

「あ…あぁ」

カウルは剣の柄を握ったまま生返事をした。

『しつけとはなんだ!我はペットではないぞ!』

タロウが叫ぶ。

「え?」

『なんだその反応は?まるで、我をペットと思っていたような反応だな』

「違ったっけ?」

『断じて違う。我は魔物の中でも最上位に位置する者であり、主は我が認めた契約者だ』

「認識の違いか。確かに、餌やったり家で飼ったりしてないもんな」

『その通りだ。主がそういう認識だから、タロウなどという言葉が出てくるのだろう。今すぐの変更を所望する』

「今更変えられないよ。もうその名前に愛着が湧いてるし。タロウもそうだろう?」

『うぬぅ…湧いてなどおらぬ』

ならハッキリと否定しろよ。湧いちゃってるじゃねーか。


そんなやり取りを見ていたソフィアがぽつりと呟いた。

「テプトさんってお強いんですね」


その後も、タロウが戦闘を始める。

その隙をついた魔物が襲ってくる。

カウルが魔物を倒す。

タロウがカウルに襲いかかる。

俺が止める。

これを、何度も繰り返した。


そして、最後にはソフィアが呟くのだ。

「テプトさんってお強いんですね」

最後の方は、わざと言っているように思えた。なぜなら、とても嬉しそうに、その言葉を口にしてくるからだ。


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