六話 受付嬢セリエ
救出依頼は難航するかと思われたが、タロウにかかればすぐだった。その後も、『ゴブリンの洞窟』という所で消息を立ったDランク冒険者を捜したのだが、洞窟の横穴で震えているそいつを、タロウが見つけてくれた。
「流石だな」
『ふん、こんなことは朝飯前だ。次はどこだ?』
「次は……」
次の救出依頼を見てから、俺は考えた。
『どうした?』
「……うん。やっぱここまででいいや。ありがとな」
そう言って俺は空間魔法で、火竜の骨を差し出す。
『なんと! 火竜の骨ではないか!良いのか貰っても?』
「あぁ。十分働いてくれたからな?その代わり次も頼むよ」
『任せておけ』
そう言うと、タロウは骨をくわえたまま消えた。
「うーん。……これは依頼し直した方が良さそうだな」
その救出依頼は、Bランク冒険者パーティ。場所は、ダンジョンの20階層以上とある。
ダンジョンは、Cランクから挑むことが出来るのだが、20階層以上は、パーティを組まなければ、降りることが出来ないのだ。
無論、俺が行くことは出来ない。……といいつつも、これには裏技があって、実は一人でも行くことが出来るのだが、今はそんなことをしている暇はなかった。
「時間もいい頃だし、ギルドに戻るか」
俺はギルドへと走った。
ギルド内は先程とは違い、一般の人達がいた。
ギルドの受付は朝の8時~10時までを依頼受付とし、10時~16時までを冒険者専用受付としている。そして、16時~18時までが再び依頼受付として、区切っているのだ。
一般の依頼人達は、その4時間の間にギルドに訪れて、依頼をする。
俺が戻るとちょうどその時間帯だった。受付は、わりと空いていて、並ぶ必要もない。俺は、その足で受付に向かった。
「こんにちは……って同じ職員か。……あら?でも見ない顔ね?」
受付の女性は金髪美人のお姉さんだった。
「今日から冒険者管理部に派遣されたテプト・セッテンです。忙しくて挨拶出来なかったんです。すいません」
彼女は一瞬目を細めた。
「あなたが……ふーん? 私は営業部受付担当のセリエよ。それで? テプトくんは何の用事?」
「はい。実は、行方不明冒険者の依頼をしたいんです」
「本当に?」
それからセリエさんはずいっと顔を寄せてきた。ふんわりと甘い香りが鼻孔をくすぐる。
「それで? あのオヤジが承認したの?」
オヤジとはギルドマスターのことだろうか? だとすると、彼女も内情は把握しているらしい。
「いえ、残念ながら無理でした。だから今回は俺から依頼します」
「そっか。……そうだよね。私もここに来た頃、学んだ事と違いすぎてびっくりしたもの。それで? 内容と報酬は?」
そうか。となると、あのオヤジに不満を持ってるのは俺だけじゃ無さそうだな。それが分かっただけでも良かった。
「内容はBランク冒険者パーティの救出です。場所はダンジョン20階層以上。これが依頼書です」
そう言って、依頼書をだす。
「ふぇっ? 本当に言ってるの?これ、普通に依頼すると金貨10枚並の依頼よ? ほら、ここにも金貨10枚って書いてある。再依頼だと、金額は上がるのよ?」
「分かってますよ」
それから、俺は懐から金貨20枚入った袋を取り出した。先程、空間魔法で必要な分だけ袋に入れたのだ。冒険者時代に稼ぎまくったので、懐に多少の余裕はある。それに売ることが出来る素材も山のように持っているので、お金の心配はしていない。奴を打ち負かすにはまず環境を整えなければならない。環境とは、俺が奴から何も指摘されることがない状態を指す。そのための出費だ。仕方ないだろう。
ちなみに、金貨20枚は日本円に換算すると、20万円だ。
「ええっ!?本当にこれ預かっていいの? 生活費大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。あと、もう一つお願いがあります」
「君、もしかして貴族のお坊ちゃん? ……で、もう一つって?」
「実はギルドカード保管庫の鍵をお借りしたいんです」
「なんだ? そんなこと? というか、普通君が持っているべき鍵よね?」
やはり、ギルドカードの管理は冒険者管理部が担当しているらしい。
「初日で慌ただしかったので」
咄嗟にでまかせを口にする。
「いいわ。待ってて」
それから、セリエさんは席を離れると、すぐに戻ってきた。
「はい、これ。どうせ君の担当倉庫だから、そのまま持っていって良いわよ? こっちには予備の鍵があるから」
その鍵を受けとる。
「助かります」
それから、セリエさんがジーッとこちらを見ていることに気づく。
「顔に何かついてます?」
「いや、私ここに来て3年目なんだけどさ、冒険者管理部の人とこうやってお話するのは初めてなのよ」
「本当ですか?」
「えぇ。いつもあの人達忙しそうだったし、その……声もかけづらかったのよね」
「そうだったんですか」
「君には頑張って欲しいな? まぁ、無理はしない程度にね」
「ありがとうございます。あと、依頼達成報告もあるので、明日また伺いますよ」
「へぇー。あの未達成依頼の山でしょ?実は私、あの部屋に何度か依頼を貼りに行ってるの。あの部屋凄いよね?」
「あー……」
それは、壁の落書きの事だろうか?
「まぁ、そのうち慣れると思います。それじゃ他に仕事があるので」
「頑張って」
セリエさんは手を振ってくれた。
ふぅ。これであとは、未達成依頼を済ませるだけだな?
俺は、後の四枚を取り出して自らを奮い立たせた。