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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
問題だらけのギルド編
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五十八話 万能型

「詳しいことは分かりませんが、紛い物の魔核を作っていた研究所は潰れたそうです。また、それに関わった多くの貴族が没落しました。当然私の家もお取り潰しとなり、私と母は世間から逃げて、隠れるように生きなければいけなくなりました。生活は一変し、私は母と一人の付き人三人で、ボロい小屋での生活を強いられました。そして、一年ほど経ったある日、共に生活をしていた付き人が裏切ったのです。私達に恨みのある人間達に情報を売り、消息不明となりました。いつものように小屋に帰ると、見知らぬ男がいて、母は殺されていました。私に気づいた男は、下卑た笑いを浮かべ、私に呪いをかけたのです」


そこまで話終えると、ソフィアは浅く息を吐いた。思い出したくない事だったのだろう。肩が少しだけ震えていた。

カウルがその肩に手を置いた。

「ソフィアにかけられた呪いは死の呪いだ。解く方法は一つしかない」


そこまで聞いて俺はようやく理解した。彼等が何を目指しているのかを。

「なるほど。五十階層以上にあると言われている『幸福のペンダント』か」


「……そうだ」

カウルは険しい表情のままそう答えた。

「『幸福のペンダント』は身につけた者に及ぶ、あらゆる魔を振り払うアイテムだ。そしてその効力は、それを手に入れた者にしか与えられない。ソフィアはそのアイテムを手にいれるために冒険者となった。そして、それを俺は手助けしている」


「男はその後、呪いを解く方法だけを告げて去りました。私は、なけなしのお金だけを持って町をさ迷いました。運良く宿屋の主人に拾われた私は、そこで五年間働きました。そしてその頃から、この呪いの証が身体中に伸びてくるようになったんです。私は宿屋の主人にに別れを告げて、冒険者となりました。カウルと出会ったのはその頃です。事情を話したら、この身の呪いを解くまで協力してくれると言ってくれたんですが、私には問題がありました」


「問題?」


「はい。私は、冒険者には向いていない万能型なんです」

彼女はそう言って、嗜虐的な笑みを浮かべた。

「Cランクまでは普通でした。私は他の人に比べてスキルを多く修得していましたし、魔法も火と風が使えます。私の愛用の武器は弓ですが、剣も扱えます。苦戦はしましたが、Bランクにもなんとかなれたんです。ですが……そこまででした。上手くいっているように思えたダンジョン攻略が、思うように出来なくなったのは」


「能力の限界か」

そう言うと、黙っていたカウルが睨み付けてきた。俺はそれを無視する。ソフィアは、ゆっくりと頷いた。

「はい、そうです。半年ほど前から、私の能力は伸びなくなりました。いくら魔法を使用しても、強くなっていく魔物に効かなくなっていったのです。弓も当たらなくなりました。その後、階層が進むにつれ再び当たるようにはなりましたが、それは魔物が避けようとしなかったからです。私が放った矢には、相手を傷つける程の魔力が込められてなかったのです。その頃に組んでいたパーティーメンバーはカウルと同じで私の事情を知っていて、それでも良いよと言ってくれていました。……ある日、私を庇って仲間の一人が死にました。とても…良い人だったんです。よく…私を……励ましてくれていました。その後も……」

「もう良い」

途切れ途切れに言葉を紡ぐソフィアを、カウルが制した。


「悪かった。その後はなんとなく想像できる。それに、君達の事は調べたからね」

悪いことをしてしまった。しかし、反面で俺は少し羨ましいとも感じた。彼女は俺と同じ万能型だが、それを気にせず受け止めてくれる仲間がいたのだ。


この世界の人間は、三つの分類に分けられる。


魔力を持つ者。魔力を持たざる者。そして、万能型だ。

魔力を持つ者は、魔法を使うことが出来る。そして、魔道具や魔武器を扱うことが出来る。

反して、魔力を持たない者は魔法を使えず、魔武器もただの武器としてしか使用できない。それは、すなわち魔物を倒すことが出来ないということだ。魔素より生まれた魔物は、魔力を持ってでしか倒すことは出来ないのだ。代わりに、彼らはスキルを修得しやすい特徴がある。だから、彼らは職人として生きる事が多い。これは、現在云われている最も有力な仮説だが、人には元々魔力があって、それが魔力として残るか、スキルとして反映されるかのどちらかなのだそうだ。


そして、そのどちらでもない者が存在する。魔力があり、修得するスキルも多枝にわたる者。彼らは、『万能型』と呼ばれた。

歴史を紐解くと、万能型が栄華を誇った時代がある。他の者とは違う彼らは、選ばれた人間として分類され、万能型というだけで、世の中を謳歌出来たらしい。しかし時代が進むにつれ、彼らのスキルは魔力を持たざる者達に劣り、魔法は魔力を持つ者に劣る事実が発見され、その栄華は衰退の一途を辿る。彼等が何かで一番になることは出来ず、万能型は一気に劣等人間として世の中に周知された。

万能型を隠して生きている人間も少なくない。そして、そうでない者たちは、彼等が繁栄した時代を皮肉って、『万能型』の呼び名を変えようとしないのだ。


それが、万能型の真実である。しかし万能型にも、能力の限界には個人差があり、解明されていない部分も多くあった。

それでも、『万能型』だと言えば、大概の人達はこう思うのだ。




『あぁ……何をやらせても足を引っ張る半端者か』と。

そして、悪意に満ちた気持ちを込めて彼らは笑顔で言うのだ。

「おお……何をやらせても何でも出来る万能人間」と。









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