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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
問題だらけのギルド編
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五十六話 三十五階層

魔物の強さとは、魔力量で決まってくる。多く魔力を保有している魔物ほど強い。そして、その魔力を体内で維持するため、体格も変わってくる。ということは、「大きな魔物=強い」という考え方が成り立つ。しかし、一概にはそうとは言いきれない部分もある。


だが、その例外というのは、ダンジョン内部の四十階層以上での事だ。それまでは、その考え方が当てはまると思って良い。


つまり、ダンジョン内部四十階までは、「大きな魔物には気を付けろ」ということである。そして、三十階層以上には、残念なことに大きな魔物しかいない。


『グアアアァァァ』

体調三メートルもあるケンタウルスが倒れた。その衝撃が、辺りに響いてこだました。男はゆっくりと大剣についた魔物の血を払う。


「…カウル」

男の名前を呼んだ女性は、心配そうな表情をした。

「問題ない。先を急ごう」

それに男はそう答え、大剣を背中に背負い直す。

その時だった。

『ガァァァッッ』

大口を開けた巨大な鳥の魔物が、翼を広げて襲いかかってくる。

「ーーチッ」

舌打ちの後にカウルは、大剣を再び構えた。

「私が!!」

女性が前に出て魔法を発動するための呪文を唱えた。女性が放とうとしているのは、その魔物にとって弱点である火の魔法だと一瞬で気づいたが、カウルには分かった……敵わないと。

女性の放った火の魔法はそれなりの威力を持っていたものの、やはり鳥の魔物には効かなかった。翼で扇がれ、呆気なく掻き消されたのだ。

「下がれソフィア!!」

カウルはその女性の前に立つと叫んだ。大きなくちばしが迫ってくる。それを大剣で防ぎ、素早く敵の下に潜り込んで、上へと大剣を凪ぎ払った。

致命傷だったのか、鳥の魔物は甲高い声をあげて墜落する。その隙を見逃さず、カウルは鳥の首を切り落とした。



「ハァ…ハァ…」


ダンジョン三十五階層に入ってから、ずっとこの調子だ。ひっきり無しに敵が襲いかかってくる。もう半時も経つのに、全く進んでいない。



「ごめんなさい」

ソフィアが謝った。

「なぜ謝る?お前のお陰で奴に隙が出来たんだ」

嘘だった。

言ってから、カウルはしまったと思った。その嘘は、ソフィア自身がよく分かっており、そう言われるということは、彼女が役立たずだと、遠回しに言ってしまっているようなものだ。

ソフィアは少しだけ悲しそうな表情をしたが、それ以上は何も言わなかった。

「行こう」


何もかもが噛み合っていなかった。それが、『呪い』によるものだと言い聞かせてみても、心までは納得してはくれなかった。


「…カウル」

「言うな」

カウルは、ソフィアの言葉を遮る。その先を聞いたら、挫けてしまいそうな気さえした。


全く先の見えない道を歩いていく気分だった。あの日、それでもソフィアを守り続けると誓った決意さえも揺らいでいる。そんな揺らぎを認めたくなくて、カウルは沈黙を欲した。ただ闇雲に、戦いに身を投じる事こそ、それを考えない唯一の手段だと感じた。しかしその戦いも、いつまで持つのか分からなかった。本当に危ないなら、彼女だけでも逃がさなければいけない。そう思うが、彼女だけがここを脱しても、待ち受ける運命は変わらない。

逃げることも、戦うこともままならない。どちらも大切で、どちらも選べない。


目標の階層までは、まだまだある。こんなところで立ち止まっている暇などないはずなのに、それもさせてもらえない。

もどかしかった。それで焦っても仕方ないと分かっていながら、それでも焦ってしまっていた。


不意に、カウルは強大な魔力を感じた。今までに感じたことのない魔力量だった。ソフィアも彼に気づいて同じように構える。しかし、カウルは逃げることに頭を切り替え始めていた。なぜなら、その魔力は彼自身をはるかに上回っていた。勝つことどころか、逃げることさえも危うい。


やがて、奥の通路に赤く光る目が見えた。その目は、確かに二人を捉えている。

「ソフィア…」

逃げろ。そう言おうとしたところで、カウルは殺気を感じた。

「!!」

それも、今までに感じたことのない殺気だった。体が急に重くなる。膝をついてしまいたくなった。しかし踏ん張る。

代わりに、ソフィアが膝をついた音を聞いた。

鼓動が大きくなる。大剣を握る両手に汗が滲んだ。


赤い目は、すぐそこまで迫っていた。




そして、現れたのは一匹の黒い犬。ヘルハウンドだった。

奴は急停車して、牙を向けてきた。その表情は、笑っているようにも見える。


『やるか?小僧』


ヘルハウンドは言った。カウルはまたも驚愕した。喋る魔物など見たことがなかった。

しかし、そんなことを考えている暇はない。カウルは動き出そうと足に力を込めーー


「はい、ストップ!!」


ヘルハウンドを飛び越えて一人の男が現れた。片手をカウルに、もう片方をヘルハウンドに向けて、間に着地した。


あまりの展開に、カウルはついていけない。しかし、そんな彼を無視して男はゆっくりと立ち上がる。

「冒険者は倒したらダメだって言ってるだろ?」

『相手がやる気でもか?』

「なに言ってんだ?お前魔物なんだから見たら戦うに決まってるだろ?」

『ふん、普通は逃げようとするがな?』

「まぁ…それは確かに」


その男は、普通にヘルハウンドと会話をしている。それは、あり得ない光景だった。少なくとも、カウルは信じられなかった。


よく見ると、男はギルド職員の服を着ている。


ということは、ギルド職員の可能性が高い。バカな?笑ってしまいそうな程にその光景は現実味を感じなかった。


そして、気づく。その男の顔には見覚えがあった。それは、何日か前にギルド内で会った正真正銘ギルド職員だった。



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