五十二話 ダンジョン
~十階層にて。
『こうしていると、懐かしいな』
「なにがだよ」
『主と共にダンジョンに潜った時を思い出す』
「あの頃はガムシャラだったからな。まぁ、すぐに慣れたけど」
『当然だ。我を屈服させた主が、ダンジョンの魔物程度に慌てるはずなかろう』
「そうか?流石に五十階層越えたらお前だってビビってたじゃないか」
『ビビってなどおらぬ。少しばかり慎重になったのだ』
どっちも一緒だろ。
しかし、それは言わないでおく。なぜなら、俺も同じようなものだったからだ。
少し広い空間で、休憩をしている冒険者がいた。よほど疲れているのか、座り込んだまま寝てしまっている。
「…タロウ、起こしてやれ」
『その名で呼ぶなと言っているだろう!』
言いながらも、通りすぎる瞬間にタロウは軽い遠吠えをした。
「……っっ!?なんだ!?」
目を覚ましたらしい。
『お優しいことだな』
「このくらいなら普通だろ?」
ダンジョン内部で寝て良いのは、魔物が発生しない特別な部屋と、仲間が見張りをしてくれる時だけだ。まぁ、冒険者には眠気に勝てず寝てしまう経験がある者の方が多い。起きたときに、自分のやってしまったことにたいして恐ろしくなるのだ。
~十五階層にて。
「えっ…なに!?」
「ギルド職員!?」
「こいつは……ヘルハウンド!?なんでこんなところに!!」
十階層を越えた辺りから急に冒険者の数が増した。魔物ならば蹴散らして通るところを、飛び越えたり避けたりして通ることが多くなった。まるで障害物競争をやっている感覚に陥る。
『なぜ、こんなにも冒険者が多いのだ!?』
タロウが苛立ちを露にした。
「仕方ないだろ?たぶん、二十五階層辺りまで続くぞ」
『そういえば三十階層まで行くのだったな。なぜだ?』
「とある二人組の冒険者パーティーを捕まえに行くんだ」
『また、他人事に関わっているのか』
「そんなこと言うなよ」
『主がそうしたいなら、すれば良い。ただ……』
「なんだよ?言いたいことなら言って良いぞ」
『主は弱くなったな。前はもっと荒々しさがあった。他人などに影響されたりなどしなかった』
「大人になったと言ってくれよ?」
『大人になる必要などあったのか?』
タロウは、走りながらも横目でしっかりと俺を捉えていた。
「……さぁな」
いつからだろうか?何かを我慢するようになったのは。
いつからだろうか?それらしい理由を捜すようになったのは。
そんなこと、意識的にやってたわけじゃないのにな?
~十八階層
……なんだこれは。
「おぉ!良いところに来てくれた。手伝ってくれ!魔物が大量発生して……って、あんた何でこんなところに!?」
目の前には複数の冒険者達と、大勢の魔物が大乱闘を繰り広げていた。
大量発生しているのはゾンビだ。冒険者がいくら切り伏せても後から後から沸いている。
『どうする主よ』
タロウが一歩前へ出た。
「うわぁぁ!ヘルハウンドがいるぞ!!」
「くそっ!この忙しいときに」
「諦めないで!力を合わせるのよ!」
突然、タロウに向かって矢が飛んできた。それを、掴んでへし折る。
『そんなもので倒される我ではない』
「礼ぐらい言えよ…にしても厄介だな。……仕方ない」
俺は、広範囲の回復魔法を発動する。
「なんだ?」
「光がっ!」
俺を中心に、光の輪が広がる。その輪にゾンビが触れた瞬間、彼等は塵となって消えていった。
「今だ走れ!」
俺とタロウは、動揺している冒険者達の間を走った。ゾンビはまだまだいたらしく、回復魔法の範囲を越えても出てきた。
「邪魔だ…なっ!!」
それらを掴んで壁に投げていく。タロウもゾンビ達を押し倒して走る。
ゾンビの大量発生はしばらく続いた。
『強力魔法は使わないんじゃなかったのか?』
「あれは仕方ないだろ?」
言い合いをしながらも階層を突破していく。もうすぐ二十階層だ。
そこはボス部屋で、今までの魔物とは段違いの強さをしている。強力魔法一発目はそこだと思ったんだが……予想は外れてしまったな。




