五十話 本部への連絡
会議から数日が過ぎ、とうとう俺が提案した『依頼義務化』を、正式に取り入れる事となった。まだ、罰則については取り決めてはいないものの、もしもあった場合会議にて話し合う事になっている。
ミーネさんが「依頼を受けるようテプト君が指導すれば良いじゃない」等と言っていたのだが……本気じゃないよな?
ともあれ、それは冒険者管理部の人員増員を待ってからの事となる。
「それじゃ行ってくるわね」
その日の朝、ミーネさんは本部へと向かう馬車に乗った。普通は報告書を送るだけらしいのだが、今回は経緯や問題点など詳細な報告が必要となるため、連絡員が必要となるらしい。当初、提案者の俺が行く手筈となっていたのだが、臨時に行われた会議で、俺だと問題をややこしくする可能性があるという発言から、ミーネさんが、行くことになったのだ。もちろん発言者はアレーナさんである。
「あなたの発言を考えると安心して留守番など出来ません」
「いやいや、ちゃんと出来ますよ?」
「信用出来ません。私が行くべきです」
「何でそうなるんですか?アレーナさん、反対派ですよね?それこそ安心できませんね」
「私は、決まった事にとやかくいうつもりはありません。心配しているのは、テプト君が感情論で話を進めないかということです」
「そんなことにはなりませんよ。アレーナさんこそ少しムキになっていませんか?」
「なっていません。少なくとも提案者であるテプト君よりは冷静に説明出来ると思いますが?」
「この間の会議では冷静さを欠いていたと思いますが?」
「テプト君は良い意味でも悪い意味でも強すぎるんです。それが裏目に出ることを恐れているのです」
「何を恐れる事があるんですか?俺はこのギルドの現状をそのまま報告するーー
「いい加減にしなさい!」
ミーネさんの怒声だった。
「子供の喧嘩じゃあるまいし、みっともないと思わないの?」
「「…すいません」」
二人して頭を下げる。
「はぁ……テプト部長がこのギルドに来てから、どうも会議が熱っぽくなるわね。それは別に良いのだけれど、この場においては必要ない事よ?」
「はい」
言い返す言葉もない。
「アレーナ部長も気を付けなさい。それに、あなたには経理部の仕事があるでしょう?あなたが行くことには反対ね」
「すいませんでした」
「それと二人とも、さっきの言い合いだけど……まさか楽しんでたわけじゃないわよね?」
ミーネさんは何を言っているんだ?
「なぜそうなるのですか?」
アレーナさんも、眉を寄せて疑問を呈した。
「違うのなら良いのだけど、なぜだか私にはそう見えたのよ」
それから、ミーネさんはため息をついた。
思い違いも良いところだ。喧嘩するほど仲が良いのと間違っているのではないだろうか?俺は喧嘩をしていたつもりはないし、アレーナさんだってその筈だ。
しかし、先程のやりとりはまずかったかもしれない。……うん、まずかったな。
アレーナさんも同じ気持ちなのだろう。気まずそうにしていた。
「で?誰が行くんだ?」
安部の部長が一言。
「私が行くわ」
そう言ったのはミーネさんだった。
「妥当…ですかね」
ハゲが賛成の意を示した。皆、それに倣うしかない雰囲気になっていた。
こうして、ミーネさんが、連絡員として行くこととなったのだ。その日から、ミーネさんと打ち合わせを何回か行い、予想されるであろう質問に対しての回答なども考えていった。それでも本部が納得出来ない場合、ミーネさんからの回答は伏せて、改めて俺が出向くという形をとる。
ギルドも暇ではない。人がいなくなるということは、その分の皺寄せを誰かがしなければならない。とはいえ、俺がここに来る前から冒険者管理部は機能していなかったらしいので、俺がいなくなってもあまり影響はないように思えるんだけどな。
ミーネさんがいなくなっても、困るのはバリザスだけだ。これが一番良い選択だったのかもしれないと思う。
「留守は頼んだわ」
ミーネさんはそれだけ言うと、馬車の扉を閉めてしまった。最後の一言も言わせないミーネさんには、もはや流石としか言いようがない。
ミーネさんらしいな。
馬車はゆっくりと走り出す。
俺はその馬車が見えなくなるまで見送った。




