五話 救出依頼
ギルドに戻った俺は、あまりやりたくはなかったが、受付の列に並んだ。依頼達成の処理は受付でしか行われないため、そうする他ないのだ。まぁ、ギルド職員が依頼達成するなどという事態自体が想定されていないのだから仕方ないのかもしれない。しばらくすると、他の冒険者の男が俺の後ろに並んだ。
「なぁ、兄ちゃん。順番譲ってくんねぇかな?」
後ろから話しかけてくる。
「駄目だ。順番は守らなければならない。冒険者に渡す書類にもそう書いてあっただろう?」
「あぁ?何言ってんだこいつ。ぶっ飛ばされてぇのか?」
そういうと、男は拳を振り上げた。
えぇ? こんなことで喧嘩になるのかよ。勘弁してくれ! 俺は問題を起こすわけにはいかないんだから!
仕方無く順番を譲る。すると、後から後から並ぶ奴等は同じことを口にした。そして、注意すると、喧嘩をしようとしてくるのだ。もうやだ。
俺は依頼達成の報告を後回しにして、先に『行方不明冒険者の捜索』をすることにした。一旦部屋に戻ると、机の上に何かが置いてあった。そして、それと一緒に紙の用紙が挟んである。
『タウーレン冒険者ギルドの制服です。 ミーネ』
そこには、緑と白を基調とした、制服が一着置いてあった。なるほどな。これを着ていなかったから冒険者になめられてたのか。
早速それに着替えると、サイズはピッタリだった。背中には、剣と盾をデザインしたタウーレン冒険者ギルドのマークが入っている。
それから、早速机に行方不明冒険者の一覧を並べた。
捜索依頼は5件。
Sランク冒険者の所在
Aランク冒険者の所在
Bランク冒険者パーティの救出依頼
Dランク冒険者の救出依頼2件
……上の二つは取り合えず保留だな。冒険者というものは勝手気ままな者が多いため、ある程度ランクがあがり、お金に困らなくなると消息を絶つ者がいるのだ。問題は、他の救出依頼である。
場所を確認すると、どれもバラバラの位置だった。
俺はその紙を持って、ギルドカードを確認しにいく。ギルドカードとは、冒険者が持っている身分証で、本人と、ギルド側が一枚ずつ所持している。それは生存確認も出来る便利な物で、冒険者が死んでしまった場合、カードはただの石となってしまう。
俺はカードがしまわれている倉庫まで行ってから、鍵を借りてないことに気付いた。
……面倒くさいな。
「『解錠』」
俺はスキルを使い、鍵をあけて中に入った。確認すると、どうやら、5件ともまだ生きているらしい。その途中、ただの石になっているカードを複数枚見つける。
なんだよ。……ちゃんとチェックされてないじゃないか。なんでこんなにただの石があるんだ? 管理者は何やってんだよ。
それから気付いた。……俺じゃないか。
俺は、ただの石になったカードを報告書にするため、回収していく。普通に報告すると、俺が鍵を借りてないのがバレるため、後から借りに行こう。
「それじゃ行くか。まずは……Dランク冒険者の救出依頼。場所は、『魔物の森』か」
そこは、町の北側にある森で、昼間でも暗い。適正ランクはD以上。おそらく、なりたてのDランク冒険者が道にでも迷ったんだろう
俺は再び町を出て走る。『魔物の森』に到着すると、俺は召喚魔法を使った。
「蛇の道は蛇ってね。出てこい『ヘルハウンド』」
すると、地面に複雑な魔法陣が浮かび上がり、黒い犬の魔物が俺の前に現れた。
『久しいな』
「久しぶり。3年ぶりぐらいか?」
『我の事を忘れたのかと思っていたぞ?』
「いや、そんなわけないだろ?」
『敵か?』
「いや、違うんだ。実は探して欲しい人がいる」
『ふん、そんなことか。御安いごようだ。して、手掛かりは?』
「こいつなんだけど」
そう言って行方不明冒険者のギルドカードを出した。
『血の臭いがするな』
「そう。これには血が、情報として読み込まれているからな」
『ふむ。やってみよう』
そう言うと、ヘルハウンドは森のなかに消えていった。あいつは、俺が昔死闘を繰り広げて屈伏させた魔物だ。名前はタロウ。その名前で呼ぶと怒るから、本人の前では使っていない。
にしても、ギルドカードで探せるんだな? 正直タロウのことなめてたわ。半時ほど待つと、タロウから念話がきた。
(見つけたぞ)
早いな。さすがタロウだ。
タロウの念話を追って行くと、崖の下の洞穴で行方不明冒険者の男が震えていた。足が折れているのが分かる。それで動けなかったのか。
「よく頑張ったな?もう大丈夫だ」
「ギルド職員? ……なんで。……それに、そこにいるのはAランク級の魔物ヘルハウンドじゃ……」
「細かいことは気にするな。お前を助けに来た」
「おっ……俺を?」
「あぁ。帰るぞ?」
「帰れるのか?俺。……うっ……もう……ダメかと……」
「じゃあ、ここに押し印を貰っていいか?」
依頼書に、男の指の印を、彼の血でとる。
それから俺は、男の足に回復魔法をかけてやる。もう大丈夫だな。それから、彼を背負って森を出た。
『これで終わりか?』
「いや、実はあと2回探して欲しい奴がいる」
『なんだと?あと2回もか。これは、報酬を弾んで貰わねばな』
「分かってるよ!!」
ちなみにタロウの言う報酬とは、ドラゴンの骨である。いつもならワイバーンの骨をあげるのだが、今回はもっと上位の骨をやろう。……火竜でいいかな?前に倒した素材があったし。
俺は再び町に戻る。なんかこうしていると冒険者に戻った気分だな。