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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
問題だらけのギルド編
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四十九話 連れてこられた理由

「楽しんでる?」

もう誰も来ないだろうと思っていたら、ソカが向かいに座ってきた。頬が少し赤い。表情は緩んでいて、その目は眠いと主張していた。

「飲んでるな?」

「えぇ、だってそういう場だもの」

「俺はお前と飲みに来たんだぞ?なんで、他の奴とばかり飲んでいるんだ」

「えぇー。なにそれ、嫉妬?」

なぜそうなる。


「見てみなよ。俺が楽しんでるように見えるか?」

「うーん。あまり見えないわね」

「そうだろ?」

「でも、本当はそうでもないでしょ?」

そんな彼女の言葉に、一瞬呆けてしまった。

「……なぜそう思う」

「だってあなたは、ここにいる人達と同じ臭いがするもの」

「それは……どういうことだ?」

「え?分からないの?……ここにいる人達は、みんな自分のために何かを成し遂げてきた人達よ?あなたもそうじゃないの?」



「……」


「しかも皆成功者ばかりよ?ここに来れば、きっとあなたのためになると思ったんだけど」


「…」


「違った?」

いつの間にか彼女の表情には、不安の色が浮かんでいた。


……そうか。彼女は俺のためにここに来たのか。ようやく理解した。

どうやら俺は彼女に頼りすぎたらしい。だからソカは、まるで自分がいないと何も出来ないかのように勘違いしてしまったのかもしれない

「別にそんなこと頼んでないよ」

慎重に言ったつもりだったが、自身の声の低さに驚く。

「そうなんだけどさ。…でも面白い話とか聞けたでしょ?」

面白い話?

「あぁ」

「もしかして怒ってる?」

「そんなわけないだろ」

それは、とても喜ぶべきことのはずだ。ソカが献身的に俺の事を考えてくれているのだ。


だが、それに甘んじて今後やっていくことは、彼女を利用していることになるような気がした。そして、それを良しとする考えが頭の中に浮かぶ。


ーーー彼女は味方にしておくべきだ。


もしかしたら、俺もここにいる奴等と同じなのかもしれない。自分が這い上がるために、他人を利用しているのかもしれない。気持ちの中ではそれを否定したくても、胸を張って言い切ることは出来ない気がした。


「なぁ、ソカ」

「なによ?」

「お前は、俺のためになると思ってここに来たんだろ?」

「……まぁ、ね」

「なぜそこまでしてくれるんだ?」

「そんなの……面白そうだからに決まってるじゃない」

一瞬言葉につまったものの、彼女はそう答えた。

「面白そう?」

「前にも言ったでしょ?あなたは他の職員とは違う。その…ここに来る人達の意見とか聞いたら、もっといろんな事をしてくれそうな予感がしたのよ」

ということは、結局廻り廻って自分のために連れてきたんだな。

「ソカはここに来て楽しかったか?」

「私?ええ、楽しいわ」

「なら良かった」

「なによそれ?」

「いや、お前のために来たはずなのに、楽しんでなかったら本末転倒だろ?」

ソカは、一瞬だけビックリしたような表情をしてから、またいつものようにニヤリと笑った。

「そういうところが他の奴と違うのよね」

「どういうことだ?」

「教えない」

もう不安そうな表情はなかった。

「なんだよそれ」

言いながら俺も笑った。

「じゃあそろそろ帰る?」

「良いのか?まだ楽しんできて良いんだぞ?」

「もう十分楽しんだから」

「そうか。なら帰ろう」

彼女は持っているグラスを置いて立ち上がった。俺もそれに倣う。

店を出るとき、ハンデラスが近寄ってきた。こいつ、まだいたのか。


「ソカちゃん、もう帰るのかい?」

「ええ。もう遅いしね?」

「そうか。また、おいでよ。俺はだいたいここにいるからさ」

「知ってる。まさか、毎日来てるわけ?」

「これも、仕事だよ。他の者達と交流するのも、貴族である役目の一つだからね」

「大変なのね?」

「そうでもないさ」

それから彼はこちらを見た。

「じゃあ頼むよ付き人さん。夜道は危ないからね」

ソカなら大丈夫だと思うけどな。


こうして、俺とソカは店を出た。

扉の前にはやはり、上品な男がまだ立っていた。


「どうでしたか?」

男は話しかけてくる。

「楽しかったわ。また来るわね」

どうやら、ソカは頻繁にここに来ているようだ。案外金持ってんだな。

「そちらの方は?」

俺は苦笑いをしてしまう。

「楽しかったですが、やはり俺にはレベルが高いような気がしました。機会があればまた来ますよ」

「そうですか。……まぁ、これは参考程度に聞いてもらえれば良いのですが、一度ここに来られた方は何度か通われています。また、あなたとお会いできるのを楽しみにしてますよ」

多分、もう来ないと思うけどな。


帰り道、人も少なくなっていて家々に灯る光も随分少なくなっていた。見覚えのある町並みが見えてくると、先程まで別の世界にいたような気がしてくる。


「今日はありがとな」

「こちらこそ。また何かあれば言ってね」

短い会話ではあったものの、そうして俺たちは別れた。


酔ったからなのか、夜風が妙に気持ち良かった。そして、少し歩いてから服を返していないことに気付いた。



まぁ、良いか。魔法で綺麗にしてから返そう。


余談だが、お金もちゃんと後日返しました。


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