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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
問題だらけのギルド編
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四十話 会議(後半戦)

「どうぞ」


「お邪魔しまーす。うわー、初めてこんな所入った」

アレーナさんの言葉に入ってきた冒険者は、なんとソカだった。


お前……なにやってんだよ。それは流石に予想外だぞ?というか、この時点で俺の勝ち確定じゃねーか。


俺は呆けた後、沸々と込み上げてくる笑いを必死に抑える。


「あら?……あなたに会議に出てもらうよう頼みましたっけ?」

「なんか友人が来られないらしくて、代わりに来たの」

平然と嘘をつくソカ。一瞬アレーナさんは首を傾げたが、そのまま彼女を自分の席の隣まで案内した。


チラリとバリザスを見ると、顔を手で覆っている。まさかランク適正試験前日に、一緒に飲んだ冒険者が来るとは思っていなかったのだろう。そして、覆った手の隙間から、俺を睨んできた。違う、俺のせいじゃない。


「それじゃ早速だけど、あなたは現在テプト部長がやろうとしている闘技場への参加には賛成なのかしら?」


「私?はい、賛成ですよ」

元気よく答えるソカ。お前そんなキャラだったか?そうツッコミたくなる。

「今、彼がもう一つやろうとしていることがあるのは知っていますか?」


「知りませーん」

お……い……下手くそ…過ぎるだろ。


「それは、あなた方冒険者に依頼を強制的に受けさせようとしているの」

「えぇえ!そうなんですか!?」

両手を挙げて驚くソカ。わざとなのか?お前わざとやってるんだろ!?

「それは、……こめんなさい、今から言うことに気を悪くしないでほしいんですけど……町の人達の依頼を冒険者が受けないことが理由としてあげられています。それを解決するためのシステムなんですが、私はもっと他に良い方法があると思います。皆生活がかかっているから報酬の低い依頼は受けないのですよね?なら、その報酬をあげたら良いと思いませんか?」


「うーん」

腕を組んで考え込むソカ。……この茶番劇はなんなんだ。

「でも……やっぱり私はテプトさんを支持するわね」




「……なんですか?もう一度」

その答えは彼女にとって予想外だったのだろう。もう一度聞き返した。

「だから、今まで顔も見たこともないような職員の人に、私達の事を心配されるなんて、嫌だと言っているのよ」

「ブッ!!」


我慢出来ずに吹き出してしまった。なんだよその理由。理由になってねーよ!感情論じゃねーか!

アレーナさんが俺を睨み付ける。おっと……いけない。


「それでは、あなたは自分達の利益になることよりも、信頼できる人の意見を取るということですか?」

「私たちはパーティーを組んだとき、背中を仲間に預けるわ。それは実力があって、信頼できるから出来るの。名前もろくに知らない人なんかにそんなことはしないわ」

「ですが、これは戦闘ではありません。あなたの意見一つで、冒険者の立場が変わるのですよ?」


「冒険者に立場なんてあったのかしら?私たちはいつだって自由に生きてるわ。気に入らないなら、やらないだけよ?それもダメならここから出ていくだけ」


アレーナさんは口を開けて固まってしまった。

しまいには、沈黙が続いた後にソカが「終わったなら帰っていいですか?」などと聞いてくる始末。


「帰って大丈夫よ。手間を取らせて悪かったわね」

不意にミーネさんが言葉を発した。

「ですが!!「アレーナ部長。もうあなたの反論に意味がないことくらい、わからないのかしら?」


アレーナさんは辺りを見渡した。安部の部長はうなだれている。

「わか…りました、ごめんなさい。……ありがとうございました」

そして、ソカに頭を下げた。なんともいえない空気の中、ソカは部屋を出ていった。アレーナさんは静かに席につく。

「では、改めて、テプト部長の提案に賛成の方を拍手を。反論がある方は挙手を」


ローブ野郎とハゲが拍手をする。手は上がらない。そして、安部部長もアレーナさんも、諦めたように拍手をした。

「賛成ということで、この案を正式に採用します。また、それに準ずる冒険者管理部の人員増員も含めて承認とし、後日本部に届け出を提出します。今後詳しい取り決めについては冒険者管理部と会議によって決めていきます。では、次の提案書をアレーナ部長よりーー」

その時、アレーナさんが立ち上がった。

「ミーネさん。私の提案書は無かった事にしてください」

そんなことを言い出した。

「……それはなぜ?」

「これは、テプトさんの提案書を通さないために用意した物だからです。私は冒険者のことも、町の人達のことも考えて作ったわけではないのです。ただ、彼の提案は今後本部にとってあまり良いものではなく、このギルド自体を疎ましく思われるのが危険だからです」


「それは……どうゆうことかしら?」


「私は知っている通り本部にいた人間です。本部の人間が持っているギルド職員としての誇りは、『魔物を倒すほどに力を持った冒険者を御している』という間違ったものです。それは、地位が高い者ほど強く思い込んでいます。だから、それを維持するために彼等は冒険者には強制をせず、問題をあやふやにして理解を求めるのです。なぜなら、冒険者が本気で反乱を起こしたとき、それを抑える力が冒険者ギルドにはないからです」


「つまり、あなたは冒険者の反乱を怖れて、テプト部長の提案に反対していたということ?」


「逆ですよ」

そう言って、アレーナさんは力なく笑った。

「私は、こんな間違った組織など潰れてしまえば良いと思っていました。本部にいた頃は上司によく意見していました。しかし、その意見は取り入れられず、結局私に下されたのは、このギルドへの異動でした。……権力とは怖いものです。それに取り憑かれた者は本来の目的を見失い、保身的な行動を取るようになります。そして、それを実行するだけの力が権力者にはある。でも、ある時ふと思ったんです。それでも世の中が上手く回っているなら、それが正解なんじゃないかと」



「だから今まで間違っていると思った事を、自ら進んでやるようになったんですか?」

俺は問いかけた。思っていたよりも自分の声は低く冷めていた。


「……はい。私が怖れたのは本部です。彼等にかかれば、ここは全く違った組織へと生まれ変わらせる事が出来ます。それも、彼等の都合の良い組織へと」


「そんなことが許されるのか!!」

安部部長が大声を出して、机を叩いた。それに、アレーナさんは頷く。

「許されてしまっているのです。……彼等によって泥水を飲まされたギルド職員は多くいます。私は軽傷で済んだ方ですよ。でも、冒険者ギルドが成り立たなくなってしまえば、冒険者は魔物を狩らなくなってしまいます。町を守るため、人のために戦える人など数える程しかいません。報酬という飴を与えることによって、人間の世界を守っているのです」


「その為には誰かが犠牲になっても良いんですか?ギルド学校では、そんなこと教えてもらってませんよ?」

拳を強く握りしめる。


「あそこでは、ギルド職員が如何に素晴らしいかを教え込む所です。それは事実で間違いありませんが、それを行っていくためには綺麗事ばかりではないことを教えません。皆、卒業してから嫌というほど思い知らされるのです。そして、気がつくと、皆それをしてしまっているのです。……私もその一人です。もしかしたらテプトさんもいずれはそうなるかもしれません。私とあなたとの違いは、善悪に対する目が曇っているかいないか、そして、悪に手を染めることによって得られるものが、見えているかいないかの違いです」


「……アレーナさんには、何が見えているんですか?」


「このギルドの平和と、町の平穏です」


「そんな紛い物を、平和と平穏とは呼びませんよ?」


「紛い物でも、そこに少しでも安定を見出だした時、人は躊躇なく平和と平穏を口にするんですよ」


そんなの許されるはずがない。いつまでも続くわけがない。俺も確かにアレーナさんの悪事に加担してしまっている。だがそれは、まだ納得できた。彼女は、何かを得るためには何かを犠牲にしなくてはいけないことを知っているのだろう。しかし、それで全てを片付けてしまって良いのだろうか?

「アレーナさんの考えは分かりました。ですが、今現在困っている人達から目を背けるのは、今の俺には許容できません。彼らも必死に生きているんですよ?」


それに、アレーナさんは答えなかった。俺もいつか彼女みたいになってしまうのだろうか?そう思うと、なっていくような気がした。俺はちょっとずつ理解し始めている。何かを成すために犠牲はつきものだと。だがそう思うと、まだ心の中でそれを否定する自分もいた。

暗くて黒い底無しの沼に、胸まで浸かってしまっているような気がする。俺は骨の髄までこの沼に犯されてしまうのだろうか?



ただ……まだ抵抗できるなら、その時までは……。




これでようやくテプトに部下をつけられます。主人公の性格に関して意見があったので、部下の性格は思いきり利己的にします。


会議はもう一話だけ続きます。といっても、ローブ野郎の茶番回になりますが。

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