四話 反撃ののろし
「こんなものかな?」
気がつくと俺は、壁に「死ね」の文字を追加していた。もちろん相手はバリザスだ。きっと前任者も彼に向けて書いたのだろう。苦労がわかるぞ。
それから、依頼書を胸にしまって支度をする。こうなったらとことんやってやる。それであの野郎に吠え面かかしてくれるわ。
俺は簡単に終わりそうな依頼を達成するため、部屋を出た。階段を降りて一階のロビーを通るとき、一人の冒険者が足を引っ掻けようとしてきた。ここは不良学校かよ? それを颯爽と避けて出口へと向かう。
「おい、待てよ?」
そんな声が後ろから聞こえたが無視無視。相手してる暇ない。そのまま勢い良くギルドを出た。
「まずは……『薬草の採集』が6件か」
これは、冒険者時代に死ぬほどやった依頼だ。難易度的には低いし、報酬も少ないので受ける冒険者がいないのだ。しかし、これをやることによって、回復薬の知識が分かる。どのポーションに、どんな薬草が使われているか分かるので、案外馬鹿に出来ない依頼なのだ。
知識が増えて、お金も貰える。さらに安全性も高い。こんなに旨い依頼はないはずなんだけどな? ……なんで未達成なんだろうか?
俺は町の外に出て、森まで走り、久しぶりのスキルを使う。
「『検索!!』」
これは、探したいものを探すスキルで、初期に俺が取得したスキルだ。これを使えば、薬草なんて直ぐに見つかる。
「あったあった」
俺はほどなくして、規定数の薬草を取り終えた。それを、空間魔法でしまう。次は……っと。
「『スライムの魔石15個』か。……たしかにこれは面倒くさい」
スライムとは、一定の条件でしか出現しない魔物で、一度出現すると、しばらくは出現しない魔物である。
「まぁ、こいつは俺のストックから出すか」
冒険者時代、俺はスライムの養殖をこっそり行っていた。どんなスライムが、どの条件で出現するのかを研究するためだ。その結果、スライムの魔石を俺は千個以上もストックしている。少しやり過ぎた感じはあったものの、スライムと戯れた日々はとても楽しかった。
「次は、『壁の修復』ね。……職人に頼めば良いだろうに」
それは、町を囲む壁の修復作業だった。俺は、急いで現場に向かうと、立ち入り禁止の看板があり、確かに壁は崩れかけている。
その近くは魔物が潜む森があるので、こうして冒険者ギルドに依頼が来たのだろう。
「ほいっと!」
俺は土魔法でそれを瞬時に直す。壁は瞬く間に直ってしまった。
「次は……『家の修復』か。4件もあるじゃないか! ……この町の人達は頼む相手を間違えてるな」
俺は町に戻って、地図を片手に依頼のあった家を回っていく。同じように土魔法で直すと、皆驚いていた。……なんでかな?
4件あったうちの1つは、既に別の職人によって修復されていた。
「あんたらがいつまで経っても来ないから、高い金出して直しちまったよ!!」
家の主人に怒られてしまった。俺はすいませんと頭を下げて、代わりにと、魔石を主人に10個程渡した。
この世界で魔石は生活に無くてはならないものだ。魔石には属性を付与することができ、水属性の魔石なら水が出て、火の属性なら、火を起こせる。俺は鍛冶屋の息子だからその辺の加工もお手のものだ。だから、魔石がなくならない限り、こうやって俺は迷惑をかけた人やお世話になった人に魔石を渡してきた。
まぁ、魔石は腐るほど持ってるから当分は大丈夫だな。家の主人は喜んで受け取っていた。
「後の4件は……夜の依頼だな。今できる未達成依頼はここまでか」
俺は、他の依頼を後回しにすることを決めて、ギルドへ一旦戻ることにした。