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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
問題だらけのギルド編
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三十八話 最後の仕上げ

アクセスが300万を突破しました。いつもお読みいただき本当にありがとうございます!また、感想に対する返信が遅くて申し訳ありません。全て読みますので、もうしばらくお待ちください。

また、意見を読み、作者自信の不甲斐なさを今更ながら痛感しております。


多く意見のあった『万能型』について、この先説明する予定でしたが、ここで軽く触れておきます。


投稿の速度ですが、遅いときは作者が忙しい時です。執筆も返信も暇をみて行っています。一応活動報告に投稿可能な時間帯の目安を載せています。あくまで目安です。

会議直前、準備を整えてからギルドマスターの部屋に行くと、いつもはまだ見ないバリザスがいた。

「なにかしら?もうすぐ会議よ」

ミーネさんが訝しげな目線を向けてくる。

「最後の仕上げですよ」

それを笑顔で答えてから、バリザスの前に立った。

「……なんじゃ?」

バリザスは不審者を見るような目で俺を見てくる。警戒してるな。

「単刀直入に言います。会議で出す提案に賛成してください。もう読んでいるはずですよね?」

「……あの無茶苦茶な提案書か。それは無理じゃな。戯言も大概にせい」

そう言って、出ていけというように手をはらう仕草をした。

「アレーナさんからも出てますよね?提案書。それには賛成するんですか?」

「お前には関係のないことじゃ」

「関係あるから聞いてるんです。もしも賛成するならその理由を聞きたい」

「それは会議ですることじゃ。今するべきではない」

「そうですか。……わかりました。でも一つだけギルドマスターに言いたい事があります」

「……なんじゃ」

俺はなるべくニッコリと笑みを浮かべる。

「ランク適正試験の事は覚えておいでですか?」

「……あれか。それがどうした。おっ……終わったことじゃ」

少しだけ、バリザスは目を逸らした。やはり後ろめたいのだろう。

「まさか、前日に女性と飲みすぎて覚えてない……なんて事はないですよね?」

「なっ!……何を言っておる!馬鹿にするのもいい加減にせい!」

おぉ。効いてる効いてる。

「なんの根拠もなしに言っているとでも?」

「根拠?……そんなものあるはずなかろう」

「そうですか。なら私が小耳に挟んだ情報を言ってあげましょう」

「……情報じゃと?」

言いながら、バリザスはミーネさんをチラチラと気にしていた。分かりやすいな。

「まぁ、情報源は一人の冒険者ですよ。あなたに憧れを持っていて、あなたの武勇伝をいくつも知っている人です。名前は伏せておきますが、俺が聞いたら快く話してくれましてね?ランク適正試験前日、あなたとーーー「まっ!待て!!」

バリザスは突然立ち上がり、声を荒げて俺の言葉を切った。


「……なにか?」


「……なんじゃ……その。そんな馬鹿げた話をここでされても困る」

「まだ話終わってないんですが……では、会議にて話した方がよろしいですか?」

「そっ……それは……」


しばらくバリザスは考えていた。目が執拗に泳いでいる。このくらいで良いかな?

「まぁ、ここでそれを言っても誰も得をしませんから、止めておきましょう。私の願いは一つです。俺の提案書に賛成をしてください」

「……っ!!」

バリザスはようやく理解したようだった。これはお願いではなく、脅しなのだと。地位ある者にとって、一番怖れるべきことは名誉に傷がつくことだ。バリザスの場合、ギルド内での名誉など0に近いのだが、当の本人がそれに気づいていない。全くもっておめでたい。


たが、それでこそ操りやすい。せいぜいそのちっぽけな自尊心に傷がつかないよう悩め悩め。


バリザスは黙ったままだった。

「お話の途中ですいません。ギルドマスター、そろそろ時間ですよ」

ミーネさんがそう話しかけてきた。

「そ、そうか。わかった」

バリザスは安堵したように呟く。良い秘書で良かったな?


「テプトくんも準備をなさい。もう十分でしょ?」

ミーネさんはそう言って俺に退室するよう促した。

「わかりました。では、後程。良い答えを期待してます」

それから踵を返して部屋を出ようとする。


「テプトくん」


ミーネさんの声に足を止めた。

「なんですか?」

振り返ると、落ち着いた表情でミーネさんはこちらを見ている。

「もう戻ることは出来ないわよ?」


そんな言葉を投げ掛けてくる。

「なんの事ですか?」

とぼけたように答えると、彼女はため息をついた。

「君が歩む道は、今まで誰も通ったことのない荒れ地よ。別に、そこを行くのはあなたの勝手。でも……手段を間違えれば、もう普通の道に戻って来ることは出来ない。……なぜ荒れ地が荒地野まま放置されているか知ってる?」


まわりくどい言い方に、一瞬眉をひそめる。

「誰もそこを整備しようとしなかったからです」

それにミーネさんは首を振った。

「違うわ。そこはあまりにも危険だから、誰も分け入ろうとしないのよ。覚えておきなさい」


しばしの沈黙。

それから俺は、おかしくなって笑ってしまった。


「ミーネさん。その話は最初に聞きたかったです。俺はこのギルドに派遣されてきてから、既に普通の道なんて知らないんですよ。それに、そこがどんな荒れ地であろうとも、その先に夢みたいな財宝があるなら、人はどんな危険を犯してでも目指すんじゃないんですかね?」


「それは君の考え方よ。もしもそれが原因で、荒れ地に眠る魔物が暴走し関係のない人を傷つけた時、君は多くの人達に糾弾されることになる」


それは、俺がこれからやろうとしていることを例えて「やめた方が身のためだ」と言っているのだ。そして、もしも俺がやることで被害がでるならば、敵にまわると、そう言っているのだ。


「これはお願いでもなんでもない。警告よ」

そう言ったミーネさんの顔は真剣で、思わず俺まで真剣な表情をしてしまう。


「……わかりました」


でも今更どうすれば良かった?しがないギルド職員に無理難題を押し付けて放置していたのは紛れもなくこのギルドだ。それが一番の方法だと思っていたのか?それに従えば良かったのか?


ミーネさん。俺にはあなたの言う『普通の道』ってやつは、酷く細い崖の道に見えるよ。人が一人通るだけで精一杯の一方通行だ。向こうから人が来れば、どちらかがその崖に落ちなければいけない。脇にそれて、道を譲ることすら出来ない。それをさせないためにこのギルドがやってきた事はなんだ?『どちらかが一旦戻って、再度出直して下さい』と声をかけただけだ。


今まで歩んだ道のりを、もう一度戻らなければならない人の気持ちがわかるのか?


下手をすれば、道を押し通るため争いが起きかねない。


冒険者と町の人達。彼らの為に道を整備することに、なんの不都合がある?そして、それが冒険者ギルドの役割じゃないのか?


ここはギルド学校で学んだ『冒険者ギルドの在るべき姿』を捉え間違えている。


ギルドは、冒険者と町の人達のすれ違いを無理矢理納得させて、その場凌ぎをする所ではない。彼らの違いを擦り合わせて、どちらにとっても良い方法を考え実行するところだ。


魔物がいるから冒険者がいて、冒険者がいるから町が潤う。そして、町に住むのは依頼人だけではなく、それを請け負う冒険者もまた含まれるのだ。だから町の人達は冒険者を邪険に出来ないし、冒険者も町の人達と共に生きなければならない。


密接に絡まった関係をうやむやにして、そのままにしておけば、かならず何処かで綻びが出てくる。


それは、この世界についてまわる大きな問題でもある。


『魔力とスキル』すべてはそこにある。それを持たざる者と、持つ者により、人の職業は大きく変わる。そして双方に軋轢(あつれき)が生じるのだ。


だったら、どちらとも言えない、どちらとも取れる、『万能型』の俺がその軋轢をなくしてやる。そして、本来冒険者ギルドとはそういった所なのだ。




俺はそれから部屋を出る。拳に力が入り、扉を強く閉めてやりたかったが、出来るだけ丁寧に、これ以上ないほどに優しく閉めてやった。

「……よく耐えた。これで完了だ」

そう呟いた。

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