三十七話 待ち人
沢山の感想、ご意見ありがとうございます。全て読ませてもらっております。返信に時間がかかってしまい申し訳ないです(汗)
会議当日、いつもより早く出勤すると、ギルドの前にソカがいた。
「もう受付を待ってるのか?まだ依頼受付すら始まってないぞ」
声をかけると、彼女はハッとして俺を見た。
「良かった。まだ中に入ってなかったのね?」
「……ああ」
この時間帯、冒険者も依頼人もまだギルドには入れない。
「会議って何時から始まるの?」
突然ソカはそんなことを聞いてくる。
「え?……朝礼の後すぐにはじまるから、8時過ぎからだけど」
すると、彼女は何か考えているのか黙りこんでしまった。
「……どうした?」
「あなたとその会議でやりあう相手って、経理部の女部長さんよね?」
「そうだよ」
「最近その女部長さんが、皆に『少しでいいから、今度の会議に出てほしい』ってお願いしてるそうなの」
……アレーナさんが?
「皆暇じゃないし断ったらしいけど、なぜそんなことをする必要があるのかしら?」
「……わからない。ソカも言われたのか?」
「私は言われてないわ。昨日、冒険者友達から聞いたの」
「そうなのか。……というか、それをわざわざ言いに来てくれたのか?」
「まぁ…ね。私はその会議に何の思い入れもないけど、一応あなたに私は協力したじゃない?共犯?共闘?よく知らないけど、心配になったから」
彼女は、さらりとそんな事を口にした。しかし、朝早くにこんなところまで来て、俺を待つなんて普通はやらない。ソカは案外尽くすタイプなのかもしれないな。
「ありがとう、ソカ」
「別に。……余計なお世話だったらごめんね?」
「いや、凄く役に立ったよ。……でさ、ついでに頼み事をしたいんだけどいいかな?」
「あなた、けっこう人使い荒くない?」
ソカは呆れたように言った。
「ごめん」
「謝らないで。どうせ、頼まれることになるんだから」
「良いのか?」
「だから聞かないでって。そう言われると、断りたくなっちゃうから。ほら、私の気が変わらないうちにその頼み事とやらを言いなさいよ」
やはりソカは尽くすタイプだな。苦笑そうになる口許を必死に抑える。
「もしも会議中に冒険者が入ってくると、まずい事になるかもしれないんだ。だから会議室に冒険者を入らせないでほしい」
ソカは、露骨に嫌な顔をした。
「なにそれ?私にそんなこと出来るわけないじゃない。ギルド内は一階しか知らないのよ?その会議室の場所も、会議に出る冒険者も知らないわ」
「だからここにいて、まだ受付時間でもないのに、ギルドに入ろうとする冒険者を足止めして欲しいんだ。会議は遅くても10時には終わる。というか、俺が終わらせる」
「……なるほどね。でも、もう既にギルド内に入ってたら?」
確かに、それだとソカはなにも出来ない。
「うーん……ソカはいつからここにいた?」
「え?……なんでそんなこと言わなきゃいけないの?」
「ほら、その間に冒険者が、ギルドに入ったかな?と思って」
「いいえ、入ってないわ。出勤してくる職員だけよ」
「そうか。……ちなみにいつから?」
「……時間前から」
……ん?
「なんて?……聞こえなかったんたけど」
そう言うと、彼女は顔を赤く染めた。
「だから!……時間前よ」
最後の方がよく聞こえない。
「ごめん。もう一度……「だから!……2時間前よ!!」
よく聞こうと耳を近づけたところで、叫ぶようにそう言われた。思わず耳を遠ざけてしまう。
「えぇ、そうよ。私はあなたをここで2時間も待ってたの。何か文句ある?」
「いや、別に何も言ってないんだけど……というか、2時間も俺を待ってたのか!?」
2時間前の俺は、まだ寝ている。
「悪い?」
それから、俺を睨み付けてくるソカ。俺は申し訳なくなってしまった。
「いや……悪くないよ。ありがとう」
そして頭を下げる。ソカはそっぽを向いてしまった。そりゃ怒るよな……。
「というわけだから」
こちらを見ずにソカは言った。
「……それならギルド内にいる可能性は低いと思う。……だからここにくる冒険者を……」
「足止めすればいいんでしょう?」
「……やってくれますか?」
「やるわ。……その代わり……」
「その代わり?なんでも言ってくれ」
「……ご飯の約束忘れないでよ」
あまりにも拍子抜けの条件に俺は唖然としてしまった。
「ダメなの?」
「いや、良いんだ!というか、それは決定事項だから別のことでもいいんだが……」
「今はそれでいいわ。追加があったら言うから」
「なんでも言ってくれ。出来ることならなんでもする」
すると、ソカはこちらを見てニヤリと笑った。
「言ったわね?」
「あぁ。二言はないよ」
「分かった。それじゃ何か考えておく」
俺からも何か考えておかないとな。……ソカには助けられてばかりだ。
「でも、足止め出来なかったらごめんね。その時は諦めて?」
「助かる」
「じゃ頑張って」
「ありがとう」
そう言って、俺はギルドへと入った。
それから、周囲に誰も居ないことを確認してから、小さくため息をつく。
……これじゃ彼女を利用してるだけだよな。
沸いた罪悪感に思わず狂気の笑みがでる。
でも仕方ないよな?アレーナさん。そっちがその気なら俺だってなりふり構っていられない。今は出来ることをやるだけだ。
……あの握手は、俺を油断させるための手段だったのか。




