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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
問題だらけのギルド編
35/206

三十五話 すれ違い

前回のあらすじ


魔血の効果を冒険者に実感してもらい、その有用性を知らしめるため、ソカに魔血を預けるテプト。その過程で勘違いが起き、ギルド内で言い争いになったものの、彼女は無事にその願いを聞き届けてくれた。

テプトはローブ野郎と約束したもう一つの、『冒険者に闘技場への参加を認めさせる』という条件をクリアするため、署名活動を行うことにした。

その日から署名活動が始まった。とはいえ、ギルド内でギルド職員が『闘技場への参加を希望する』なんていう紙に署名を集めていたらどうだろうか?……きっと怒られるに決まっている。

そう思いながらも俺は、やるしかないと思った。大切なのは、公の場で、俺が何の不正もなく冒険者の意見を集めたという所にある。


「そこの君」

「あぁ?」

「そう、君だ。突然だが、闘技場に参加してみたくはないか?」

「……なんだよ?いきなり」

「闘技場に参加したいならこの紙に名前をかいてくれ」

「名前?……これは参加するための紙なのか?」

「いや。参加するために、その権利を獲得するための紙だ」

「ややこしいな。……悪いが俺は忙しくてな」

「あぁ……いや、手間をとらせて悪かったね」


そして、次に大切なのは冒険者が署名を任意で書いてくれることだ。強制をしてはいけない。なぜなら、そんな物に法的効力は全くないからだ。


まぁ、この世界の法と、元いた世界の法は全然違うんだがな。それでも、やるからには理にかなっていて、否定することの出来ない物でなければいけないのだ。


結果、署名はなかなか集まらなかった。


「テプト君!どうゆうこと!?」

冒険者専用の受付が終わると、セリエさんがやって来た。その表情は明らかに怒っていた。

「……何がですか?」

「とぼけないで。さっき、変なことしてたでしょ?」

「変なこと?してませんよ」

「闘技場に参加がどうとか言って、冒険者に話しかけてたじゃない!今、営業部でみんなその話をしてるわ。日々の激務で頭がおかしくなったの?」

「いえ、俺はいたって正常ですよ」

「だったら止めて。まだみんな疑問に思っているけど、不審がっている子もいるの」

やはり変だよな……こんなこと。だが、止めるわけにはいかない。

「すいません。いくらセリエさんのお願いでも止めるわけにはいきません」

「……どうゆうこと?わけは話してくれるのよね?」

俺は口を開こうとして……止めた。


高慢な考え方かもしれないが、わけを話せばセリエさんも手伝ってくれるような気がしたからだ。営業部内でもう話が伝わっているのに、そこに所属する彼女がそんなことを手伝いだしたら、なんと思われるだろうか。

そんなのは想像に容易い。

「すいません。わけは話せないんです」

「!?……なんで?」

「これは俺がやるべき事だからです」

ローブ野郎と約束をしたのは俺だ。俺がやらねばならない。

「なにそれ?話せないような事をやっているの?」

「今は話せないだけです。時期がくれば話します」

「はぁ?……まぁ、君のことだから何か考えがあってのことなんでしょうけど……無理をしちゃ駄目よ?」

「はい。心得てます」

「本当に分かってるの?」

セリエさんがジト目でこちらを見てくる。

「大丈夫ですよ」

そう言い直してから、セリエさんはようやく安心したようだった。本当にこの人は良い人だ。

「わかったわ」

それだけ言って彼女は戻っていった。これからの時間帯は、依頼人の受付時間になる。俺は署名活動を止めて、いつも通り未達成依頼を達成しに出掛ける。そして、冒険者専用の受付が始まると、再びギルド内で冒険者達の署名を集めた。


翌日も同じである。



ただ昨日と違ったのは、エルドさんが待ち構えていた事だった。

「おはようございます。エルドさ……「テプト。ちょっと来い」

やはり怒っているようだった。俺はエルドさんの後をついていく。彼は、受付からでは見えないところまで歩くと、急に振り返った。


「お前、自分が何しようとしてんのか分かってる?」

「……はい。分かってます」

「闘技場への参加希望を募っているらしいな。冒険者達の!」

『冒険者達の』というところを強調してくる。

「はい。そうですが」

「なに考えてんだ?そんなこと認められてないだろ?」

「認めてもらうためにやっているんです」

その瞬間、エルドさんの目つきが変わった。

「お前……本気で言ってんのか?」

正直、俺にとってはあまり怖くない。冒険者時代にドラゴンに睨まれた時の方が、百倍怖かった。

「本気ですよ」

俺もその視線を正面から受け止める。長い間お互いを見つめあっていた。

「用はそれだけですか?なら、俺にはやることがあるんで」

そう言って戻ろうとすると、いきなり肩を掴まれた。見れば、エルドさんは拳を強く握りしめて俺を殴ろうと構えている。



しかし、その拳が振るわれる事はなかった。力なく腕をぶらりと下げて、エルドさんはうつむいた。

「部長からの伝言だ。……その意味不明な行動を止めない限り、お前の提案に乗ることは出来ない」

……まぁ、安全対策部としては、それが正しいよな。闘技場に冒険者が参加するようになれば、死人がでるかもしれないのだ。それを彼等が推奨するはずがない。

「分かりました」

俺はそれだけ言うと戻る。エルドさんは何も言わなかった。


その後も俺は署名活動を続けた。最初は胡散臭そうに見ていた冒険者達だったが、少しずつ声をかけてくれるようになった。その日も一人、体格の良い男の冒険者が話しかけてきた。


「おう、ギルドの兄ちゃん、今日もやってんのか?聞いたぜ?大目玉喰らったんだってな?」



ミーネさんの事だろうか?俺が署名活動をしていると、突然ミーネさんがやって来て、どこかに移動するまでもなく、その場で俺に怒鳴り散らした。

もちろん、内容は即刻署名活動を止めること。しかし、それは出来ないと断った。

俺は署名活動を行う許可を、ミーネさんから貰っていなかった事に気づいて、ついでにその事も話すと、彼女は呆れたようにため息をついた。

「今さら何を言っているの?そんなのダメに決まっているじゃない」

「やっぱりですか?」

「でも、あなたは勝手に始めちゃったし、止めるつもりもないのでしょう?」

「……はい」

「なら、好きになさい。ここはあなたの職場よ。ギルドマスターは特に何も言ってないわ。……あの人の事だから、もしかしたら闘技場への参加を認めたいのかもね」

この時ほど、バリザスが元冒険者で良かったと思ったことはない。ちなみに、バリザスは何回か俺の目の前を通った事があるのだが、「ふん」と鼻を鳴らしただけで、何も言ってこなかった。意地っ張りか。

それにしても、ここが元の世界じゃなくて良かった。勝手に署名活動なんかしても、その行為自体の許可を取らなければ意味がないからだ。




……そんなことがあったのだ。


「はは……恥ずかしいところを見られてしまいました」

「あんた変わってるよな?最初は強くもないくせに偉ぶった奴が来たのかと思ったが、あんたは強いし、今もギルドに楯突いておかしな事をやってる。聞けば、闘技場への参加を認めさせようとしてるらしいじゃねーか」

「あんまり上手くいってないですがね?」

「そうか?他の連中言ってるぜ?あんたは他と違うってな。そのうち皆名前を書きにくるんじゃねーか?」

「そうですかね?あっ、名前書いてくれますか?」

「あぁ……俺は字を書けないんだ」

「なら代筆しますよ」

「え?そんなんで良いのか?」

良いのだ。大切なのは、俺の意思に同意をしてくれた事にある。

「なら、書いてくれ」

それから、男の名前を聞いて紙に書いた。

「ありがとな。あと、負けずに頑張れよ!」

男の冒険者はそう言って去っていった。


彼が言っていた事は嘘ではなかった。やがて、徐々に署名が集まり出したのだ。

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