三十三話 解決策
ローブ野郎をこちら側に引き込んだことにより、俺の票は二票。もしも安部がアレーナさんを支持したとしても、俺は有利に会議を進めることができる。少し急いた気もするが、これくらいの方が良いに決まっている。
問題は、ローブ野郎の提案をどう会議で通すかだ。魔血を保有するギルドなんて聞いたことがないし、闘技場への参加を促すギルドも聞いたことがない。どちらもかなりの苦戦が予想される。
しかし、打つ手がないわけじゃない。
まず、魔血だが、これは魔血の有用性を皆が認めれば良いだけだ。そして、魔物の管理が安全上の上に成り立っていると証明できれば、かなりの確率で会議に通る。
やることは二つ。
・沢山の人に魔血を使用してもらい、その効果を実感してもらう。
・魔物を養殖する上で安全の担保をつくる。
二つ目に関しては安全対策部の仕事だが、おそらく協力はしてくれないだろう。いや、もしかしたらエルドあたりは事情を説明すれば分かってくれるかもしれないが、全面協力は難しいはずだ。
「そういえば、ピラルク達はどうやってここまで運んでいるんですか?」
ローブ野郎に訪ねると、彼は得意気に笑った。
「クックッ。召喚しているのですよ」
なんだって?召喚魔法だと。
「そんな魔法を使えたんですか?」
「私は前職研究員でした。研究していたのは特殊魔法。魔方陣を描くことによって、同じ効果を持つ魔法を再現出来るのですよ」
「しかし、多くの魔物を召喚するには魔力を多く消費します。どうやって?」
「なるほど……テプトさんは魔法の方にも知識があるようですね?」
あるっていうか、使えるんだけどな。
「実はこの闘技場自体を魔方陣として使用しています。……魔方陣とは、少しの魔力をある法則によって流し、何倍もの魔力に変換する装置です。そしてその流れが大きくあればあるほど、魔力も大きくすることが出来るのですよ」
それは知らなかった。全ての魔法が使える俺にとって、魔方陣なんてものは必要なかったからだ。
「闘技場自体を魔方陣にしてしまうなんて……とんでもないですね」
「クックッ……実はこの施設。そのために造られたのではないかと推測しています。私がここに就任した時には、そういう風に造られていましたから」
なんだって?
「どういうことですか?」
「おそらく、闘技場の真ん中に魔物を召喚し、実践形式の訓練をするつもりだったのでしょう。まぁ、その仕組みに気づいた者は今までいなかったみたいですがね?」
「ということは、この部屋は……」
「はい。ちょうど真ん中に位置しています。やろうと思えば、上にも召喚出来ますよ?」
なんという仕組みだろうか。一体昔の人達は何を考えていたのだろう。
「私はそれを再利用しているに過ぎないのです。まぁ、私以外にこの魔方陣を起動出来る者はいません。起動には、古代語を唱える必要がありますから」
ということは、ローブ野郎が起動しない限り、この闘技場に魔物は現れない。……よく考えられたものだ。
「わかりました。次に、ここの部屋は安全なのでしょうか?」
「ふっ……ぬかりはありません。テプトさんは月光草の特性を知っていますか?」
月光草の特性?
「満月の夜にしか現れない……では?」
「クックッ……実は月光草は魔物を追い払う特性があるのです。知りませんでしたか?」
「……知らなかった」
「クックッ……そうでしょう。私も月光草の研究過程で偶然発見したのです」
これは検証してみる必要があるな。
「少し試させてください」
「……試すとは?」
「俺の呼び声に応えろ!召喚『ヘルハウンド』!!」
「……なっ!?」
俺の目の前に黒い犬が現れる。タロウだ。
『お呼びか、主よ?』
「久しぶり!あのさ……単刀直入に聞くけど、お前はここをどう思う?」
タロウは一瞬辺りを見回した後、驚いたように震えた。それから、低く唸り始める。
『……ここは魔除け草が群生しているではないか……このような所に呼び出すとはどういうつもりだ?』
タロウは前足を曲げて苦しそうにする。……どうやら本当のようだな。というか、月光草のこと、魔除け草って言うのか。
「わるい。もう戻って良いぞ」
申し訳なくなり、そう言葉をかける。
『次はもっとマシな場所で呼び出してくれ』
そしてタロウは消えた。
「テプトさんは……召喚魔法が……というより、今のはA級相当の魔物ヘルハウンドではありませんか!?」
隣で固まっていたローブ野郎が、突然喋り出す。
「あぁ、前に契約を結んだんですよ」
「なんと……あなたは一体?」
「そんなことより、あなたが言っていることは証明されました。ということは、魔物はここに月光草が生えている限り、あの部屋から出てくることはないということですね?」
「あっ、……はい。その通りですよ」
これはよく出来ている。……あとは、これを部長達に見せれば説得も可能だろう。こいつ……本当は凄い奴なのかもしれない。
「これなら会議に通るかもしれません」
「えぇ……でなければ困ります」
ならあとは、魔血の使用だ。
「あと、よければ魔血を分けていただけませんか?実際に使ってみたいので」
「それなら……奥の部屋に沢山あります。ポーション用のビンに詰めていまして、現在50本ほど……」
「その中の20本を分けてください」
「はい。かまいませんよ……どうぞこちらへ」
先程の部屋に入ると、先程のアンファイアンドのせいか、少し血生臭い。奥の方に、さっきは気づかなかった作業台があり、その上に赤い液体の入ったビンが並んでいた。それを一本手に取る。……これか。そうして俺は魔血20本を手に入れた。それを空間魔法でしまう。
「えっ!?……今……」
「じゃあ、あとはやっておきます。また何かあれば来ますね『瞬間転移』」
「ちょっ!?」
俺は闘技場から、ギルドの裏側に転移した。
やることを考えると時間が惜しいな……。
俺はその足でギルドへと戻った。




