三話 仕事
「とりあえず仕事の説明をするわね?」
そう言ってミーネさんが、壁に掛けてある掲示板のようなものを指差した。
「仕事はあそこに貼っていくから、あるものから片付けていってね?」
その掲示板には、埋め尽くさんばかりに紙が貼られていた。……まじかよ。
「質問はあるかしら?」
「あの、俺初日なんで挨拶まわりとかは……「大丈夫よ。仕事が最優先だから」
「教育係とか……「いないわ。だから頑張ってね?」
有無を言わせぬミーネさんに、俺はもう黙るしかない。
「じゃあ、説明は終わり。分からないことがあっても、自力で解決してね?」
そう言ってミーネさんは出ていってしまった。
そこは、私に聞いてね? じゃないのだろうか。初日だから他部署に挨拶したかったし、この部屋も掃除したいのたが、それもさせてはくれないらしい。
俺は仕方無く、掲示板にはち切れんばかりに貼られた紙を一枚とる。
「なになに? ……行方不明冒険者の捜索……か。期限は……半年前じゃないか!?」
これいつから貼ってあるんだよ? というか、前任者は何をやっていたんだ?
俺は、掲示板に貼られた紙を全て剥がし、期限が切れているものと切れていないものに分類した。
その結果。
期限切れが14枚もあった。そして、切れていないものはなんと26枚。
……一人でやれる量じゃないんだが。
さらにその26枚を、期限に近い順に並べていき、その中で最優先事項の案件を拾っていく。
冒険者ギルドには規定があり、冒険者を管理する部署を創らなければならないとある。そこでは主に四つの仕事がある。
・行方不明冒険者の捜索
・未達成依頼の達成
・冒険者の不正取り締まり
・ランク適正試験
……のはずなんだが。これを俺一人でやれというのか。
その26枚を分類するとこのようになった。
・行方不明冒険者の捜索:5枚
・未達成依頼の達成:16枚
・冒険者の不正取り締まり:2枚
・ランク適正試験:3枚
まずは直ぐに済ませられそうな案件を終わらせよう。俺は、「行方不明冒険者の捜索」と「未達成依頼」の紙の束を持って、三階へと上がる。
こういったものは依頼受付へ行き、再度依頼し直すのだ。その時の依頼人はギルドマスターである。報酬もギルドから出る仕組みだ。そうしなければ、案件が解決しないからである。冒険者ギルドは冒険者側の組織であるように思われるが、依頼人のためこうした措置をとることもあった。
俺はギルドマスターの判子を貰うため、さっきぶりにギルマスの部屋をノックした。
「どうぞ」
そう言って入ると、「なんじゃ、お前さんか」とバリザスがつまらなそうに声をあげた。
「どうしたの?何か問題があった?」
ミーネさんが首をかしげる。
「早速仕事に取りかかったのですが、この案件をギルマスの名義で再度依頼し直したいんです」
そう言ってバリザスの前に紙の束を置く。その瞬間、バリザスのこめかみがピクリと動いた。
「ちょっと!?テプトくん?どういうこと?」
「え?……何がですか?」
ミーネさんに、顔を向けた時だった。
「なぜわしが、お前のミスの尻拭いをせねばならんのだ!!!」
バリザスの怒号が飛んだ。
……へ? ミスの尻拭い?
俺が呆気に取られていると、バリザスは机を叩いて立ち上がる。
「これは全てお前の仕事じゃ!そしてお前が成さねばならん仕事じゃ!それを言うに事欠いて、わしに責任を押し付けようと言うのか!?」
「……はい?」
「若造が……仕事を甘くみるな! これにわしは判子を押さん」
そのバリザスの返答に、俺は常識が崩れていく音を聴いた。
「じゃあ……どうしろと?」
「そんなのは知らん。お前が依頼し直せば良いだろう?」
「それでは、報酬も俺が出すという事ですか?」
「当たり前じゃ! お前の仕事じゃろうが」
俺は額に手を当てる。
「ミーネさん……」
「何かしら?」
「前任者もそうやってたんですか?」
「……さぁ、分からないわ。ごめんなさい」
どうやらこのギルドは、何かがおかしい。俺が三年間学んできたギルドの仕組みとは、どこかズレている。
この時俺は決意した。まずは、このおっさんをどうにかしなければ……と。でなければ、「冒険者管理部門」は、本来の仕事を一生取り戻すことは出来ないだろう。