二十七話 楽しいディナー
セリエさんとの夕食はとても楽しいものだった。
「テプトくんがギルドに来てからまだ一月も経ってないのに、いろんな事が変わったわ」
「そうですか?」
「そうよ!一番大きなことは、受付が増えること!それで人が増えるわけだけど、私たちの仕事は随分楽になるわ。そもそもあの人数の冒険者に対して、受付が3つだけっていうのがおかしかったのよ。テプトくんが会議に通してくれたんでしょ?」
「あぁ、でもあれはギルドマスターも気にかけてたみたいですよ?」
「なによ、あんなオヤジ。結果を残したのはテプトくんよ?もっと胸を張っても良いんじゃない?それに、毎日頭を悩ませてた未達成依頼が無くなったわ。それだけでも凄いことなの。あれを毎日記帳するのは心苦しいのよね?だって、いつになっても同じ依頼ばかり残っていたんだもの。皆言ってるわよ?今度の冒険者管理部は有能だーって。おかしいよね。だって冒険者管理部ってテプト君しかいないのに。だからその度に言ってるのよ。『有能なのはテプト君でしょ?』って」
セリエさんは楽しそうに話をする。俺はそれに頷いている。
「なんか……ごめんね?私ばっかり話して」
「いや、セリエさんの話は面白いから全然気にしてないですよ」
「また気を遣ってる。私は君の話が聞きたいな?」
「俺の話ですか?別に何も面白くないですよ?」
「良いの。面白くなくても。だってこの短期間でギルド内の雰囲気を変えちゃった人の話よ?面白くないわけないじゃない」
「そんなハードルを上げられるとより話しづらいんですけど……」
「冗談冗談。面白くなくても聞きたいな?」
うーん。かといって俺は、面白い話など持ち合わせていない。
「じゃあ……俺が冒険者だった頃の話をしますね?今俺が仕事をしている上で、役立っている事なんで」
「テプト君冒険者だったの?でも年齢は私より下よね?」
「小さい頃から憧れていたので、早くに家を飛び出して、勝手に登録したんです。今思うと親不孝者ですね」
「そうなんだ。ちなみにどれくらいやってたの?」
「一年間ですね。これでもCランクまでいったんですよ?」
「え!?一年でCランク!?なにそれ!?なんで冒険者辞めちゃったの!?」
「はは……俺は万能型だったんで底が見えてしまったんですよ。その時は落ち込みましたけど、今にして思えば、ギルド職員をやるための過程だったのかもしれないです」
「へぇー、私とは大違い。私はただ食いっぱぐれのない職業につきたかったのよね。親は『女は嫁いで子供を育てるのが幸せだ』って言ってたけど、その時の私には、そうは思えなかった。だから反対を押しきってギルド学校に通ったのよ。親は、いつか自分達の考えが分かってくれるって思ってたみたいだけど、そのまま卒業してこっちに来ちゃった」
「今でも考えは変わらないんですか?」
「うーん。どうだろ?そんな人生もありかなって思ってる。私は親の言う女の常識に囚われたくなくて、ここまで来たけれど、それでも私は腐っても女だもん。皆が望む幸せって奴を考えたりしない訳じゃない。……なんか私が言ってること矛盾だらけよね?」
それには笑うしかなかった。その通りだったからだ。
「酷い!これでも最近の悩みなのよ?これから私はどうなるんだろうって、眠れない夜もあるんだから」
「すいません。……だって、セリエさんがあまりにも大っぴらに自分のことを言うから……面白くて」
必死に笑わないように堪える。
「そういう時は、『俺の所に来いよ』ぐらい言いなさいよ!」
「ぶっ!!」
とうとう堪えきれず吹き出してしまった。
「……なんですかそれ……セリエさん、男に夢見すぎ…ですって!腹痛いんで止めて下さい」
「えー!?そこ笑うところ!?」
「すいません。じゃあ改めて……俺の所に来ます?」
セリエさんは一瞬呆けた。
「っ!……改めて言い直しても駄目よ!駄目!減点!!」
そんなドギマギしながら言われても、説得力0なんですけど。
俺はセリエさんの反応が面白くて、また笑ってしまった。
こんなに笑ったのは、久々かもしれない。
こうして同じ職場の仲間たちと、馬鹿な話をして盛り上がって、笑って泣いて……あとどれくらい俺はこうしていられるのだろうか。願うなら、ずっとこうしていたい。
そのためにも、俺は俺の仕事を成そうと思う。仕事をするってこういうことなんだろうか?それは、元の世界に居た頃にも、冒険者をやっていた頃にも、味わえなかった事だ。
ギルド学校では、同期の仲間たちとよく馬鹿をやった。卒業するときは、それがもう終わるのだと悲しくもあった。しかし、生きてさえいれば、そんなこと心配せずとも、続いていくのかもしれない。
前途多難な日々のなか、俺はほんの少しの楽しみと、仲間たちとの触れあいを求めて、この先も頑張っていくのかもしれない。
そんなことを思ったとき、これからの事を頑張ろうと思えた。
「今日はありがとうございました」
二人で歩く帰路の途中、俺はセリエさんに頭を下げる。
「なによ突然、気持ち悪いんだけど?」
「いや、最近忙しかったので気が滅入っていたんですけど、セリエさんと話をしてたら、そんなことどうでも良くなりましたよ」
「なにそれ?まぁ、力になれたんだったら良かったわ。私も楽しかったし」
「またご飯に誘っても?」
「もちろん。今度は君から誘ってね?女が誘うなんて格好がつかないもの」
「はは……それは男としても同感です。今度は俺から誘いますよ」
「楽しみにしてるね?」
「はい。じゃ、おやすみなさい」
「おやすみ」
そう言ってセリエさんと別れた。俺は彼女の後ろ姿に、心の中で再度、ありがとうと呟いた。
 




