二十四話 小さな変化
未達成依頼(最近では、俺を指名した依頼)のために町を駆け回っていると、よく町の人達から声をかけられるようになった。
「テプトさんまた依頼かい?」
「この間はどうもねぇ!」
「今度店に来るときは安くしてやるよ!」
「テプト兄ちゃんこんにちはー」
老若男女問わず、皆が声をかけてくれる。まぁ、俺が達成した依頼主ばかりたが、こうやって堂々と挨拶されるのは悪くない。
今日も今日とて依頼を終わらせた。
ギルドに戻ると、ちょうど冒険者の受付が終わる頃だった。
「テプト君!」
セリエさんが声をあげた。
「お疲れ様です。セリエさん」
「依頼を終わらせて来たの?」
「はい。今終わりました」
「じゃあ今受けとるわ」
「良いんですか?」
「うん。今は忙しくないから」
俺は、今日の分の達成書を出した。
「それにしても、すごい量よね?というか、日に日に増えていってない?」
「明らかに増えてますね。これ大丈夫なんですか?」
「うーん。……分かんない。だって今までこんなこと無かったんだもの」
「まぁ、そうですよね」
「そういえば昼間、冒険者のソカさんと話してたわね」
達成書を整理しながらセリエさんが言った。やはりあの視線はセリエさんだったのか。
「彼女には困らされてますよ。毎回毎回ナイフを投げてくるもので」
「……ふーん」
「……?どうしたんですか?」
「それにしては楽しそうだったなと思って」
楽しそう……。まぁ、ソカは見ていて飽きない。
「冒険者と交流を図るのも、仕事ですから。やり過ぎると威厳が無くなってしまいますけどね」
「……そういうことにしといてあげる。今日は空いてるんだっけ?」
「……空いてるって?」
「ご飯よ。また今度行きましょうって言ったでしょ?」
「あー……」
「え?今日もダメなの?」
「実は、先約が有って……」
実は今日はエドルと飲む約束をしていた。
「えぇ?……まぁ、良いわ。じゃあ明日ね」
「明日ですか?」
「うん。このままじゃ君とご飯行くのは無理そうだもの。良いかしら?」
明日は……大丈夫だな。
「分かりました」
「なら、よし」
それから、俺は受付を後にした。
「アッハハハハ。そいつは災難な一日だったな?」
「笑い事じゃないですよ」
仕事が終わったあと、エルドと共に居酒屋で飲んでいる。彼とは仕事に対する考え方が俺と似ているため、話が合うのだ。もちろん会話の内容は仕事ばかりではない。
「エルドさんは、なぜギルド職員になったんてすか?」
「俺か?うーん。……まぁギルド職員は安定した収入があるから……かな?俺はあまり深く考えないでこの仕事を選んだんだ」
誰だってそんなものかもしれない。子供の頃に目指した夢をそのまま現実にできる人は、極端に少ない。自分が一人で生きていかなくてはいけないという現実に初めて気づいたとき、ようやく自分に何ができるのかを考える。その選択肢の中で、限りなく自分の理想を求めてみても、結果が、昔見た夢とかけ離れているということなんて、ザラにあるのだ。
「でも、結果的には良かったんだ。今俺は仕事が楽しいからな」
その意見には同感だ。
「俺もそうですね。それに、驚いています。ギルド学校の噂では、ここは最悪の職場でしたから」
「まぁ、お前の就任したところは、その噂で間違ってはいないと思うけどな。俺なら三日と持たない」
「またまたぁ。冗談はよしてくださいよ」
「いや……かなり真面目に言ったんだが……」
飲み終わった後、町をぶらつきながら帰っていると、エルドさんが言った。
「なーんか最近、冒険者お断りの貼り紙多いよな?」
彼の視線を辿ると、居酒屋の入り口に『冒険者お断り』の貼り紙が貼ってある。その言葉の下には大剣の絵が描かれていて、それにバツが描き加えられていた。この世界では読み書きが出来ない人もいるため、こうして絵が描かれていることが多くある。大剣は冒険者を表しているのだ。
「俺達には関係無いが、こういうのが堂々と貼られているのを見ると、悲しくなるな」
「そうですね。やはり彼等が喧嘩っぱやいからですかね?」
「まぁ、そうだろ。その際、物を壊された所も少なくない。だが、彼等も商売でやっていて、冒険者もかなりの収入源になっているはずだ。それを拒絶するっていうことは、かなりの事なんだがな」
「うーん。これは調べてみる必要がありますね」
「流石は冒険者管理部のテプトさんだ。」
からかうようにエルドさんが言った。
「褒めても何も出ませんよ?」
「いいや、本当に尊敬してんだよ。お前みたいな奴はうちの部署にもそうそういない」
夜の町を歩く。確かに、そういった貼り紙が貼られているところが多くある。なんだか、冒険者の居場所がなくなっているような気がした。そして、それをどうにかしてやるのも俺の仕事なのだ。
明日はそういった店をまわってみるか。俺はそう思いながら帰路についた。




