二十二話 帰ってきたBランク冒険者パーティ
最近俺を悩ませている事がある。それは、万能型が万能過ぎる事についてだ。
町の人達の依頼を、未達成依頼として処理したあの日から、日に日に依頼が増えていくのである。セリエさんが部屋の掲示板に貼ってくれるのだが、多い日には10件もこなす日があった。そして俺には、それをこなせるほどの能力があるのも問題だ。俺は冒険者ではなく、ギルド職員である。どうしたもんかなぁ。そう思っていると、セリエさんが扉を開けて駆け込んできた。
「テプトくん!!」
俺も人のことは言えないが、ノックぐらいしてくれないかなぁ?
「なんですか?」
「帰ってきたわよ!」
「……帰ってきた?」
「あなたが救出依頼していた、Bランクパーティよ」
なんだと!?
すぐさま俺は一階へと降りる。一階は人だかりが出来ていた。
「すみません。ちょっと通して下さい」
その人だかりを掻き分けて進んでいく。そこには、傷だらけの男の冒険者と、その肩を借りて立っている女性の冒険者がいた。確か、パーティーメンバーは4人のはずだが。
「どうしたんですか?」
傷だらけの男は、駆けつけた俺を訝しげに見つめている。あぁ、彼らは知らないよな。
「初めまして。俺はこの冒険者管理部になったテプト・セッテンだ」
「おい、あいつが……」
「あぁ、ギルド職員のくせにメチャメチャ強いんだよ」
「ソカが負けたって本当か?」
「この目で見た。間違いねぇ」
周りがざわつく。
「あんたが新しい奴か。それで、俺らに何の用だ?」
高圧的な態度をとる彼に、俺は駆け寄った。
「今、回復魔法をかける。『ヒーリング』」
手から光が放出され、男の傷が癒えていく。彼は驚きに目を見開いた。
「おい、あいつ回復魔法使えんのかよ!?」
「どうなってんだ一体」
「本当に強かったのか?なんであんな奴にソカが負けたんだよ」
ざわつきが一段と大きくなった。しかし、そんなのは気にしない。
男の傷が治ると、今度は女性の方に魔法をかける。どうやら足を痛めているようだった。しかしそんなもの、俺にかかれば問題ない。ほどなくして、女性は一人で歩けるようになった。
「あの……ありがとうございます」
女性の方が頭を下げてくる。そして、隣の男が言った。
「礼を言う。助かった」
「君たちの事は気にしてたんだ。ダンジョンで何があった?他のメンバーは?」
「傷を治してくれたことは感謝するが、他の事を話す気はない」
男はぶっきらぼうにそう答えると、女性と共に受付へと向かった。
扱いづらい奴だたな。もう一人の女性がペコリともう一度頭を下げて男についていく。まぁ、なんにせよ良かった。自力で戻って来たのなら別にどうすることもない。彼らは受付で、魔物の素材を出していた。
戻るか。そう思って階段に向かっていると、不意に先程の男が俺に向かって近寄ってきた。
え?
それから、俺の胸ぐらを掴んだ。どうした?見れば、彼の青い瞳は憎悪に満ちている。くすんだ茶髪と相まって、その瞳は一層目立った。
「俺達に金貨20枚をかけていたらしいな?」
男は静かに言った。
「あぁ、救出依頼のことか」
「勘違いするなよ?俺達の命は金じゃない」
俺は理解できず、呆けてしまう。
「金さえ積めば助けられると思うな。……お前は先程他のメンバーを気にかけていたな?」
「……あぁ」
「死んだ」
「そう……か。悪かったね。だがギルド側の対応としてはこうするしか手段がなかった。そこは理解してくれ」
男は胸ぐらを掴む手を弛めた。それから、ゆっくりと離した。
「悪かった」
「対したことじゃない。何も出来なかったこちらもこちらだよ」
「別に……お前が気にすることじゃない。俺達は好きでやっている」
「それを支援するのが俺達ギルドだ」
「……変わっているな」
お前も大概だと思うけどな。
そして、男は去っていった。入れ代わりでセリエさんが駆け寄ってくる。
「ごめんなさい。私はただ、『あの人があなた達のために救出依頼をしてくれていた』って教えただけなの」
それで知ったわけか。それにしても、クールかと思ったら案外激情する奴なんだな。
「気にしてないです。彼も分かってくれたようですし」
「はい。彼、無愛想ですけど、本当は優しい冒険者なんです」
不器用ってやつか。
「今このギルドのBランク冒険者の中では、彼がトップだと思います」
……そんなに強いのか。
「じゃあ、Aランク試験を受ける日も近いのかな?」
そう呟くと、セリエさんが首をふった。
「おそらく彼が、Aランク試験を受けることはないと思います」
「なぜですか?そんなに強いなら……」
「彼のパーティーメンバーの女性。彼女が万能型だからです。他の二人も、およそ戦闘要員と呼べる人達ではありませんでした」
俺は返すことばを失ってしまった。そんな冒険者パーティーがいたのか。
俺は彼の書類を思い出す。
『カウル』
Bランク冒険者。武器はバスターソード。
茶髪に印象的な青い瞳からは、なぜだか俺の知っている冒険者とはどこか違う気配を感じた。




