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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
True end 知られざる英雄
202/206

朝日は国の改革を告げる

静かに処刑の瞬間を待つが、一向にその時は来なかった。

変化と言えば、数時間前に一人の囚人が連れ出されたことくらい。それ以外は至って平和な時が流れていた。


そう思っていた矢先のことである。


「……テプトさん、出てください」


そこに現れたのはヒルだった。彼は牢屋の扉を開け、出るように促してきた。


……とうとうか。


「手錠はしなくて良いのか?」

「あなたには必要ないでしょう?」

「まぁ、それもそうだな」

「代わりに、これを上からかぶってください」


そう言ってヒルが渡してきたのは、綺麗なローブだった。


「随分と高そうなローブだな? 流石は王都、罪人に対しても扱いが違う」

「あまり喋らないで下さいよ。それで顔を隠して下さいね」


ヒルは苦笑いし、牢獄から離れていく。それに俺は続いた。

その後、ヒルは俺を気にする様子もなくずんずんと歩いていく。俺が逃げないと安心しきっているのだろう。


だが……少し油断し過ぎじゃないか?


彼は一切後ろを振り返ることをしないからだ。そのまま、彼は門ではなく、裏の扉から外に出た。

牢獄は王都の町から少し離れている。だから、護送車で用意してあるのかと思ったが、そんなものはなかった。


「……歩きか?」

「えぇ、このまま城まで向かいます。歩きは嫌ですか?」

「いや、そうじゃないんだが」


あまりにも警備がガバガバ過ぎるのだ。


なんなんだ? 何故、処刑される俺が、逃走の心配をしなければならないんだ!


そう叫びたくなってしまう。

もしかしたら、俺への配慮として最後の散歩を楽しめということなのかもしれない。……楽しめるかよ。


「あぁ、向こうの川で体を清めてください」


ヒルは思い出したように言って、少し先にある川を指差した。


なるほど、最後の水浴びというわけか。俺は川の畔に立つと、服を脱いで冷たい水の中へと足を踏み入れた。


「ちょっと、テプトさん。それじゃあ丸見えです。もっと、奥に行って下さい」

「……ん? 奥に行ったらヒルから見えなくなるぞ?」

「なに言ってるんですか。僕は男の裸なんて興味ありませんよ?」


いや、そういう意味で言ったわけじゃないんだが。


ヒルの不可解な行動はその後も続いた。川で体を清め終えると、そのまま歩いて城の裏手側へ回った。そこで、俺はこれまた綺麗な服を渡される。それに着替えると、今度は鏡を持ってきて身なりを整えるよう言われた。


……まさか、次は体に塩を塗り込めとか言うんじゃないだろうな?


前世で読んだ物語を思い出すが、流石にそれはなかった。

だが、俺は罪人だというのに、あまりにも立派な姿になっている。


まぁ……この方が大悪人っぽいのかな? などと、無理矢理自分を納得させる。


ヒルはそのまま裏から城に入った。城の中はとても大きく、きらびやかな装飾が見える。床のタイルは磨きあげられていて、敷かれた絨毯は鮮やかな色をしていた。


「あぁ、誰かとすれ違っても会釈だけで声は出さないでくださいね」

「ん? ……あぁ」


どういうことだろうか? それはもはや、罪人に対する扱いのレベルを越えているような気がした。


それでも言われるがままヒルについていく。彼は階段を上がり、一つの扉の前までやってくる。

そこは、どう考えても処刑場ではない。

ヒルはノックをしてから扉を開けた。中は書斎になっていて、そこにはウィル王子がいた。


「……どういうことだ?」


そんな言葉が口から溢れた。


「ん? なんだヒル、説明してないのか?」

「えぇ、テプトさんの顔が面白くて……つい」

「……まぁ、いい。テプトこっちへこい」


ウイル王子に言われて近づいていく。


「テプト、君にはこれからやってもらわなければならないことがたくさんある」

「何を?」

「まずは冒険者ギルド解体だ。優秀な第二騎士団を君に託すから、町の冒険者ギルドへ行って職員たちの拘束及び、業務調査を行ってくれ」

「……はっ?」

「これが指令書になる」


そう言って渡してきたのは一枚の紙。そこには、ウィル王子の直筆サインとアスカレア王国の紋章が入っていた。


「……そんなこと、勝手にしていいのか?」

「勝手もなにも、ここは僕の国だ」

「僕の国?」

「そうさ。先刻、大悪人であったテプト・セッテンの処刑を執り行った。その流れで、僕はこの国の王になったんだよ」


言っている意味がわからない。俺の処刑? いや、生きてますけど。


「まだ、わからないのかい? 処刑したのは君に似せた替え玉だ。そして、僕は国王になった。これから、この国を作り替えると言っているんだ」

「……俺の、替え玉」

「ヒルの報告から、僕は君を配下にしたいと前々から思っていた。でも、それを君に告げてしまえば替え玉の処刑に異を唱えるだろうと、ヒルが言った。だからこうして、準備が整うまで黙っていた」

「テプトさん、変なところで融通効かないですからね」


ヒルが笑いながら言ってくる。


「それじゃあ、事件の責任は……」

「替え玉に全部押し付けたよ。君の顔を知る者なんて、今の王都にはいないからね。……あぁ、それと君は土壇場で逃げるつもりだったのかい?」


付け加えるように聞いてきたウィル王子。それに首を振る。


「処刑執行の直前に、君が従えていた魔物が現れて、危うく替え玉を連れ去ろうとしたんだ。まぁ、その魔物は君じゃないことに気づいてそそくさと逃げたけどね? でも、お陰で民衆は、君がただ者じゃなかったと知るハメになって好都合だった」


……タロウ。


「ともかく、今回の事件で民衆たちは冒険者ギルドに強い不信感を募らせている。それがあるうちに、これを済ませて欲しいんだ」

「俺で……いいのか?」

「何を言っているんだい? 君ほどに都合の良い人間はいない。そして、君ほどに相応しい人間もいない。これは千載一遇のチャンスだ。この期を逃すほど、僕は馬鹿じゃない」

「そうか……わかった」

「それと、君は他の誰にも本当の自分を知られてはいけない。テプト・セッテンは死んだんだ」

「わかった」

「君の名前は今から『ヨル』にする。誰にも悟られることなく、僕から与えられた任務だけをこなすんだ」

「ヨル……なぁ、もしかしてヒルの名前は」

「僕がつけた。ヒルは僕の直属部隊に属しているから、ヨルもそこに属してもらう。仕事の内容は、今言った通り僕からの命令を遂行すること。危険で汚い仕事もたくさんあるけど、君なら大丈夫だろう」

「僕は片腕ありませんからね。期待してますよ」


ヒルは和やかに言った。


「それと、ヨルにはもう一つ名前を授ける」

「もう一つ?」

「そうだ。ヨルの仕事は主に隠密だが、騎士団を連れて冒険者ギルドに行くときは別の名前を名乗れ。もちろん、変装も忘れるな」

「一人で二役をこなすのか?」

「文句なら、有能すぎる自分に言ってくれ。それと名前だが――」


なんとなく、想像がつくような気がした。昼と夜がくれば後は……。


「アーサーだ」


……やっぱりか。


「アーサーは勇猛果敢な男だ。剣の才能があり、敵陣にも一人で突っ込んでいく気概がある。その姿はまるで人々に希望を与える朝日のようだ」

「なんだよ、その脳筋設定」


ウィル国は、ニヤリと笑ってみせた。


「演じれるだろ?」

「……ご命令とあらば」


これでも演劇の舞台に立ったこともあるのだ。


「たぶん、騎士団は君の実力を図ろうとするはずだから、全員を倒して実力を示せ。もちろん、アーサーは魔法禁止だ」

「ヨルは?」

「バレなければ何だってやっていい。その代わり、ヨルの時は僕の権威を使えないから気をつけなよ」


つまり、アーサーの時は権力を振りかざす脳筋男を。ヨルの時は何でもこなす隠密をやればいいわけか。


……だいぶ、極端にメーター振り切ったな。


「さぁ、アーサー。僕の命令で冒険者ギルドをぶっ潰してこい」

「ハッ! 王の命ずるままに!」

「さぁ、変身道具はこっちですよー」


調子を狂わせるヒルが、笑顔で部屋を出ていく。


……なんだかなぁ。それにキビキビとついていく俺。

まさか、こんなことになるなんて思いもしなかった。


ヒルに案内された部屋には、髪の毛からブーツまで様々な変身道具が揃っていた。そこで俺は権威ある髭を付け、耐久値よりは見た目重視の綺麗な鎧を身につける。絶対に動きづらいマントと大剣を携え、ウィル国王の指令書を片手に騎士団がいるという訓練場に向かった。


「貴様、何者だ?」


訓練場では、屈強な男たちが剣の訓練をしている真っ最中だった。そこで、一番偉そうな男に話しかけると、彼は上から物を言ってくる。


「ウィル国王をより第二騎士団に命令が下った。これより、私と共に冒険者ギルドへ行き、彼らを全員拘束する」

「なぁに? 騎士団長である私は、そんな命令など聞いてはいない」

「これが指令書だ」


そう言って、紙を見せてやる。


「……確かに。だが、貴様は何者だ?」

「アーサーだ。それと、貴様は今私の指揮下にある。言葉を改めよ」

「なんだと? 騎士団長であるこの私が、お前の指揮下に入るだと?」


騎士団については、変装中にヒルからだいたいの事は聞いた。


「仕方ないだろう。国王を守れなかった第一騎士団よりも劣る貴様らだ。おとなしく準備を始めろ」

「きっ、貴様、この第二騎士団を愚弄する気か」

「事実を述べたまで。お前らは上がいなくなったから繰り上がっただけだ。分を弁えて従え」

「言わせておけば……。貴様は先の事件で国王を守れたというのか?」


その言葉、待ってましたよ。


「ふん、当然だ。それとも、証明した方がわかりやすいか?」


そう言って剣を抜く。


「!? ……なるほど。最初からそれが狙いか」

「お前が団長だと言ったな? 負けたら私に従え。そして、今後一切私に口出しをするな」

「……良いだろう」


彼も剣を抜いた。いつの間にか他の騎士たちも訓練を止めてこちらを凝視している。


「はぁっ!」


彼が地面を踏み込んで突っ込んでくる。俺はそれを正面から受け、そのまま力で押し倒した。そして、尻から倒れた彼の首もとに剣を突きつける。


「ぐっ!?」

「さぁ、すぐに団員を束ねろ」


彼は悔しげに俺を見上げていたが、やがて、沸き上がる怒りを深呼吸にて吐き出す。


「……全員、集合だ!」


彼の声で、訓練場にいた男たちが瞬く間に整列をする。彼は立ち上がると彼らに向き直り、尚も声を荒げる。


「王より命令が下った。これより我ら第ニ騎士団は、このアーサー殿の配下に入り、冒険者ギルドへと向かう!」


整列した彼らが、一斉に返事をした。

ムサい。非常に暑苦しい。だが、これで良いのだろう。


それは、アーサー伝説の始まりだった……とか、自分でナレーションしてみるが、しっくりこなかった。


……大丈夫か? 俺?



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