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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
問題だらけのギルド編
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二十話 ギルドマスターの資格

「今日は、この間の適正ランク試験のことで、ギルドマスターの問題をあげるから証人として会議に出てくれないかしら?」


ミーネさんから言われた。

「そういえばギルドマスター、最近見てないですね。どうしたんですか?」

「今回の件がハッキリするまで謹慎処分よ。会議は午後からだから三階の会議室に来てね」


おぉ。……そんなことになってたのか。そういえば、ソカが意図的に来ないようにしたのは皆知らないんだよな?これは、バリザスに復讐をするチャンスかもしれない。


早めに会議室に行くと、中には経理部部長のアレーナさんが座っていた。

「テプト君……今回はあなたも出席するのですか?」

「そうですよ。アレーナさんも?」

「各部長は全員出席ですから」

あれ?……冒険者管理部って俺だけだよな?ってことは今後も参加しなきゃいけないのか?まぁ……その時はミーネさんから言われるだろう。


「よろしくお願いします」

「こちらこそ。……そういえば受付窓口の増設の件ですが、進めることにしました。現在3つある窓口の奥に、もう1つ造ります」

「本当ですか?」

「はい」

これで混雑も少しは緩和されるだろう。良かった良かった。


しばらくすると、他の部長もやってくる。

冒険者ギルドには

受付窓口担当の『営業部』

資金繰りをする『経理部』

様々な支援担当『安全対策部』

催し物を考える『企画部』

そして俺が担当『冒険者管理部』

の5つがある。その上に『ギルドマスター』がいて、秘書のミーネさんがいる。


それぞれの部長が集まると、ミーネさんが司会進行を始めた。もちろん、この場にいるはずのギルドマスターの姿はない。各部長も知っているのか、その事に全く触れない。

「今回、冒険者の適正ランク試験で模擬戦闘を担当するはずだったギルドマスターのバリザス様が、当日遅れてくるという事態がありました。さらに、適正ランク試験に遅れるのは前回に続き2回目です。これにより、ギルドマスターとしての資格があるのかを、この会議によって明らかにしたいと考えています」


さすがミーネさん。長い台詞を淀みもなく言うとは……きっと人を罵倒するときも、淀みなく言うんだろうな。


そして、最初に手を挙げたのは『営業部』の部長だった。頭の頂点がハゲており、年齢は40代くらいだろうか。愛嬌のある笑顔を浮かべている。

「バリザスさんの事はどうでもいいんですが、私は適正ランク試験の結果が気になります。教えてくれますか?テプト部長?」


急に呼ばれて一瞬焦る。部長?……やはり役職的にはそうなるんだよな。まぁ、正確に言えば、「部長」兼「副部長」兼「平社員」なんだろうけど。

それよりも、バリザスの事はどうでもいいだと?なにやら聞き捨てならない発言があったが、とりあえず質問に答えるため立ち上がった。

「はい。今回のランク試験合格者はいません。よって、試験のあるCランク以上はこれまで通りとなります」


「ほぉ。……理由を聞いても?」

「ランクの依頼達成が出来るか、またダンジョンでの適正ランク階層で生き残れるかを判断しました。当初はギルドマスターが模擬戦闘を行う予定でしたが、異例の事態により、俺が担当させてもらいました。おそらくどちらが戦闘をしても、結果に違いはないと思いますので、そこのところは安心してください」


「なるほど。……どうやら噂通り、今回の担当は優秀なようですね」

ハゲがニコニコしながら言った。


「……噂?」

その言葉に食いついたのは、『企画部』の部長だった。初めてみる顔だ。まぁ、それもそうだろう。『企画部』の部屋自体、冒険者ギルドにはない。実はこの町タウーレンには、冒険者ギルドがやっている闘技場がある。そこの管理を任されているのが企画部であり、祭りや大会なんかは、大抵その闘技場が会場となる。

企画部の部長はまだ若い声だが、黒いローブで顔を隠しており、男だということ以外は分からない。最初に会議室に来たとき、不審者かと思った。


「はい。実は近頃、職場でよく話題にあがるんですよ?未達成依頼を、瞬時にこなしてくる仕事男が来ただとか、冒険者よりも強いギルド職員だとか、まぁ、噂はいろいろてすが、総じて皆優秀だと言っているのですよ」


「冒険者より強い。……闘技場くる?クックックッ」

ローブ野郎は、気味の悪い笑い声を出し始めた。こいつまじで大丈夫か?血を見すぎて頭がおかしくなったんじゃないだろうか。


「俺もその話は聞いている。この間の犯人を捕まえたのもお前らしいな」

そう言ったのは『安全対策部』の部長であり、エルドの上司だ。おそらくその話も、エルドから聞いたのだろう。色黒であり、他の部長と比べると明らかに武道派だ。俺は体育会系があまり得意ではないので目を逸らしていたが、そう言われれば合わせるしかない。

「はい。……ですが、その事は内密にお願いします」

「わかっている。ネジの外れた連中がお前に何をするか分からないからな」

実はもうされてんだよ……適正ランク試験のときにな。その犠牲者がバリザスだ。


「実は私も今回の人事派遣には、驚いています。今まで馬の糞みたいな奴しか派遣されて来ませんでしたが、テプトくんは違います。明らかに、ギルド職員以上の能力を保有している人材です」

ミーネさんが言った。


「私も期待してますよ?あぁ……そういえば聞きました、受付窓口を増やすため頑張ってくれたらしいですね?営業部部長としてお礼を言っておきます。ありがとうございます」

「いやいや、あの混雑は問題になっていたので解決したかっただけですよ」


「テプトくん、報告書の時、どうせ王都側の人間だろうと思って内心馬鹿にしていました。ですが、そうではなく、あなたは冒険者ギルドの在るべき姿を知っている。これからも頑張ってください」

アレーナさんがそんなことを言い出した。


「エルドから話は聞いてる。骨のある奴が来たってな。これからもアイツとは仲良くしてやってくれ」

安部の部長はそう言って笑った。


「強い……クックックッ」

こいつには今後一切関わりたくない。



……というか、いつの間に俺を褒め称える会に変わった?

「議題はギルドマスターの事でしたよね?」

そう言って話を戻そうとする。


「いつもの事じゃないですか。それに、あのくらいアホの方がこちらがやりやすい」

ハゲが笑顔を浮かべる。

「俺も奴には慣れたな。これを本部に報告して、キッチリした奴が今更来られても困る」

安部の部長も腕組をしながら答えた。

「彼がギルドを運営しているわけではないので、あまり関係ないと思います」

アレーナさんが言い放つ。

「……なんなら闘技場で、死ぬまで戦わせる?クックッ」

……。


「それでは、今回のバリザス様の件は不問とし、引き続きギルドマスターとして続投とします」

ミーネさんがそう言った。


なんだよ。……それは。俺が思っていた以上に、バリザスは下に見られているらしい。良いのか?それで。良いのか?冒険者ギルド。

俺は呆れながらも、笑いそうになった。だって、あんなに偉そうなのに人望が全くないのだ。


バリザスに、ギルドマスターとしての資格はない。しかしここは、資格あるギルドマスターがいなくても特に問題はないらしい。

元を辿ればギルドマスターとは、粗暴で野蛮な冒険者を納得させるために担ぎ上げられたピエロだ。しかし、その実力は確かでなければならず、どこのギルドマスターも冒険者出身の人だ。

バリザスは、元Sランク冒険者だったらしい。もう既に、その経歴だけでギルドマスターとしての資格を満たしているのかもしれない。大事な事は各部長達が会議にて決定している。


そのことを理解し、少しだけバリザスに同情しそうになる。……あんたもかわいそうだな。しかし、彼はこの決定に満足し、なにも知らずに、再び悠々と出勤してくるに違いない。哀れなギルドマスターすぎる。

俺は再び、このギルドの闇(笑)を知ってしまったらしい。

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