三十二話 仲間のために命を落とす者
それはエノールの記憶。
人々から追われ、数少ない仲間たちと共に新天地を目指した男の記憶。
彼はいつも何かと戦っていた。人、魔物、過去、未来。それらは形あるものもあれば、形ないものもあり、常に彼はしのぎを削るような戦いを外と内で行っていた。
逃げることはしない。もはや、逃げ道などなかったからだ。
そんな彼にも、安息と思える存在がいた。数少ない理解者である仲間たちだ。だが、彼を戦いへと追いやっていたのは他でもない仲間たちの存在だった。仲間の為は、しいては自分の為。それを自分に言い聞かせ、彼は武器を手に取る。
それは果たして喜ぶべきことだったのだろうか?
それとも、悲しむべきことだったのだろうか?
どちらにしても、それを知る術はもはやない。エノールの考えは分かっても、そこに渦巻いていた感情だけは記憶にはないからだ。
ぼんやりと、その記憶を眺めるように見ていた。そこにあった感情を掬いとろうと、ただ見ていた。
それでも、エノールがその時に何を思っていたのかだけはわからない。わかるのは、彼が何を考え、何をしたかという事実だけ。
そして彼は、仲間たちの為に自らの命を犠牲とした。長く続いた戦いには勝利したものの、あまりにもその代償は大きかった。
エノールは知っていたのだろうか? 目的を達するための戦いは、確実に自らの寿命を縮めているという事実に。気づいていて尚、その戦いに身を投じたのだろうか? もし、そうだとすれば、エノールが願った事は皆の幸せだったのだろうか? それとも、自分の幸せだったのだろうか?
彼は……。
そこで目が覚めた。
「随分と寝てたな? 休憩はニ十分じゃなかったのか?」
アルヴがニヤリと笑いながら俺を見ていた。
「どのくらい寝てた?」
「さぁな? 一時間は経ってないだろうよ」
「すまない。すぐに行こう」
言ってから起き上がる。たしか、ダンジョン攻略の最中に休憩を取ったのだ。前日から殆ど寝ていなかった為、休憩中にうつらうつらしてしまい、どうやら深く眠り込んでしまったらしい。
「もう良いのか?」
「あぁ。先はまだ長そうだしな」
「それもそうか。……よっと」
アルヴも反動をつけて起き上がる。
「アルヴは、疲れてないのか?」
「あ? あぁ、ダンジョン内は魔素が満ちてるからな。魔物に近い俺は回復が早いんだ」
「……そうか」
「今、俺に悪いこと言わせたとか思ったんじゃねーだろうな?」
「いや……」
「言っておくが、確かに俺は望んでこんな体になったわけじゃねぇ。だが、それを悲観するつもりもない。変なこと考えてるなら、それは余計なお世話だ。俺は俺だ。誰にも文句は言わせない」
強い口調で、ハッキリとアルヴは言い放つ。そんな姿が、俺はとある少女と重なって見えた。
「町の診療所に、ユナという女の子がいる」
「あ? なんだよ、いきなり」
「その子も、お前と同じで体の中に魔物の力を宿しているんだ」
「俺と同じ?」
「だが、ユナは人為的にそうなったわけじゃない。母親がそういった力を持っていて、それを受け継いだだけなんだ」
「魔物の力をか?」
「そうだ。それに関しては、俺には知識がないから何故そうなったのかはわからない。ただ、その子もお前と同じで自分を悲観していなかった。逆に、そんな自分に誇りを持っていたんだ」
「強がりだろ、そんなの」
「お前は強がりなのか?」
「当たり前だろ? 男はいつだって強がりだ。勝てない相手にも笑って向かっていくし、負けたって泣いたりなんかしない。お前だって同じだろ?」
「なんだよそれ。俺は勝てない相手には向かっていかないし、負ければ子供のように泣く」
「お前、頭オカシイんじゃないのか? よくそんなので生きてこれたな?」
「いや、一度死んだよ。今は二回目の人生だ」
「はっ! だったら尚更馬鹿だろ? その調子でもう二三回死んどけ」
アルヴは冗談だと思ったらしい。
だが、それは事実だ。一度失敗したからこそ、俺は臆病になってしまった。それを警戒心だと勝手に決めつけて、正当化していたのは俺自身だ。
転生するなんて、本当はしてはいけないことなのかもしれない。転生すればするほどに、きっと人は臆病になっていく。人生は一度きりしかないから、人は笑って未来を生きるのかもしれない。
「あれは、本当に強がりだったんだろうか?」
「俺に聞くな。本人に聞け」
「……それもそうだな」
ここから戻れば、いつもの日常が返ってくる。それを願って……。
そこまで考えてから、俺はとある不安に襲われた。
ここまでの騒ぎになった以上、果たして、いつもの日常に戻れるのだろうか? と。
闘技大会を開いたのは領主だが、運営を任されていたのは冒険者ギルドだ。そんな大会で事故にせよ、多くの犠牲者を出してしまった。しかも、その中には国王もいたのだ。
その責任は誰が取るのだろうか?
嫌な想像はプツリプツリと広がり、やがて感染病のように脳を侵していく。
――――いや、今は考えるな。目の前のことに集中しろ。
そう言い聞かせる。
『やっと起きたのかテプト。この階層の出口を見つけたぞ』
「ついでに魔物も倒しておいた。もう、良いのか?」
奥の通路から現れたタロウとドラゴンに、俺は笑みを浮かべる。
「悪かった。さぁ、行こう」
そうして俺たちは、再びダンジョン攻略へと身を投じる。その後、強かった魔物はさらにその凶悪さを増して強くなっていったが、俺たちの敵ではなかった。アルヴは眼にも止まらぬ速さで魔物を狩り、タロウは噛みついて魔物を灰にしていく。ドラゴンは、ブレスなのか圧縮された高密度の魔法を魔物に浴びせ、魔物たちの攻撃は俺がことごとく精霊魔法にて無効化していく。
まさに完璧な布陣。
エルマの心配を他所に、俺たちは次々と魔物たちを死体に変えていく。
少し手こずった瞬間もあったのだが、それでも手こずった程度で戦闘は終わり、次の瞬間には勝利を収めていた。
呆気ない。そんな言葉が出そうになる。どうやら、俺たちは強すぎたらしい。
それを証明するかのように、何度となく繰り返した階段を降りると、そこには初めてみる光景が広がったいた。
何もない空間。そして、そこには赤い魔石が一つだけ浮かんでいる。
「おいおい、まさかここは……」
アルヴがひきつった笑みを浮かべる。俺も、吊られてそんな表情をしてしまった。
「間違いない。おそらくここが……百階層だ」
何の苦労もなく到達した目的の場所。夢なのではないかと疑ったが、確かにそれはそこに在った。
『ふん、我らの力ならば不思議はない』
当然のようにタロウは言い放つ。それに、ドラゴンも頷いた。
「なんだよ……俺は……俺たちは、こんなにも強くなっていたのか」
思わず笑ってしまいそうになる。あまりにも呆気なさ過ぎた。
「んじゃ、壊すぞ?」
アルヴが剣を構え、躊躇なくその魔石を破壊した。
瞬間、ダンジョンが地響きをたて始めた。
「つうか、俺たちはどうやってここから脱出するんだ?」
『決まっている。テプトの空間魔法で脱出するのだ』
得意気に言ったタロウ。それに俺はギクリとした。
「タロウ……俺、もう空間魔法使えないんだ」
『なん……だと』
「おいおい! ……マジでどうすんだよ!」
「……考えてなかった」
「馬鹿だろ! お前!」
言い合っている場合ではなかった。天井と壁が同時に崩れ始めたからだ。
「私に乗れ!」
そう叫んだドラゴンが、突然元の姿へと戻りはじめる。その巨大な翼は、ダンジョン内ではあまりにも窮屈だった。
俺は言われた通りドラゴンに乗ってから、精霊魔法を唱える。
「我を護れ」
その魔法をドラゴンの体の範囲まで精一杯広げる。落ちてきた瓦礫はその魔法に触れると炎となって塵になっていった。そこにアルヴとタロウが便乗してきた。
『行くぞ!』
ドラゴンが羽ばたいて地面を蹴った。瓦礫は視界を覆うほどに落ちてくる。その中を、必死に飛び続けた。あまりにも長い間そんな光景が続くため、上ではなく下に向かっているような錯覚に囚われる。
だが、そんなことはなく終わりはちゃんとあった。
いきなり視界が広がり、光が見えたのだ。
――――行け!
ドラゴンはそのまま暗闇を貫く。そして、気がついた時、俺たちは闘技場の上空にいた。
それは、数時間ぶりに見るタウーレンの町の風景。時刻は夕方なのだろう。橙に染まる町並みがそこにはあった。あまりに早すぎた帰還に、懐かしさは感じない。
ただ、やり遂げたのだという実感だけが、貫いた真下の穴から俺を追いかけてきて、やがて脳天にまで達する。
「……やった」
その歓喜に震えたのは、もちろん俺だけじゃなかった。
アルヴもタロウも、ドラゴンさえも喜びを露にする。
そして、俺は抜け出した穴の近くにいるソカを見つけた。彼女は上を見上げ、信じられないというような表情をしていた。
それを目にし、俺はドラゴンから一人飛び降りた。
「ソカ!」
「テプト!」
地面に降りたつと、ソカはすぐに走ってきて俺に抱きついてくる。それを力強く受け止めた。
「なに? もう終わったの?」
「あぁ。案外呆気なかった」
「なによ? 行くときはあんなに深刻そうな表情をしてたくせに」
「拍子抜けだった。それよりソカはどうだったんだ?」
「こっちも問題なかったわ。魔物は全て倒したし、ダンジョンから出てきた魔物もそんなに多くなかったから」
「そうか。皆は?」
「魔物が現れなくなってから、ギルドの人達が先導して皆を闘技場から避難させたの。ここに残っているのは、殆ど腕に覚えのある冒険者ばかりよ」
「そうか」
そこまで言葉を交わした時だった。不意に視線を感じて周りを見やる。
ジーーッ。
ソカの言う通り、闘技場にはランクの高い冒険者たちが集っていた。そして、彼らは抱き合っている俺とソカをこれでもかと言うほどに見つめていた。
そんな俺たちに、わざとらしく咳払いをしている者もいた。一瞬で頭が冷めていく。
「……ソカ、一旦離れようか」
「なんで? 別に気にすることないじゃない」
「いや、俺が気にするんだが」
「私は気にしないわ」
「いや、そういう問題じゃなくてだな?」
どうしたものかと考えていると、冒険者の集団の中からレイカが現れる。
「……見ているこちらが恥ずかしくなる。テプト、話はソカから聞いた」
「レイカ、皆を守ってくれてありがとう」
「……お礼は必要ない。守った人数よりも、失ってしまった命の方が多い」
「だが、お前がいなければもっと多くの人が死んでいた」
「……そうかもしれない。テプト、それよりも今はあなた自身の心配をした方が良い」
「俺の?」
そう問いかけた時だった。
冒険者の集団の中から、今度はウィル王子とヒルが現れたのだ。
「テプト……君には聞きたいことが山ほどある。既に闘技場の外に馬車が用意してある。一緒に王都へ来てくれるかな?」
「すいませんテプトさん。ご同行願えませんかねぇ? ……あぁ、それとタウーレンの危機を救ってくれてありがとうございます」
眉に皺を寄せて立つウィル王子と、片腕がないヒル。どうやら、無事に治療を受けられたらしい。
「あなたたちが何をしようとテプトを咎めることは出来ないわ。なにせ、テプトはタウーレンの危機を救ったんだから」
ソカがウィル王子を睨み付けて言い放つ。
「それは事情を聞いてから判断するさ。テプト……従うな?」
威圧的なウィル王子に俺は迷ったが、やがて頷いてみせた。
「ソカ、離れてくれ。少し王都に行ってくる」
「今戻って来たばかりじゃない!」
「これは俺だけでどうこうできる問題じゃない。現に、死人が出ている」
空気を読んでくれたのか、ソカは浮かない表情をしつつも離れてくれた。
……そうだ。俺は何を浮かれようとしていたのか。問題はまだ解決してはいない。
ダンジョンを破壊したからといって、全てが帳消しになったわけではないのだ。
「ちなみに、連れていくのは俺だけか?」
「あぁ、そうだ。君から話を聞けば十分だろ?」
「……そうか」
話の流れから、ギルドの面々も連れていかれるのかと思ったが、どうやらそれはしないらしい。
「他の方には、混乱をおさめてもらわなければいけませんからねぇ……朝になればこの騒ぎは町中に広まっているでしょうし」
ヒルが何気なく呟いた。なるほど、俺だけなのはヒルがそう仕向けたようだ。
「わかった。王都に向かう」
「助かります」
ヒルがそう言って頭を下げた時、空に浮かんでいたドラゴンがようやく降りてきた。
「まさか、本物のドラゴンをこの目にする日がこようとはね」
ウィル王子は気もなく呟く。その瞳には、動揺の色はもうなかった。
「テプト、何をしている?」
ドラゴンから降りたアルヴが近寄ってくる。咄嗟に周りにいた冒険者たちが後ずさりをした。
「アルヴ、お前はドラゴンと共に町の外にいてくれ。おまえがいると余計な混乱を招く」
「あ? 何言ってんだ。どうしようと俺の勝――――」
「頼む」
アルヴの言葉を遮り、そう強く言った。少しの間アルヴは黙っていたが、わざとらしく舌打ちをしてから再びドラゴンに飛び乗る。
「またな、テプト」
「あぁ」
ドラゴンが羽ばたき、アルヴたちはみるみるうちに地面から離れた。
「タロウもだ」
『我もか……まぁ、必要な時は念じよ。そうすればすぐに駆けつける』
そう言い残し、タロウも元の大きさに戻るとドラゴンを追って夕焼けの空に消えた。
「まったく、最後の最後まで驚かせてくれますね? テプトさんは」
ヒルはタロウの消えた空を眺めながら苦笑いをした。
「ギルド職員でありながら冒険者よりも強く、その若さでギルドの体制を変えてしまい、あまつさえ普通ではない魔物たちを従えるだって? テプト、君は何者なんだ?」
ウィル王子は表情を深くして問うた。
「さぁね? 昔の俺なら、ただのギルド職員だと言っていたところだが、もうそんな馬鹿げた事を宣うこともできないな」
「その口のききかた……君は自分の立場をわかっていないのか?」
「わかっている。ただ、今さらここで態度を改めてみても、俺が連れていかれる事実は覆せないんだろ?」
「……そうだな」
「なら、取り繕う必要はない。王都でもどこへでも行ってやるさ」
そしてウィル王子はニヤリと笑った。
「よし、ついてこい」
そしてウィル王子は背を向けて歩き出す。それにヒルと俺はついていく。
「テプト、戻ってくるわよね?」
ソカの声が背中に投げつけられた。
「もちろんだ」
それにまた、振り返って笑顔を送る。
こうして、闘技場に起こった悲劇はその日のうちに幕を閉じた。それは、当事者ではない者たちからすれば、あっという間の出来事だったのかもしれない。
事実、俺からしてみても整理ができない程に急展開の連続だった。
生き残った者たちは突如降りかかった恐怖から覚めて、やがて真実を知ろうとするだろう。
その時に、彼らを納得させる答えがなければ、きっと生き残った喜びよりも不信感が勝るのは容易く想像できる。
問題は解決された。だが、今度は大いなる後処理が待っている。それは思っているよりもキツイ事に違いない。国王までもが犠牲になった今回の事は、タウーレンだけに収めることができないからだ。
俺は、タウーレンの人たちと十分な会話を交わすことなく、王都へと向かう馬車に乗せられた。
そして、その馬車の中で、ウィル王子から驚くべき提案が成される。
それは、酷く理不尽な提案ではあったものの、確実にその後の混乱を最小限に押さえられるものだった。
「――――テプト、君を王都にて処刑しようと思う」
「なんだと?」
「僕はヒルからお前の報告をずっと受けていた。君はギルド職員としては危うい。冒険者をも屈服させる力を持ち、今あるギルドに革命を起こそうとしている君は、この国を維持してきた者たちに取っては害悪でしかない。きっと、強い反発に遭うだろう」
「そんなことは覚悟している」
「その反発によって起こった混乱に、今度はどれだけの者たちを巻き込む気なんだ? 今回の事で、どれだけの人々が命を落とした?」
「だが、それは――――」
俺のせいじゃない。
それは言えなかった。何故なら、原因の一端が俺にはないと言い切れなかったから。そして、そう言ってしまえば、俺は誰かに責任を押し付けなければいけなくなってしまうから。
「君の考えは分かっている。自分の事ではなく、他の者を庇おうとしているのだろう? ……本来ならば、僕は王に代わってタウーレンの冒険者ギルド職員たち全員に罰を与えなければならない。今回の惨劇は明らかにギルド職員たちの怠慢が招いた事であるのは明らかだからだ。……だが」
そう言ってウィル王子は目を細める。
「全て、君の策略によるものだったと結論付けてしまえば、君だけを罰するだけで事足りてしまう」
「それは……俺に悪役になれということか?」
「そうだ。君は冒険者ギルドの改革を目論んでいたが、その腐った根は深く、王国から変えねばならぬと判断した。そこで、領主が起こした闘技大会に紛れて国王を殺し、自分が英雄になるという画策を立てた」
ウィル王子の言っていることがよく理解できない。何を言っているんだ……こいつは。
「しかし、自分の勝手で国王の命を奪ったことに後悔した君は、僕の尋問にて全てを白状する。国王亡き今、僕が王になるのは間違いない。そして、僕はこの事態を深く受け止め、国の改革を有利に勧めるんだ」
「俺に……全ての責任を押し付けて死んでくれということか?」
「そうすれば、ギルド職員たちも咎めを受けずに済む。なにせ、全てはテプト・セッテンが仕組んだことだからだ」
「お前は……」
もはや言葉にもならない。ヒルを見るが、彼はすました顔で座っているだけだった。
なんで何も言わない? それが、お前の良いと思える方法だっていうのか?
だが、ウィル王子の言うことは確かに一理在った。ここまでの騒ぎになった以上、誰かが目に見える形で責任を取らなければならない。それはやはり並の人では不釣り合いなほどに大きな責任。
「まぁ、王都までまだ時間がある。ゆっくり考えるといい」
「俺を無理矢理拘束したりしないのか?」
「君を拘束するなんて無理だろう? それとも逃げようと思ってる? そしたらどうなるかなんて、言わなくても君なら理解できるはずだ」
他の誰かを罰するだけ。そう言われたような気がした。
「ははっ……とんでもない王子さまだな……」
苦笑いしか出ない。そして、手も足も出ない。
「僕だって、この国の在り方には不満を持っていた。だからこそ、ヒルを冒険者ギルドに侵入させて長い間調査していたんだ。……テプト、君と僕は同じ目的を持つ同士なんだよ」
「同士を簡単に殺すのか?」
「必要ならね。別に意地悪をしているわけじゃない。僕は、この国と君の周りにいた大切な人たちにとって、最も良い解決方法を提案しているだかなんだ」
「提案? 脅しの間違いだろ?」
「君をすぐに連れ出せて良かった。ヒルの報告が本当なら、この先君を殺したい人と同じくらい、君の死を阻止しようとする者たちがいるはずだから」
「……それが本当なら、お前はこの先命を狙われる事になるぞ?」
「覚悟の上さ。改革者は、いつだって暗殺の脅威に晒されるものだ」
ウィル王子も、決意は固いようだった。
なんで、こんなことになってしまったのか……。俺は脱力して背もたれに寄りかかる。
王都までは確かに時間がある。逃げようと思えば、いつだって逃げられるだろう。
だが、たぶん俺はそれをしない。考えても仕方がないことのように思えた。
ボンヤリとだが、予感していた。
俺は、おそらくこの提案を受け入れるだろう、と。