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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
規格外の最強と最凶 編
193/206

二十七話 決戦

三章。これまでまでのあらすじ。


『称号制度』を発案したテプトは、それを冒険者ギルドだけでなくタウーレン全体に取り入れるため、これまで出会ってきたタウーレンの人たちと共に領主の屋敷へと向かう。

魔力を持ち魔物と戦える冒険者。魔力を持たぬがスキルを持ち生活を豊かにする職人たち。彼らが同じ町で共存していくには、『称号制度』こそがその鍵だと信じて疑わなかったからだ。


だが領主は、そのための条件として、最初の称号『タウーレン最強』を決める闘技大会を開くことを提示してきた。


そして、ヒルからの告白により冒険者ギルドの酷い実情を知るテプト。そんな本部自体を変えるため、闘技大会を利用することをテプトは決める。彼は闘技大会で優勝し、それを本部にいくための足掛かりにしようとしたのだ。


その最中、ギルドマスターであるバリザスを変えたアルヴという男が、闘技大会の噂を聞きつけタウーレンに現れる。

そしてテプトは大会前、彼に敗北を喫した。


その現実を受け止めきれず、それでも闘技大会で優勝しなければならない現状にテプトはどうすることも出来ず、ただウダウダと時間だけを無為にしていった。


そんな彼を見かねた冒険者のソカは、闘技大会に際して行われる演劇を利用し、テプトを元気付ける算段を行った。


その算段が上手くいき、テプトは本当に自分がやりたいことを見つめ直す。


アルヴに連れ添うドラゴンの話から、彼は人ではなく研究によってドラゴンの魔石を埋め込まれた実験体であったことを知るテプト。

そして、そんなアルヴを倒すため、彼は昔に拒絶した『精霊魔法』を修得するために精霊の森へと向かった。


そこで彼は、今まで共に戦ってきた大剣であるエンバーザが精霊であったことを知り、契約を結ぶ。その際に、彼は知られざる人の歴史をも知ることになった。


そして闘技大会。テプトはアルヴを倒すために、戦いへと挑む。

『タウーレン最強』の称号を決める決勝戦。


その会場である闘技場。

そこに、アルヴと俺が面と向かって立っている。


「なぁ、その力はどうやって手に入れた?」


アルヴは興味津々とばかりに問いかけてきた。


「……何のことだ?」

「はぐらかすなよ? 前のお前とは雰囲気も魔力も桁違いだ。なぁ、どうやってその力を手に入れたんだ?」

「教える気はないな」

「そうか。まぁ、どうでもいいけどな」


アルヴは早く戦いたいとばかりに掌を握ったり閉じたり落ち着きのない態度をとっている。

だが、それは俺も同じだった。


あの日、俺はアルヴに完膚なきまでに負けた。その事実を認めたくないほどの屈辱を受けた。


ギルドを変えるために優勝しなくてはならない……。そんな言い訳ばかりを重ねてばかりいたが、本当は悔しかったんだ。だが、悔しいから……自分が勝ちたいから優勝したい、なんて言えなかった。だってそんなの子供みたいじゃないか。


だから、俺は最もらしいことをこじつけて闘技大会を止めようとはしなかった。

アルヴの危険性を知った時点で、俺がとるべき方法は闘技大会を中止させることだったのに。


それを俺は本気でしようとはしなかったのだ。


謙虚でいよう、誠実であろう、アルヴに負けるよりもずっと前からそう思ってきたはずだったのに、俺にはいつの間にか変なプライドが生まれていたらしい。


アルヴは言った。『どうでもいい』と。俺もそうだ。アルヴが何者で、どんな力を持っていて、何を考えているかなどどうだっていい。


ただ、目の前の男を倒したい。ただ、それだけが今の俺を突き動かしている。


「本気でこいよ」

「あぁ、もちろんだ……」


アルヴはそう言って楽しそうに目を細める。

俺もそんな彼に鼓動が高まる。


そして、試合開始の合図は呆気なく発せられた。


直後、アルヴがバリバリと音を鳴らす。いや、正確には彼から放たれた電気の糸がそういった音を出しているだけだ。その糸はアルヴの体中を走り、彼は人では到底追い付けない程の速度へと変化を遂げる。

目ですら追えない最速の領域。その速度が、俺に向かってくる。


捕らえよ(バイス)


俺がそう唱えた瞬間、赤く熱された五本の鎖が空間から現れ、俺にも視認できないアルヴを捕らえようとする。

それは灼熱の意志。それをエンバーザが魔法として自動化したもの。もしもその鎖に彼が捕まれば、その存在を灰とするまでエンバーザはアルヴを苦しめ続けるだろう。


エンバーザは火を司る精霊。そして、俺はエンバーザに大剣としての体現を与えた。エンバーザは鉄を素材として魔法化でき、詠唱を現実化するための手段をとる。


この会場にその鎖が見えている者がどれだけいるのかわからないが、アルヴだけには見えているはずだ。


鎖は何かを追うように闘技場内を飛ぶ。急転換したり、急上昇を繰り返し、確実に何かを追い詰めていく。それは鎖同士を絡ませ追尾不能にするも、鎖同士は溶け合い、分かれ、再びターゲットへと向かった。


その間、俺は一歩も動けずにいる。精霊魔法は誰かを守るための魔法、そして自分を犠牲にして誰かを生かす魔法だからだ。逃げることは許されない。だから、動く行為ごと禁止される。


アルヴが俺に辿り着くのが先か、俺がアルヴを捕まえるのが先か。

たぶん、どちらが先でも勝敗はすぐに決まるはずだ。なぜなら、俺とアルヴは人間という脆弱な存在を消すには十分過ぎるほどの力を持っている。


だからこそ、それは数分にも及んだ。

だが、そんな力が脆弱な人間の身でずっと使えるわけもなく。


―――くそっ。


鎖は途端に動きを止め、空間に巻き取られるようにジャラジャラと音を立てて戻されていく。


喉から熱い液体が噴出し、歯を食い縛ってその流れを食い止める。僅かに漏れた液が口元から流れた。それが血であろうことは、拭わなくてもわかった。


そして俺の数十メートル先に、久しぶりに姿を露にするアルヴ。彼の体からは確かに電気の残留がまとわりついていたが、その表情に余裕はなく、息が上がっていた。服の数ヵ所は燃えた痕跡か破れている。


彼もまたそうなのだろう。人としてその力を使うには限界があるのだ。


「おいおい! なんだよ! 何が起こってんだ!」


客席からそんな苛立ちの声が飛んできた。きっと、客席の人たちからすれば何が起こっていたのかなど理解もできないのだろう。


あまりにも、次元が違いすぎて。


彼らが見たいのはきっとそういう戦いではないのだ。武器を振るい、血を掻き立てるような戦いなのだ。


――――安心しろよ。今から見せてやるから。


右手に懐かしいエンバーザの感覚が戻ってくる。魔法が解け、大剣として戻ってきたのだ。


『捕らえきれなかった』

「いいさ、お前はよくやった」


見れば、アルヴがふらつきながら腰から剣を抜いた。彼が武器を手にするのは初めて目にする。

その剣は平たく、先は尖っていない。鉄の板、そんな印象を受ける剣だった。


「なんだよ……なんだよ……まさか俺の速さについてくるとはなぁ?」


口元を歪めてアルヴは剣を肩に担ぐ。その剣体に青白い線が走った。


「俺だって同じだ。……まさか、捕まえられないとは思わなかった」


エンバーザを構える。その刀身はオレンジに淡く光り、表面に炎を迸らせる。


「俺もお前も、最初から最大の切り札をきっちまったってわけだ。なぁ?」

「それが一番勝率の高い戦い方だと分かっていたからな」

「なら、俺もお前も最後は人らしく戦うしかないわけか。笑えるねぇ」

「人らしく? まるで、自分のことを人じゃないみたいに言うんだな」

「あ? そんなの当たり前だろ。お前は俺の本当の姿を見たはずだ。俺はもう人じゃない。それに、そんな俺と互角に渡り合えるお前も人を捨ててきたんだろ?」


とても愉快そうにアルヴは笑う。まるで、自分と同じ仲間を見つけたとでもいうかのように。

だから、俺はそれを否定してやる。


「捨ててない。ただ、お前を倒せるほどの力をつけてきただけだ」

「くっくっ……哀れだな、お前。それが人を捨ててるってことなんだよ。過ぎた力はどう足掻いたって過ぎてるんだ。そして、過ぎたことはもう戻らない。その先にあるのは地獄にも等しい破滅だけだよ」

「破滅なんかない。あるとすれば、俺が俺自身に諦めてしまった時だけだ。俺は……自分でも自覚できない程に諦めていたんだ。それを認めたくなくて、ワガママにもいろんなことを放り出して投げ出そうとしていた。そんな俺に……まだ諦めていない奴がいた。そんな俺に、まだ出来るのだと言ってくれる奴がいた。だから、俺は諦めないし破滅も望まない。何かを失うために得た力じゃない。何かを成し、得るためにこの力を得た」


アルヴは静かに俺の言葉を聞いていた。その心中はわからない。


「……へぇ。お前は望んでその力を手にしたってわけだ。なら、後悔なんてないんだろうなぁ?」

「ない」

「羨ましいな、お前。 俺は望んだわけでもないのに勝手にこの力を与えられた。そして、望んだわけでもないのに勝手に恐れられた。俺とお前が違うのはそういうところなのかもなぁ?」


アルヴはその剣を担いだまま腰を落とす。


――――くる、そう感じ俺も戦闘体勢を取る。


「だからよ。……最後は俺の望みを叶えてくれよ。俺を――――殺してくれ」


その瞬間、アルヴが走り出す。その動きには、もはや目で追えぬ程の速度はない。それでも、通常の冒険者たちよりは圧倒的な加速度を持っていた。

それに俺はエンバーザで応えてやる。


鉄と鉄がぶつかり合い、その鉄に宿す電気と炎が有り得ない光と音を散らす。

右、左、青白い残光は巧みに動きを変えて俺に迫りくる。それに、俺はエンバーザで対応した。


剣での戦いには慣れている。アルヴの動きが見えている以上、怖くもなかった。それでも、彼に一撃を入れることが出来ない。彼は剣技というよりは、その突き抜けた身体能力で俺の命を奪おうとしてくる。その奇抜的な動きが予測できないからだった。


「オラオラァ! どうしたぁ!?」


剣を持ち替えながら、不規則なステップを踏みながら、ありとあらゆる角度から剣を放ってくるアルヴ。俺は防戦しながらも隙をついてはエンバーザを振り抜く。だが、そのオレンジの残撃が彼に当たることはない。


この戦いにおいても、俺とアルヴは決定的な一撃を与えることはなく、ただ時間だけが過ぎていく。


「つまらねぇ……つまらねぇなぁ! お前の今までの戦いが透けて見えるなぁ! そんなんじゃ俺は殺せねぇよ!」


アルヴは吠える。その瞳からは、俺を殺すという執念が確かに感じ取れた。だが、そんなことをアルヴに言われる筋合いはない。


「そんなに殺されたいなら……動きを止めろよ。殺されたくないから、お前は戦ってるんだろ」

「違うなぁ……違うなぁ! 俺はただ試してるんだ。俺を殺せる奴が本当にいるのか。俺を終わらせてくれる奴が本当にいるのかを。俺は俺の意志でこんなことを始めたわけじゃない。だから、終わらせ方もまだわからないでいる。だからよ……お前が終わらせてくれよ!」


アルヴの動きが速まる。おそらく人としての限界は越えているはずなのに、それでも彼は加速する。

そんなアルヴに、俺は有らん限りの力を振り絞ってその名前を唱えた。


「エン……バーザッッ!」


俺の周囲を炎がうねり、近づく全てを焼かんとする。アルヴはそれに気づいて距離を取った。


「へぇ……まだ、そんな力が残ってたか」

「うるせぇ……終わりを人に任せるなよ。お前がどんな思いで生きてきたかなんて知らないし知りたくもない。ただ、始まったことは仕方ないだろ。終わりなんか他人に期待してんじゃねーよ」



不意にアルヴと共にいたドラゴンの言葉が甦る。


――――アルヴは、もうすぐ人ではなくなるのだ。そんな彼を、何故止める事ができる?


たぶん、アルヴは人であるうちに終わらせたいのだろう。あの日、アルヴが魔力暴走を起こした時、彼の姿はもはや人とは思えぬ物になっていた。

アルヴ自身にもわかっているのだ。もう、人としての自分に時間があまり残されてはいないことに。


だが、それが何になる? 終わらせたからといって幸せになれるのだろうか?

俺はそうは思わない。もしも生まれた事が始まりなら、死ぬことが終わりだと言える。その生きてきた中には関わってきた人たちがいて、少なからずその人たちに影響し影響されて人は生きていく。

それはもはや罪にも近い。事実、俺は今まで様々な人たちに影響されて生きてきた。


何もかもを諦めた。諦めることが幸せなのだと自分に言い聞かせた。それでも、そんなことが虚しくて何かを成し遂げる力を欲した。それすらも自分を満足させるには到底及ばないのだと思いしった。


馬鹿なのは世界ではなく、俺自身だった。


そんな俺を信じてくれる馬鹿な奴がいた。


世界は馬鹿ばかりだ。だが、馬鹿だからこそ彼らは足掻く。足掻くのは終わらせたくないからだ。そんな結末で終わらせたくないからだ。


きっと、アルヴも同じなのだろう。そんな結末で終わらせたくないから、こうして闘技大会に参加してきた。


例え、その足掻きがどれだけの人たちを傷つけようと、止めることなどできないはしない。


「俺はお前を倒したい。あの時、お前に負けた時からずっとそれを願ってきたんだ。だから、お前はただ俺に倒されるだけで良いんだ。終わらせ方まで俺に願ってんじゃねーよ」


俺は……ずっと勘違いをしてきた。誰かに認められてくて、ずっとそれだけを考えてきた。

だが、認められるとはそういうことではないのだ。


他人に何かをしたから認められるわけじゃない。何かしたことを他人が勝手に認めるだけなのだ。


そこを盛大に勘違いしたせいで、俺はどうすれば良いのかわからなくなっていたのだ。


だから、俺はもう間違わない。たとえそれが間違った選択だろうと俺にとって正しい選択だと信じるだけ。


「ほら、全力でかかってこい。それを俺が徹底的に叩き潰してやるから」


俺が願うこと、それは目の前のアルヴを倒すことだけだ。それはもう誰かの為じゃない。ギルドの為とか、冒険者のためとか、町の人のためでもない。

ただ、俺自身のためだ。


「なんだよ……それ。どんだけ上から物言ってんだよ……」


アルヴはそう言って乾いた笑いを浮かべる。


「でも良いな、それ。分かりやすくて良い」


それからアルヴは片手で顔を覆う。その手が外れると、そこには魔物の角がはみ出していた。片目は赤く染まり、口元は歪んでいる。

その姿に、客席から悲鳴が上がった。


「俺も……おバえを……徹底的に叩き潰しダく……ナった」


アルヴの魔力がその部分から漏れでる。それは黒く、徐々に彼を包んでいく。


魔力暴走……じゃないな。


アルヴは前回と違い、自我を保っているようだった。


「……エンバーザ」


その姿に覚悟を決める。


『……良いのか?』

「大丈夫。死ぬことはないさ」

『……そうか』

「あぁ。――我は(シー)その罪を(ザイ)この身を燃やして(エンシャー)浄化せん(フェールライト)


カチッ。そんな音と共に身体の奥底で火花が散った。直後、炎の奔流が身体中を沸き上がってくる。


「なんダ……」


黒い魔力に渦巻かれたアルヴが呟く。


「……アルヴ。決着をつけようか。これが恐らく最後だ」


禍々しく変化を遂げたアルヴ。そして、自身を焼き尽くさんとする俺。


その力の波動は、互いに互いを押し合い圧力を生んだ。何かが壊れる音を聞く。そちらに目を向けると、闘技場の石でできたタイルにヒビが入るのを認めた。


決着がつくまで持つのか?


その力の押し合いは、タウーレンで一番大きな闘技場でさえ、存在を小さくしてしまう。


……持ってくれよ。


そう願いながら俺はアルヴに駆け出す。俺自身が精霊魔法として顕現するこの魔法は、自由に動くことができる。だが、その時間はあまり長くはない。先程、俺とアルヴが力尽きたように、強大な力には制限が生まれる。その制限とは命。自身の存在を燃やして発言するこの魔法は、存在がなくなった時点で終了する。


「ガッ……ガァァ!」


そして、それはアルヴも同じに違いない。彼も自分にとって大切な何かと引き換えにその姿を……その力を得たのだろう。


今や俺とアルヴにあるのは、目の前の敵を倒すことだけ。


運命も、使命も、目的も、願いも、その全てを投げ出して目の前の事だけに集中する。

客席から阿鼻叫喚の悲鳴が上がるが、耳には入っても頭にまで入ってこない。


たぶん、今までの俺ならそんなことを気にして力を抑えていただろう。

それは果たして退化だろうか? 周りの人たちの事を考えられなくなったのは、ただの高慢化だろうか?


……いや、そうじゃない。俺は俺を冷静に見れるようになっただけだ。

俺が真に願う通りに動けるようになっただけだ。そして、それこそが俺が願ったことなのだ。


俺は誰かに認められたかった。誰かの為に何かを成したかった。そうすることで、誰かの称賛を得たかったのだ。その願いに、忠実になっただけのこと。それを成さぬうちに、認められたいなどと願うことこそが高慢なことだ。


俺は……俺は……。


アルヴが掲げた拳と、俺の拳がぶつかり合う瞬間、魔力でもなく魔法でもない何かが突然爆ぜた。


そして、足元の地面が急に崩れ落ちるのを感じた。


――――なっ!?


視界は黒く染まり、突然の浮遊感に焦る。そして、体を強く打ち付ける衝撃に顔をしかめた。

何が起こったのか理解できなかった。


遠退く意識で必死に辺りを見回すと、それは見覚えのある光景。



どうやらそこは、ローブ野郎が地下につくった魔物を召喚するための部屋だった。

闘技場の地面は、俺とアルヴの力に耐えきれなかったらしい。


殆どの力をアルヴとの戦闘に使っていたせいで、動くことができない。


そして、俺は次にとんでもない光景を目にすることになった。



「嘘……だろ?」


ローブ野郎がつくっていた魔法陣。その複雑な模様に光が満ちて、ここに存在してはならぬ者を出現させる。


『ボアアアッッ!!』


それは魔物。一瞬、アルヴかと思ったがそうではない。正真正銘の魔物がそこにいた。しかも、一体ではない。次々とその陣から召喚される魔物たち。それは、ダンジョンの浅い階層で見るような雑魚たちではなく、冒険者たちがパーティーを組んでようやく打ち倒せる魔物ばかりだった。


その魔物たちが、光の射す天井へと次々に飛び出していく。

動けずにいる俺は、それをただ見つめているしかなかった。



……ここは闘技場だ。しかも、町の中心にある。



嫌な想像が脳裏を舐めつけた。悪夢なら覚めてくれと願ってしまった。


不意に、すぐ近くで横たわるアルヴを見つける。無意識に彼に近づいて体を揺すった。


「ヴッッ……」


魔物化は解け、姿は人のものに戻っている。


「何がっ……」

「起きろ! アルヴ!」

「くっ……」


目を開けたアルヴの瞳は、数秒焦点が合っていなかった。


「寝てる場合じゃない!」


気がつけば、目覚めたばかりのアルヴの首もとを掴み、そう叫んでいた。先程まで戦っていた相手に何を言っているんだと思ったが、そんな場合ではないことも理解していた。


近くの魔法陣は、途切れることなく凶悪な魔物たちを召喚し続けている。


「なん……だ。これは」


ようやくアルヴにもその光景が見えたようだった。そして、その表情は驚きから深刻なものへと変わっていく。


「力を貸してくれアルヴ。大変なことになった」


そう彼に言ったのと、天井から甲高い悲鳴が聞こえてきたのはほぼ同時だった。






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