十九話 未達成依頼をやり続けた結果
冒険者管理部のギルド職員になって1週間が過ぎた。ここ最近は、未達成依頼の達成に奔走する毎日だ。これだけの冒険者がいながら、よくぞ毎日毎日未達成依頼が出てくるものだ。内容としては、建物の補修や町の掃除依頼。当然ながら戦闘とは程遠い依頼ばかりである。たまに戦闘の依頼もあるのだが、やはり、報償金が少なかったり面倒な魔物と戦うものばかりだった。
皆、依頼を選んでいるのである。いつかこの雰囲気も変えたい。
普通は冒険者にとって、依頼主は仕事をくれる大切な人達だ。だから、小さな依頼でも皆一生懸命やり遂げようとする。それが積み重なって、個人的に依頼される冒険者もいる。「依頼人は神様だ」誰が言い出したのか知らないが、俺がラントで冒険者をやっていた頃、そんな言葉があった。しかし、タウーレンでは違う。依頼人ではなく、受けてくれる冒険者が偉い。そんな雰囲気が根付いているのだ。町が違うだけでこんなにも差があるのかと、俺は驚いた。
そんなある日のこと。部屋の掃除をしていると、突然扉が開き、受付のセリエさんが、駆け込んできた。
「テプトくん。大変よ!?」
「どうしたんですか?そんなに慌てて」
「あなたに指名依頼が来たのよ!!」
……指名依頼?
「俺はギルド職員ですけど?」
「だから、断ったわ。それでも貴方に受けてくれって聞かないのよ。……ちょっと下まで来てくれない?」
「わかりました」
俺は急いで、一階へと降りる。すると一階では、数人の町の人たちが受付の女性に迫っていた。
「何故ダメなんだ?」
「いやー。本来ギルドはそういうところではなくて、冒険者さんと依頼者さんを仲介するところなんです」
「でも、奴等は俺達の依頼なんて受けないだろ?」
「それは、一概には言えないとおも……」
「一概じゃない!ここにいる連中は、今まで何度も依頼を受けてもらったことのない人ばかりだ!だったら、ちゃんと依頼を受けてくれる人に頼むのは当然だろう?」
「確かに……そうですけど……」
「あっ、あの人だ!」
「おぉ!やっと来てくれたか!」
「兄ちゃん!依頼を持って来たぞ!」
町の人たちが俺に気づいて近寄ってきた。その顔ぶれには見覚えがある。というか、ここ数日こなした未達成依頼者達だった。
「一体どうしたんですか?」
聞けば、
「あんたに依頼を受けてほしくて来たんだよ?冒険者じゃあてにならねぇからな」
「そうそう。あんたなら仕事も早いし言うことないからね」
そう答える。
それから俺は思い出した。依頼を達成したとき、何人かの人が、個人的に依頼を受けてくれとお金を持って頼み込んできたのだ。その時俺は「ギルドに来てくれれば正式な依頼として受け付けますよ」なんて、笑いながら返したのだが……まさか本当に俺に頼みにきたのか?俺は冒険者じゃないんだぞ?
「あー……。俺はギルドの職員で、依頼を受ける人間じゃないんですよ」
「でも、この間私達の家を直してくれたじゃないか?」
「俺は店の改築を手伝ってもらったぞ!」
「最近頻繁に出るゴブリンを倒してもらったわ!それまで子供たちを外に出せなかったもの!」
「私もいなくなった家の猫を捜してもらったわ!すぐに見つけてくれて感謝してるの」
町の人たちが次々に言い出す。
「あれは未達成依頼だったので、俺がやったんです。本当は冒険者の方々にやってもらうんですよ」
「でも、奴等が受けなかったからあんたがやったんだろ?だったら今回も同じだ。どうせ奴等は受けないんだから、最初からあんたに頼みにきた」
一人がそう言うと、他の町の人たちも頷いている。
まじかよ……これどうしたら良いんだ?
その時、セリエさんが俺と町の人達の間に割って入った。
「テプトくん?依頼を受ける余裕はあるかしら?」
「まぁ……ないわけじゃないですけど」
「よし。なら受けて?」
「先輩っ!?」
町の人達と対応していた受付の女性が声をあげる。
「仕方ないじゃない?町の人達の指名なんだから。彼らはお客様よ?それに、このままじゃ埒があかないわ」
ギルド職員が指名依頼を受けるなど聞いたことがない。
「セリエさん。勝手に決めちゃって良いんですか?」
「良いわ。だって未達成依頼を、あなたがいつものように受けたってことでしょ?」
その言葉に、俺は一瞬呆けてしまった。それから気づく。……なるほど、未達成依頼として処理すると言うことか。
「考えましたね?なら、受けましょう」
こうして、俺は町の人達の依頼を受けた。
その日俺は、町の人達のために、タウーレンを駆け回った。
「実は大切な物を落としてしまってな?紅い袋で、中には死んだ母ちゃんの入れ歯が入ってるんだ」
「『検索』!!」
数分後。
「これですか?」
「おお!これだ!ごめんよー!!母ちゃん」
「引っ越しの手伝いをしてほしいんだ。この荷物全部を……ってあれ?荷物がない」
「今、空間魔法で全部しまいました。で?何処まで運べばいいんですか?」
「えっ……馬車で運んでも、最低3回はかかる量だったんだけど……」
「あの……私と一緒に食事をして欲しいんです」
「それが依頼?俺でいいの?」
「はい!その……今後の予行演習…みたいな」
「予行演習?」
「はい。彼氏が出来たときに、緊張したくなくて……ダメですか?」
「そういうことか。……大丈夫だよ、行こうか」
「はい!」
「レッドウルフの毛皮を、30枚ほど頼みたいんだ」
「良いですよ。俺が前に集めたのが有りますから」
バサッ。
「まじかよ。……あんた、あとどれくらい持ってんだ?」
「えっと……あと1000枚ぐらいですかね?」
「……。」
「ここの橋が古くて壊れそうなんだ。なんとか補強工事をしたいんだが……」
「なら、新しく造り直しましょう」
「えっ?」
「よっと!」
ドドドドドドドド。
「なんだ!?橋が真新しくなっていくぞ!?」
「魔法ですよ。強度も前より強くなっているはずですし、道幅も広くしておきました」
「あんた……何者だ?」
「ただのギルド職員ですよ」
「わしは生まれてこのかた町を出たことがない。……死ぬ前に一度でいいから、王都を見てみたいんじゃ。依頼は護衛じゃ……どうか、受けてくれんかのぉ?」
「だったら、今いきましょう」
「……はっ?」
「王都には空間魔法で行けますから。まぁ、これは魔力消費が凄くてあまり多用出来ないんですけどね?『瞬間転移』!!」
一時間後
「わしはもう……思い残すことは……ない」
「長生きしてね?それじゃ!」
俺は次々と町の人達の依頼をこなしていった。中には、違うのもあった気がするが、まぁ、大丈夫だろう。