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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
規格外の最強と最凶 編
184/206

『国の誕生 冒険者ギルドの設立』 セリエの告白

「私ね? 一つ疑問に思ってる事があったの」

「疑問……ですか?」


唐突に切り出された言葉に、俺は内心ビクビクしながら答えた。セリエさんの口から打ち出されるであろう言葉に対して、俺は過剰な程に防御体勢を取ってしまっている。それはおそらく、彼女が何を言うのか既にわかってしまっているからだろう。

だが、それを止める術を俺は持たない。持てぬようお膳立てされてしまっていたからだ。


「うん。なんで、君は他の人とは違うんだろうっていう疑問」


そこまで言ってから、セリエさんは清々しく笑って見せる。


「あーあ、ここでこんな事言うつもりじゃなかったんだけどな? だって、私ってそんな性格じゃないでしょ?」


同意を求められて、俺も笑うしかない。


「確かに」

「だよね? ……私は自分さえ良ければ何でも良かったの。だから、いつも笑ってられたんだと思う。だから……君みたいに、何かを変えようとはしなかった」


最後は、少しだけ悲しそうに呟いた。


「私の方が先輩だったのに、これまでの事になんの疑問も持たなかった。それが普通だと思ってたの。だからこそ、それを変えようとした君を普通じゃないように思ったのかもしれない」

「そんなことありませんよ」


そう返してみたが、言葉がすんなり出てきたことに我ながら違和感を感じた。

俺は何かを取り繕う時、嘘を含める時、いつも努めて上手く言葉を吐き出していた気がする。

引っ掛かってしまえば、バレてしまうから。つっかえてしまえば、真実味を帯びないから。

だが、俺は本当の気持ちこそすんなりとは言えなくて、辛辣な真実こそ伝えるのに苦労する。気持ちが言葉で溢れてくるなんてあるのだろうか? 必死で何かを訴え掛けるのに、頭を使わないなんてあるのだろうか?


『そんなことはない』という言葉はたぶん、セリエさんの言葉を本気で否定したいからじゃない。セリエさんが悲しそうな表情をしたから、それを止めさせたくて否定したのだ。


つまり、彼女の言っていることは恐らく真実で、俺が返した言葉は嘘。


それを今、ようやく理解した。


「……すいません。たぶん、そうだと思います。俺は普通じゃない。でも、俺は普通を目指したつもりだったんです」


何を言っているのか自分でもわからなくなる。だから嫌なのだ。気持ちをそのまま言葉にするのなど。

それでも、セリエさんは微笑んでくれた。


「うん。そうなんだろうね? 私は今までを普通だと思ってたし、君はそれを普通じゃないと思った。その違いが、私の中で君を特別にした」

「特別……」

「うーんとね? でも、その特別は君が他の人とは違う考えを持っていたからそうなったわけじゃないの。なんていうか、君が君だったからっていうか……」


言葉に詰まるセリエさん。きっと、セリエさんも俺と同じなのだろう。気持ちはわかっているのに、言いたいように言うことができない。

観客が俺たちの会話を不思議そうに眺めている。あまりにも抽象的過ぎて何を話しているのかわからないからだ。

だが、それは会話をしている俺とセリエさんが一番わからなくて、もどかしくて、辛い。それでも、お互いの言いたいことはなんとなくわかるから、尚更それが辛くしていた。


演劇のように何日も前から練習できたら良いのに、台本のように言葉が決まっていたら良いのに。そしたら、上手く言葉にできるし、上手く気持ちを伝えられるだろう。

何もかもが唐突すぎた。それか、時間が足りなさすぎた。


ポンと舞台に上げられて、何がなんだかわからぬままに気持ちを伝えようとするのは愚かだ。そんなので、上手くいくわけがない。面接だって事前に準備をしてから臨むし、演説だってリハーサルをしてから行うものだ。

それもこれも全部ソカのせいだと思う。そうやって、責任の所在を彼女に押し付けようとしてから気づく。



こうでもしなければ、俺はこのままの関係で居ようとしたことに。


ソカの気持ちはなんとなくわかっていた。セリエさんの気持ちも。だが、俺はやることがあると言い訳をして、知らないフリをしてきた。

だから、このままズルズルとあいまいな関係を続けてきた。


それで良いと思っていたのだ。


「私は君との距離を……たぶん、守りたかったんだと思う。私は頼られれる歳上でありたかったのかも。でも、そんなことよりも私自身の気持ちの方が強くなっていっていった。だから、君が成すべき事を応援してあげたい気持ちと、それを悲しく思ってしまう気持ちとがない交ぜになって、ここまできちゃったんだと思う」


セリエさんは苦しそうに言葉を吐き出す。それは、見ているこちらも息苦しくなる程に必死で、辛くなってくる。


「ごめんね? 上手く言えないから、気持ちだけ伝えるね」


そうして、セリエさんは少し長めの深呼吸をする。俺は、早く彼女を楽にしてやりたくて黙って待っていた。


もう逃げることはできない。たぶん、それは許されない。


「私も君の事が好きになってたの。自分でも気付かない程に深く想ってた。それを、不必要だと隠してみたりしたけど、でも全然上手くいかなかった。ここでそれを言うのは間違いかもしれないけど、言わなきゃ後悔するから」


告白とは決して言えない弱々しくも控えめな言葉。それは、様々な感情が混ざり、最後に絞り出したかのように悲痛で、彼女らしい言葉だった。

だからだろう。言い終えたセリエさんは、安堵したような表情を浮かべる。長い苦悩から解き放たれたような、そんな雰囲気を滲ませていた。


「……ありがとうございます」


そんな彼女に敬意を評して頭を下げる。そして、それをさせてしまっていた事に謝罪の意を込める。


「私の方こそありがとう」


頭上から、洩らすように彼女の呟きが聞こえた。

そして、背後に感じる人の気配。それは見なくてもソカだとわかった。


観客たちが固唾を飲んで見守っていた。


頭を上げてセリエさんを見る。振り返ると、やはりそこにいたのはソカだった。


俺はここでどちらかを選ばなければならない。それは、彼女たちも観客たちも望む展開だろう。


だが。


ここでどちらかを選んでしまえば、どちらかが不幸になる。それをハッピーエンドと果たして呼ぶだろうか? ソカは、あまり良いやり方とは思えない手段で俺に想いを告げた。セリエさんも必死に想いを告げてくれた。それは、どんなものであったとしても、それ自体が素晴らしいものだと思う。そこに俺が決断を下すことによって水を差すのは違う気がした。




――――それに。


(ここで答えを出すのは無理だ)


決断を口にする以前に、その答えすら俺の中では決まってない。

だから、この場にいる人たちが納得できる事を俺はしなければならない。


そのために、俺は息を吐いてから腰の剣に手を添える。


とりあえず、この『演劇』を終わらせようと思う。話はそれからだと思った。






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