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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
規格外の最強と最凶 編
159/206

三話 大会の問題

闘技場に着いた俺は、いつもと同じく兵士に案内されて『企画部』へと向かう。


「へへっ……兄ちゃん、マジで強いらしいな?」


意味深な言葉をかけてくる兵士の男。その顔はメットの影に隠れてよく見えないが、二つの視線はかなり鋭かった。


「そこそこですよ」


と、笑って返しておく。どうせ闘技大会で優勝すれば何もかも分かってしまうのだ。今さら取り繕う必要などない。


通された『企画部』の扉を開けると、予想外の人たちを目にする。


「……ようやく来ましたか。クックックッ」


あぁ、奴は予想通りだ。そして、ミーネさんと『安全対策部』の部長もいて、他に商業ギルド長のヤンコブと診療所の所長がいた。


「こんにちは」


所長が笑顔で挨拶をしてくる。ヤンコブも軽く頭を下げてきた。


「説明は終わったのかしら?」

「はい。滞りなく」


言いながらミーネさんに近づいていく。


「なぜ、ギルド長と所長まで?」

「いろいろあったのよ。彼らにも、闘技大会に協力してもらうわ」


そう言ってミーネさんは、闘技大会の概要を話し出した。


「一応、期間は予備日も含めて五日間開催されるわ」

「予備日? というか五日もやるんですか?」

「予備日というのは『最強』が決まらなくて、次の日に持ち越したときのためよ。このイベントの目的は、『最強』を決めることだから。五日間というのはね……」


「それは、私から説明しましょう」


言ったのはヤンコブだった。


「この闘技大会での事を他の町の商業ギルドに話したところ、是非期間だけでも店を出したいという手紙が多く寄せられました。それを考えると、他の町から見物にくる人たちも多くいるでしょう。また、その中には、自分も大会に参加したいという人もいると思います。参加人数が多くなれば、試合回数も多くなる。ということは、必然的に日にちも延びてしまうわけです」


そういうことか。だが、一つだけ疑問が残った。


「これって、『タウーレン最強』の称号ですよね? 良いんですか?」


それには、ミーネさんが額に手を当てて答えた。


「それは建前に過ぎないようね。領主様はこのイベントを、タウーレンの名物にする気よ。だから、他の町の人も参加できるよう枠を作って欲しいと言われたわ」

「つまり……結局、領主様の手のひらの上というわけですか」

「そのようね。そして、そのしわ寄せが今きてる所なの」

「しわ寄せ……ですか?」

「えぇ。実はこの期間も、大会のシステムも、商品や、物販に関する全て、私たちが決めなければいけないのよ」

「……まじですか」


思わず、苦笑いをしてしまう。


「ですが、俺たちにも仕事があります。そういったことは、新しくチームなり機関なり作ってもらって、そこに全部ぶん投げれば良いんじゃないんですか?」


すると、ミーネさんはフッと自虐的に笑った。


「ぶん投げたわよ。だって主催者は領主様よ? 私たちはあくまでも闘技場を貸す立場でしかない。でもね? ……返ってきたの」

「返ってきた?」

「そう。領主様によって作られた運営チームがあるらしいのだけど、何から手を付けていいか分からなくて、私たちに提案を求めてきたのよ」


……なんだよそれ。


「まぁ、賢明だったのはすぐにその問題に気づいたことね? 初めての取り組みだし仕方ないと思うの。一昨日、屋敷からやけに腰を低くした人たちが、謝りながら頼んできたわ。現場の方の意見を聞きたいってね」


よく見ると、ミーネさんの目の下にはうっすらとくまが出来ていた。……お疲れさまです。俺はバリザスと共にレイカを説得する手立てを考えていたため、そこは知らなかったのだ。


「それから、商業ギルド長に協力をお願いして、なんとなく形を作っている最中よ。人が多くなると争いも起きやすくなるから、そのために『安全対策部』にも声をかけたわけ。それと、診療所にもね」


それで、『安全対策部』の部長と診療所の所長がいるのか。


「ただ、問題があってな」


安全対策部の部長が、弱々しく声をあげた。


「人手が足りん。商業ギルド長に見積もって貰ったら、タウーレンに住む住人の半分くらいがこのイベントのために訪れる見込みだそうだ。そうなると、警備する人間がいない」

「たしか、王族の人も呼ぶんですよね? それに伴って王都から警備兵の補充を提案しては?」

「したさ。だが、恐らく警備が充実するのは王族の周りたけだろうな。奴等が町でのいざこざに駆けつけてくれるとは到底思えん。あてにはできんな」


……なるほど。結局、自分達の身は自分達で守れということか。


「それで、テプトくんを呼んだの。どうにかならないかしら?」


うーむ。……どうしたものか。


「人が足りないなら、やっぱりルールを細かく決めて守らせるしかないですね。町に入る際にその説明を行ったり、紙として配るしかないと思います」

「そうね。……それしかないかしら」

「クックックッ……闘技場は任せて下さい」


皆が頭を抱えるなか、ローブ野郎だけは笑みを浮かべていた。空気読めなさすぎるだろ。


「テプトくん、許してあげて。今回の闘技大会で、領主様が闘技場の費用を全額負担してくれるそうなのよ。それで、喜んでるたけだから」


俺の呆れ顔が目についたのか、ミーネさんがそう言ってくる。


「これまで、『経理部』には必要最低限の補修費用しかもらえなかったですからね。冒険者が参加する以上、もっとお金をかけて闘技場を強固な物にしなければいけないというのに……その願いが……クックックッ」


心なしか彼の言葉は涙で湿ってる気がした。さすがはアレーナさん。無駄なお金は渡さなかったわけか。まぁ、ローブ野郎に不必要なお金を渡せば、何をしでかすかわからないからな。


そこまで考えてから、ふと思った。俺はローブ野郎に近づいて耳打ちをする。


「そういえば、もう『あの部屋』は使ってませんよね?」

「クックックッ……召喚部屋ですね? もちろん。ミーネさんが怖いですから」


召喚部屋というのは、ローブ野郎が勝手に造った地下施設である。そこでは魔物を召喚することができるのだが、闘技場は町の中心にあるということもあり、魔物を召喚するのは危険なため、禁止されているのである。ただ、ローブ野郎はそれだけでなく、月光草という稀少な薬草を栽培することにも成功していた。


「無いとは思いますけど、大会中に魔物を召喚したりしないでくださいね? あれがバレたらとんでもないことになりますから」

「クックックッ……勿論ですよ。あの魔法陣は、古代語で起動するよう出来ています。そうしなければ、魔法陣に魔力が流れない仕組みになっているのですよ。もし、仮に魔力が流れてしまっても、闘技場自体に魔物を制限する術式が込められています。出てくる魔物はせいぜいCランク程度ですよ。さらに言えば、月光草があるおかげであの部屋から魔物は出てこれません。心配しないで下さい。……魔法陣に魔力が流れ、制御の術式が破壊され、月光草がなくならない限り、絶対に大丈夫ですよ……クックックッ」


……なんか、嫌な言い方だな。


「もしもそうなったらどうなるんてす?」

「クックックッ……闘技場……いや、町に魔物が溢れてしまいますね。そんなことには絶対になりませんが」


いや、だからその言い方をやめろ。前の世界ではそれをフラグというんだぞ?


「……そういえば、所長は月光草の栽培を見たかったんですよね?」


診療所の所長に声をかける。


「あっ……はい」

「よければ見ていかれてはどうです?」


そういうと、途端に所長の目の色が変わった。


「よろしいんですか?」

「承諾が得られればですけーー」


「良いですよ……クックックッ」


俺が声をかけるまでもなく、ローブ野郎が即承諾をする。その瞳はローブに隠れて見えなかったが、興奮に血走ってる気がした。







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