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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
規格外の最強と最凶 編
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二話 緩やかな変化

その日は、レイカをギルドマスターの部屋に呼んで『依頼義務化』についての説明を行った。彼女は、俺に敗北したからか素直に従ってくれた。

バリザスと共にこれまでの経緯をレイカに話し、『依頼義務化』の内容を説明していく。その間も彼女はおとなしくしており、気になったことをいくつか質問しただけだった。冒険者は強さこそ正義、誰が言い出したのか分からない言葉だが、改めてその凄さを再確認する。


「……わかった」


全ての説明を話終えると、レイカはそれだけ言った。正直、理解したのかわかりづらい。それに、彼女にはもう問題を起こして欲しくないため、入念な確認が必要だ。


「本当に分かりましたよね?」

「……そう。納得した」


いや、無表情で言われてもな。


「それと、争いをしたのは謝る。……ごめんなさい」


レイカは、そう言ってペコリと頭を下げた。これは納得してくれたのだと考えて……いいんだよな?


「時にレイカよ。お主は今後、どうするつもりじゃ?」


不意にバリザスが聞く。


「……考えていない。これまでは、ラントで冒険者をしていた」

「なら、もう一度戻っては来ぬか?」


その言葉に、レイカはしばらく黙ったままバリザスを見つめていた。


「……いいの?」

「もちろんじゃ。お主には、是非タウーレン冒険者ギルドで活動してもらいたい」


だが、レイカは少し迷っているのか、また黙ってしまう。俺は、そこに口を挟む。


「実は、現在タウーレン冒険者ギルドには、適性ランク試験でAランクの模擬戦闘員がいません。その資格を持つAランク冒険者がいないんです。もし、レイカさんが戻ってくれれば、こちらも助かります」


そう。タウーレン冒険者ギルドでは、ここ数年Aランクに上がった冒険者がいないのだ。それは人員的問題、戦闘員がいないことが原因だった。もしもレイカが戻れば、多くのBランク冒険者がAランクに上がるための試験を受けられる。カウルも、その一人なのだ。

レイカは俺を見た後、不思議そうに首を傾げた。


「……なんでそんな言いかた? あなたは私より強い。もっと偉そうにしていいはず」

「それは冒険者同士だからですよ。俺と君は違う」

「違わない。あなたは言った。元冒険者だと」

「でも今は違います」


すると、レイカは少し不機嫌そうに眉を寄せた。


「なんだか変。私は、弱いものが自らを大きく見せようとするのに吐き気を催す。でも、強いものが謙遜するのは、もっと腹が立つ」


それはお前の価値観だろ。そう言いたくなった。


「……テプト」


バリザスがため息混じりに俺の名を呼ぶ。彼女の言う通りに、ということだろう。


「わかりました。じゃあ……レイカ、ここで冒険者をやってくれ。お前が必要だ」

「わかった」


即答かよ。


なんというか……呆気なく承諾してもらえたことに拍子抜けだった。だが、これでようやく適性ランク試験を行うことが出来る。前みたく俺が戦うのは、少し違う気がするからな。



ギルドマスターの部屋を出ようとすると、バリザスが寸前で俺を呼んだ。振り返ると、彼は思い出したように立ち上がる。



「忘れるところじゃった。ミーネがお主に闘技場へ来るよう言っておったぞ。闘技大会での打ち合わせをしているらしい」

「今からですか?」

「そうじゃ。今は『安全対策部』と『企画部』で打ち合わせをしているらしいが、お主の意見も聞きたいらしい」

「わかりました」


そう言うと、改めて部屋を出た。レイカに一階まで付き添ってから、再び二階に上がって『冒険者管理部』の部屋へと向かう。それから、中で仕事をしていたヒルに闘技場へ行くことを伝え、また階段を下りていく。忙しいな。


一階のロビーを横切るとき、机に座っていたソカと目があった。


「お疲れさま」


そう声をかけて外に出る。そして歩き始めると、突然後ろから冒険者ギルドの制服を引っ張られた。


(なんだ?)


振り向けば、そこにはソカがいた。その手はしっかりと俺の制服を掴んでいる。


「……どうした?」

「なんで素通りするのよ」


唐突に彼女は言った。


「いや、声かけただろ。お疲れって」

「そういうことじゃなくて……なにか、他にないの?」


(なにかって何だよ)


考えてみても、思い付かなかった。


「ないな」

「……むぅ」

「なっ、なんだよ」


ソカはあからさまに不機嫌を露にする。そこから意図を読み取ることは出来なかった。ほんと一体なんなんだ?


「テプトから私に話しかけてきたことってあんまりないわね」

「そうか? 用事があるときは結構お前を捜してたりするぞ?」

「用事……ね。私は用事がなくてもあなたに絡んでるけど」

「絡んでるというか、ナイフ投げてくるだけだろ」

「でも、ここ最近はしてないでしょ?」


確かに、ここ数日……冒険者同士での争いがあった日からナイフが飛んでくる事はなかった。


「あんまり会わなかったもんな」


そう言うと、彼女は不機嫌の表情をさらに濃くした。


「そんなことないわ。昨日も三回くらいすれ違ってるのよ?」


……三回って。怖いんだが。


「なんだよ。そんなに絡んで欲しかったのか?」


そんな軽口を叩いてやる。なんというか、目の前のソカは俺の知っているソカじゃない。もっと、理不尽で横暴で強きな感じだったはずだ。そんな彼女をあぶり出すための言葉だったのだが。


「……悪い?」


片方の肘を擦りながら、視線を逸らし気味にそう呟いた。そんな姿に、思わず唖然としかける。


(熱でもあるのか?)


そう思ったとき。


「……寒い」


彼女は尚も肘を擦りながらポツリと呟いた。その顔は上気して、紅く染まりつつある。やはり、熱があるらしい。

おもむろに、手のひらをソカの額に当てる。


「きゃ! なに!?」


引かれてしまった。


「いや……熱があるんじゃないかと思って」

「なっ、ないわよ!」


そう叫び、ソカはそのまま走り去ってしまった。走り出す時に、彼女の口から「馬鹿みたい」という言葉が聞こえた。

取り残される俺。走り去る彼女。


……なんだよこれ。


わけが分からぬままに終わった会話は、心に黒い靄を残した。しばらく呆然としていた俺は、考えても仕方ないと結論づけて闘技場へ向かう。それでも、頭のなかでは先程の答えを捜し続けていた。答えが見つかるとは、到底思えなかったが。












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