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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
騒がしいタウーレンの町編
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五十七話 開戦

まだ日も昇らぬ暗闇に、彼らは紛れて襲撃を行った。その予想もしていない者たちに、夜の勤務をしていた兵士たちは呆気なく倒れ、縄で縛られていく。

彼らの数はゆうに百を超えた。縄で縛られた兵士たちは何が起こっているのかも分からぬまま、ただ目の前で集まってくる襲撃者たちを見ることしか出来ない。

やがて彼らは一ヵ所に固まり、お互いの顔を見合わせると、作戦が上手く言ったことを確認しあった。


闘技場。そこは『ギルド派』の冒険者、百三十名あまりによって占領されたのであった。


そして空がうっすらと明るんできた頃、新たな勢力が闘技場へとやって来る。その数は三百人近く。『レイカ派』である。先頭には本人であるレイカが武装して歩いている。やがて門の前まで来ると、彼らは立ち止まった。


「ちゃんと来たのね」


門の前にはフードを被り、顔を隠す冒険者がいた。レイカはその冒険者に向かってナイフを投げつけ、相手はそれを掴みとる。


「……返す」


相手はフードを取り、顔を見せた。そこには、笑みが浮かんでいる。


「一つ言っておくわ。この闘いで勝利した方が正義よ」

「……わかってる。……そっちも」

「えぇ。もちろん」


それから冒険者は門に手をつくと、力を込めて押し出した。闘技場の門は鉄製であり、その厚さはかなりのものだ。通常は男二十人がかりで開けるものなのだが、その冒険者によって門が開いていく。

『レイカ派』の者たちは、その光景に目を見開いた。


「おい……どうなってる?」

「ばか。裏で男たちが引いてるんだろ?」


しかし、開いた門の向こう側には人影はない。動揺する『レイカ派』の者たちに、レイカは表情を曇らせた。


「……妙なマネ」


全員が内側に入ったのを見届けると、レイカは門に手をついて魔力を高めた。


「……凍結(フリーズ)


すると、門が瞬く間に氷に覆われる。その圧倒的な魔法に『レイカ派』の者たちは感嘆の息を洩らした。


「やるじゃない」


それを見ていた相手が余裕の笑みを浮かべて言い放つ。


「……別に。それより……そっちはあれだけ?」


レイカは闘技場の一ヵ所に集まる集団ーー『ギルド派』の者たちを指差す。


「三分の二ってとこかしら? そっちこそ、もっと連れてくるかと思ったけど?」

「……無理強いはできない」


現在、『ギルド派』は二百人ほど。『レイカ派』は四百人ほどまで膨れ上がっていた。その中では事情により戦いに参加できない者。戦うこと自体に賛成しない者もいたが、大半はこうして決着をつけることを仕方なしとして戦いに参加をした。


こうして、闘技場に総勢四百人近くの冒険者が集まった。それは、全体の冒険者数で見れば半分にも満たない数ではあるものの、明らかに無視できないものにはなっていた。事実、戦いには参加しなかったものの勝敗が気になって集まった者が、闘技場の外に何十人も隠れていた。レイカが門を凍らせたせいで、中に入ることは叶わなかったが。


この戦いの結末が、タウーレンの冒険者の未来を変えるものだと、皆分かっているのだろう。


「日の出の鐘が開戦の合図よ。そこからは、容赦しないから」

「……こっちも」


それから、その冒険者は『ギルド派』の元へ戻っていく。


「彼女、やっかいそうですね」


ふと、隣にいる者が話しかけてくる。ヒルだった。彼はギルドの制服を着ておらず、冒険者のように装備を固めている。ヒルも、この戦いに参加するのだ。


「……大丈夫?」

「僕ですか? えぇ。魔法は使えませんけど、人を相手取る戦いなら慣れてますからね」

「……そう」


そうして、『レイカ派』は開戦の合図を待った。

『ギルド派』では、戻ってきた冒険者にカウルが声をかける。


「ソカ。お前、どこにそんな力があるんだ? 最初に見たときは驚いたが」


それは、門を一人で開けてしまったことだろう。それは、カウルでさえ無理な芸当である。


「ちょっとね」


そう言って彼の質問には答えないソカ。


「まぁ、心強いことには変わりないがな」


それにカウルは興味もなさそうに返答をした。彼が今気になっていることは、『ギルド派』の者たちだったからだ。見ればその一つ一つは不安な表情を抱えている。向こうはこちらの倍ほどの数がいる。そして、ランクという面においてもこちらは圧倒的に不利。それが原因だろう。

なにか、気の利いた言葉をかけてやれれば良いのだが、カウルにはそんな言葉を思い付くことが出来なかった。こういう時はソカのように口達者な者に任せたいところだが、彼女も緊張しているのか表情は強ばり、何かを考え込んでいる。結局、極度の緊張を持ったままその時を迎える。


タウーレンの町を朝日が照らし出し、遠くで開戦の鐘が鳴った。


冒険者たちは陣形をとり、魔力を練り始める。まだ、互いが遠くにいる状態では、遠距離の魔法が有効だからだ。赤や緑や青といった色とりどりの魔法が美しく形成されていく。それは、どちらも同じのようであった。結局、どちらも同じ冒険者であるため戦い方というのは、似かよってしまうのだ。


そして、形成された魔法がその目標に向かって飛び交う。


次の瞬間、闘技場内に数々の爆撃が響き渡った。



「うわああぁぁぁ!?」


そこは闘技場の一室。企画部の部屋。そこで、研究のために寝泊まりをしていたローブ野郎が音に驚いて飛び起きた。


「……な、なんですか?」


冒険者たちは知らなかったのだ。夜、闘技場にいるのは、兵士だけではないことを。



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