十五話 犯人の捜索
あれから、報告書は出さないことをミーネさんに言うと、彼女は少し安堵した表情をしていた。バリザスは「やはり自分の身が一番じゃと分かったか」と、満足げに頷いていた。いつか殺してやろうかな?
石となった多くのギルドカードは、俺の空間魔法で全て隠した。この際、やるならとことんだ。
夕方近くになると、部屋にエルドさんがやって来た。
「なんだよこの部屋。……初めて入ったがこりゃ酷いな」
エルドは入るなり正直な感想を漏らした。この部屋の主が目の前にいるんだぞ?ちょっとは遠慮しろよ。
「なんの用ですか?」
「聞いたぞ?報告書の件」
「もう知ってるんですか?」
「いや、知ってるのは各部長と俺くらいかな?俺は部長と仲良いから」
「で?罵倒しに来たんですか?それとも褒めに来たんですか?」
「なんだよ?やさぐれてんなぁ。せっかく飲みに誘いに来てやったのに」
「……」
「なんだよ?」
「詳しく話が聞きたいだけじゃないですよね?」
「ばれてたか。まぁ!そうだな。だから、今夜飲みに行こうぜ?」
「はぁ。……お誘いは嬉しいんですけど仕事が残ってるんですよ」
「残業か?手当なんて出ないぞ?」
「夕方から夜の間でしか出来ないんですよ。近頃、冒険者風の犯人による窃盗事件が起きてるのは知ってますか?」
「ああ、知ってるぞ」
「今日その犯人を捕まえようと思ってるんです」
「え?」
エルドさんはそう言って固まった。
「どうしたんですか?」
それからエルドさんは、我を取り戻した。
「えっ?何言ってんだ?また渾身のギャグ?」
「そんな訳ないでしょう。いたって真面目で……あ痛っ!?」
いきなり頭を叩かれた。
「バカ野郎!お前は神様にでもなったつもりか!警備兵にも出来ないことを、ただのギルド職員が出来るはずねーだろ!?」
俺は頭を擦りながら言い返す。
「エルドさんは知らなくて当然ですけど、俺は万能型ですよ?相手が武器を使おうが、魔法を使おうが対応は出来ます」
出来ないのは、他の冒険者とパーティーを組むことだけだ。
「お前は知らなくて当然だが、俺も万能型だ。そしてお前より長く万能型をやっている先輩の俺が断言してやる」
そう言ってから次の瞬間、エルドさんは優しく俺の肩に手を置いた。
「……無理だよ。俺たちは何でも出来る代わりに、一つのことにおいて誰にも勝てない。おとなしくギルド職員やってようぜ?これは俺達の天職なんだ」
今度は、俺が優しくその手を振り払った。
「……嫌ですよ。俺は何でも出来るから、何だってやるんです。勝てないなら真正面から戦わなければいい。戦法の多さにおいては、万能型は決して負けることがありませんから」
「……テプト」
「それに、これは俺の仕事です」
そう言うと、エルドさんは笑った。
「新人が格好つけてんじゃねーよ?俺もよく言われるが、お前も相当な頑固者だな。よし、俺も付き合おう」
「えっ?良いんですか?」
「新人だけに危険な事をやらせるかよ。一人より二人の方が安全だろ?」
「確かに、そうですけど」
「で、ある程度目処がついたら飲みに行こうぜ?」
結局はそこかよ。俺は呆れた。
その時、急に扉が開いた。
「テプトくんいる?今日も終わったらご飯にでもい……か……な……」
セリエさんだった。そして、俺とエルドさんを見つけ、固まってしまった。
「おぉ。受付嬢人気No.1のセリエじゃないか?」
「あぁ、セリエさんお疲れ様です。ご飯ですか?たった今先約が出来た所なんですよ」
「なんだ、お前達そんな仲良かったのか?気を付けろよ。変な噂がたたないようにな」
「噂?……あぁ、心配しなくても大丈夫ですよ。今は仕事のことしか考えられないんで」
「よく言った!お前とは気が合いそうだな?」
「実は俺もそう思ってました」
俺は、エルドさんと再び熱い握手を交わした。
「あのー。私は無視ですかー」
エルドさんが、セリエさんを飲みに誘ったものの、彼女は何故か怒って帰ってしまった。無視してたのが悪かったのだろう。悪気はなかったので許してほしい。
ともあれ、俺とエルドさんは仕事が終わると、冒険者ギルドを出た。町の灯りが光り始めていた。
「で?どうやって犯人を探すんだ?」
歩きながらエルドさんが聞いてくる。彼はとてもラフな格好をしていて、荷物すら持っていない。聞いてみると「必要な物は全部職場においてあるからな」と答えた。形だけでもいいからなんか持ってろよ。冒険者に楽な仕事してると思われるだろ。……と、思いつつも、俺も腰につけている小型の鞄しかないので何も言えない。これは、冒険者時代からの愛用品だ。
「まぁ、囮捜査ですね。運良く犯人が俺を狙ってくれれば良いですけど」
「それって運良いのか?つうか、それだけか?」
「あとは、町全体を観察します。騒ぎがあれば分かりますから」
「町全体?お前タウーレンの広さは知ってるよな?」
「知ってますよ。でも犯行が行われているのは毎回町の大通りなんです。そこを重点的に見ます」
「大通りだけって……大通りは端から端まで歩いて2時間はかかるぞ?」
「走ると半時ですけどね」
「……は?」
俺はスキル(鷹の目)と(検索)を同時発動する。大通りはだんだん賑わっており、(検索)に喧嘩などが引っ掛かる。しばらくすると、お目当ての現場が該当した。
「見つけました」
「見つけた?何を?」
「犯人ですよ」
「はっ?おまえ何を……ちょっ!?」
エルドさんの言葉を待たずに走り出す。風魔法を使い、建物の壁や屋根をつたって、現場まで一直線に駆けた。
相手はすぐに目視で見つけた。確かに冒険者風の格好をしており、顔はローブで隠している。
「だれかぁ!泥棒だぁ!」
被害者だろう。太った男が叫びながら走っている。それを颯爽と抜き去って、俺は相手に追い付いた。相手はすぐに気づいて、走りながらナイフを刺そうとしてきた。その手首を掴んで空いた脇腹に拳を放った。
「うっ……」
相手はそのまま転んで地面に倒れた。俺はそいつをロープを出して縛る。
「ふぅ。手間取らせやがって」
まぁ、手間などかかっていない。言ってみたかっただけだ。