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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
騒がしいタウーレンの町編
143/206

五十話 『ギルド派』のやり方

夜。タウーレンにある居酒屋。そこに、十人ほどの冒険者たちが集っていた。彼らの表情は皆陰鬱で、手元にあるグラスの酒は殆ど減ってなかった。


「それで? 『レイカ派』はどれくらい増えたわけ?」


一人の女性冒険者が口をいた。ソカである。彼女は腕を組んで周りを見回すと、二十代後半の男がそれに答えた。


「大通りの居酒屋で、レイカが古参の連中と飲んでた。盗み聞きしたら、二百人は居るって言ってたぞ」

「それって本当なの?」

「なんか、名前を集めてるらしい。前にテプトさんがやっていたのと同じだよ」


テプトがやっていた事というのは、冒険者が闘技場に参加するために署名を集めていた事である。


「それに、『レイカ派』は、分かりやすいよう胸のところに紫色のブローチを付けてる。今日ギルドにいた連中は殆ど付けてたな。二百という数もあながち間違ってはいないんじゃねーか?」


『レイカ派』は、紫色のブローチを胸に付けていた。それは、ヒルの提案なのだが、それを知る者はいない。


「ギルドに反対してるくせに、よくも平然と来れるよな?」


別の冒険者が口を尖らせた。


「反対してるのは『依頼義務化』についての所だからよ。ここ最近すぐに無くなっていた依頼書もかなりの数が残ってたわね」


ソカは思い出すように言った。冒険者ギルドの未達成依頼は、依頼義務化によって無くなりつつあったのだが、再び目に見えて残りつつあった。


「テプトは……なぜ、何もしない?」


そう言ったのはカウルである。彼もまた、この集いに集まった中の一人だった。


「聞いたら、打つ手があまりないらしいわ」

「レイカという女についてる、あのいけすかないギルド職員は、テプトの部下なんだろう?」

「なーんか、そうでも無さそうなのよね? 今、冒険者が割れているように、ギルド職員の中でも仲間割れが起きてるんじゃない?」

「……面倒だな」


カウルは唇を噛み締める。


「レイカって奴が、かなりの影響力を持ってるからな。俺たちは知らないが、古くから冒険者をしている連中は皆奴を知ってる。高ランクは皆『レイカ派』になっちまった」


『レイカ派』と『ギルド派』を大きく分けているのは、レイカという女性冒険者を知っているか否かというところだった。おそらく、彼女がタウーレンにいた頃は周りからの信頼も厚かったのだろう。事実、ここに集まっている者たちは、五年前にレイカがタウーレンを去った後に冒険者となった者たちだった。

そして、時間の流れはランクにも大きく影響してくる。現在、『ギルド派』で一番ランクが高いのはカウルを含めたBランク冒険者。対して、『レイカ派』にはAランクの冒険者が多くいた。

それは数だけでなく、強さにおいても『レイカ派』が有利といえる現状をつくっている。


「なんで皆わかんねーかな? 『依頼義務化』については、ギルドの都合じゃないってテプトさん言ってたのにな」


そして、二つの派閥を分けているもう一つの理由は、町の人たちとそれなりに交流を持っているか否かという所もあった。『ギルド派』の者たちは、町の人たちが冒険者に対して抱いている感情を知っている者たちばかりのため、『依頼義務化』を施行せざるを得なかった理由を正しく理解していた。


「もしも、前みたいに戻れば冒険者の立場が無くなるってわかんねーのか?」


一人の冒険者が、荒っぽく酒を煽る。


「向こうは、ダンジョンに潜れば生活出来る奴等ばっかりだから、町の人たちなんて関係ないんだろーよ。良いご身分だよ……ったく」


彼等の不満は募っていく。ソカはため息を吐いた。


「まぁ、このままじゃ私らが負けるのは目に見えてるわね。もしそうなったら、今度は私たちに標的が移るわ」


何気なく言ったソカの発言に、殆どの者がギクリとした。派閥が出来てしまった以上、どちらが勝ってももう元のようには戻らないだろう。もし『レイカ派』が勝ってしまえば、『ギルド派』にいた者はどうなるのか。それは、火を見るよりも明らかだった。そして、これこそが『レイカ派』の勢力を強めている最大の原因でもあった。


「関係ないな。俺は元より、冒険者同士で仲良くなんかしてない」


カウルがどうでもよさそうに口を開く。


「それよりもソカは良いのか? パーティーを組んだことのある奴等、皆『レイカ派』に寝返ったんだろ?」


それに対してソカは鼻で笑う。


「私がちょっと誘惑したら仲間に入れてくれた軽い奴等よ? ホイホイと向こうにつくのは分かっていたわ」

「悪い女だな……お前とは組まなくて良かったよ」

「それはこっちの台詞。あなたみたいな堅物は、操りづらくてごめんよ」


この中において、余裕を持っているのはソカとカウルだけである。二人だけは、冒険者の行く末を案じて『ギルド派』にいるわけではないからだ。


二人が『ギルド派』にいる理由。


「だが、どうする? テプトが打つ手なしなら、協力しようにも出来ない」

「簡単よ。冒険者同士でケリをつければいいの」

「冒険者同士? ……なるほどな」


それは、ギルド職員にテプトがいるから。それだけの理由だった。そして、二人はテプトが策を労する事を予測し、いつでも動ける体勢を整えていたのだ。しかし、その可能性が低いと分かった今、二人はいかにも冒険者的な発想に至る。


「おい、お前らだけで納得してないで俺らにも教えてくれよ」


一人の冒険者が声をあげた。それに、ソカは不敵な笑みを浮かべて答える。


「冒険者は強い方が正義よ。だから、レイカの方に勢力が集まってる。なら、それを覆せば良いじゃない」


彼女の言っている意味が分からず呆然とする者たち。次にソカの発した言葉で彼らは戦慄することとなる。


「つまり、奴等に暴力的な戦争をふっかけるのよ。そこで勝てば、大人しくなるんじゃないかしら?」


「……つまり、本当に争いを始めるってことか?」

「そういうことね。だって、それしか道は残ってないでしょ? 冒険者には冒険者のルールがある。それに則って、勝敗を決めるのよ。場所とかは……」

「闘技場を占拠すれば良いんじゃないか? あそこは広いし、数百人なら乱闘出来るだろ」

「そうね。……『レイカ派』に宣戦布告をして奴等の尻に火がつけば、ギルド側だって止められないだろうしね」


平然と会話を交わすソカとカウルに、残りの者たちは飲むことを忘れてただただ呆然とした。


「だっ、だが! 冒険者同士で争うのは禁止されてるはずじゃ!」


我に返った一人がそう叫ぶ。それに、ソカとカウルが冷たい視線を送る。


「そんなこと言ってる場合なの? あなた、さっき冒険者の立場とか言ってたじゃない。このまま指をくわえて見てたら、そうなっちゃうのよ?」

「そっ……それは」

「本当に重要な事はなに? 何もせずに傍観すること? 私たちは戦う冒険者でしょ?」


まるで、負ける事など全く考慮していないソカの言い分は、未来を語るには不安要素が大きすぎた。しかし、冒険者としての理屈は十分すぎる程に形を成している。他に案を思い付くことが出来ない者たちは、それに黙るしかなかった。







大乱闘の予感。


……描写に不安が

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