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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
騒がしいタウーレンの町編
142/206

四十九話 急速に発展していく事態

「ギルドマスター……また、同じ過ち」


レイカはバリザスに歩み寄っていく。バリザスは、険しい表情をしたまま動かない。


「もう、来ることはないと思っていた。……でも、また、同じ過ち」

「レイカよ。わしがいつ同じ過ちを犯した? お主の言うておる過ちというのは、無理な依頼を押し付け、パーティーメンバーを死に追いやった事を言うておるのか?」


周りはシンと静まり返っている。不意に階段を降りてくる音が聞こえ、見ればミーネさんもやって来たところだった。バリザスは白い冷気を漂わせるレイカに対して、威厳を保ち真っ直ぐに彼女を見据える。何も、恥ずべきことはないのだと主張するように。


「……そう。そして、『依頼義務化』の話を聞いた。あなたは、また人を殺そうとしている」

「そんなことはない。今は、あの時の冒険者ギルドではない。じゃから安心せい、レイカよ」

「信用できない。だから」


そう言って、レイカは右手をバリザスの肩に触れた。

ーーパリパリ。

その手からバリザスの服が氷に覆われていく。だが、バリザスは微動だにせずレイカを見据え続けた。


「だからどうするというのじゃ? わしを殺してもお主の思い通りにはならん。それどころか、事態を悪化させるだけじゃ」

「黙って」

「確かにわしは過ちを犯した。お主がここを去ったのも納得するしかない。じゃが、その過ちをもう一度犯そうなどとは思うておらぬ。レイカよ。話だけでも聞いてはくれぬか?」

「黙って。私は……嘘は嫌い」


その瞬間、レイカの身体から大きく魔力が揺らいだのを感じた。……これはヤバイ。


「……『凍結(フリーズ)』」


彼女がそう呟くと、少しずつ覆われていた氷が一気にその速度を増す。ミーネさんの息を飲む音が聴こえた。そして俺は二人の間に割り込み、魔法を中止させんとする。


「……なっ!?」


いきなり目の前に現れた俺に、レイカは目を見開いた。


「わるいな。これでも、俺の上司なんだ」


そう告げて、魔法が発動している腕を払う。


「……っつ!」


レイカはそのまま後ろへステップして距離をとった。


「バリザス様!」


ミーネさんが駆け寄ってくる。


「……遅いぞ。テプトよ。お主がいたから、我慢していたというのに」


小声で話しかけてくるバリザス。だから動かなかったのか。てっきり、動けなかったのかと思ったぞ。

俺は払った手を見ると、手首から先が凍りついている。属性『氷』。それは、凄まじい侵食力だった。だが、俺も『氷』が扱えるわけで、正直全く効いていない。そのまま無理矢理拳をつくり、手のひらの支配を取り戻す。


「……そんなことをすれば、手がダメになる」

「大丈夫。俺も『氷』は使えるからさ。耐えられるんだ」


それから、俺もレイカと同じことをして見せる。体から白い冷気が漂うのを確認したのだろう。彼女の目が再び見開いた。


「……あなたは?」

「俺はここのギルド職員。現在は『冒険者管理部』に所属してる」


気温が、一段と下がった気がした。いや、俺も氷属性になってるからか?


「管理部……悪の元凶」

「君の話は聞いてる。非は確かにこちらにある。だが、ギルドマスターの言った通り、話を聞いてくれないか?」


それに、レイカは答えなかった。ここはロビーだから、あまり事を荒立てたくない。視線だけで見渡せば、寒くなった気温に、震える者も出始めていた。


「嫌。……悪は黙ってて」


レイカの魔力が上昇したのが、冷気によって確認できた。彼女は聞く耳を持っていないらしい。それとも、冷静に見えるだけで激情しているのだろうか?

なら。


「ギルドマスター。争い事を起こす冒険者を抑えます。許可を」


わざとらしく声をあげる。ルールに則り冒険者を抑えれば、その結果に対して文句を言う者はいない。バリザスは意を汲み取ったのか、それに対して彼も大声で返した。


「やむおえん。許可する」

「……できると思う?」

「やるしかないだろ」


『氷』と『雷』。この二つが、今や古代属性として語られている理由は、使い手が少なくなってしまったからに他ならない。実際に俺以外でこの属性を使える者を初めてみた。そして、何故使い手が少なくなってしまったのか? それは、使用しただけで周りに甚大な被害をもたらす魔法として、禁じられた時代があったからだ。実際に使用してみると分かるが、この二つは、魔力が属性に変わった時点で攻撃力を持っていた。まぁ、それを言えば『火』も同じなのだが、人々はその属性だけは必要だと考えたのだろう。


だからこそ、ここで戦いは避けたい。なるべく被害が出ないようにしたかった。


ならばどうするか? そんなの、短期決戦しかない。


俺は、冷気を纏ったままレイカに近づく。彼女は身構えた。


「……力比べ?」

「そうだ」


それだけ言って歩みを進める。そして、二人の冷気が触れあわんとする所で、素早く呟いた。


瞬間転移(テレポート)




瞬間的に彼女の後ろに転移する。そのまま首もとに手刀を打ち込もうとして。


「やっぱり嘘つき」


その手を止められた。……まじかよ。


触れ合った所から、氷が発生する。俺も再び属性を氷に戻して対向した。双方とも腕の関節あたりまで氷が伸びて、その勢いをなくした。力が拮抗したためである。


「驚いた。空間魔法まで使えるなんて」

「あまり驚いてないように見えるけど?」

「……なんで、ギルド職員なんか」

「元々は冒険者をしていたんだ」

「だったら、分かるはず。私の気持ち」

「わるいが、分からないな」

「……どうして?」


彼女の氷が勢いを増した。それに合わせて俺も魔力を強める。


「簡単な答えだよ。俺は君じゃないからだ」

「答えになってない」

「いや、なってる。だが、理解しようとすることは出来る。それには、君の話をちゃんと聞かなきゃならない。だから、君も俺の話を聞いて欲しい」


僅かに彼女の瞳が揺れた。


「私は今でも、この冒険者ギルドを憎んでる。無理矢理依頼を押し付けて、私の仲間を死に追いやった事実は変わらない。そんな所の話は聞きたくない。……私は話をしにきたんじゃない。『依頼義務化』なんていう、冒険者を物としか考えてないような制度を止めにきた。そこは変えるつもりは……ない」


また、彼女の魔力が上がった。俺も再び上げる。周りには、薄い氷が張り始めていた。窓ガラスは白く曇っている。これ以上は危険に思えた。

だが、どうすれば良い? レイカは聞く耳を持たない。抑えようにも、流石はAランク冒険者。容易にそれをさせてはくれない。


このまま戦うしかないのだろうか。


そう思っていた矢先。


「今ここで何をしても無駄ですよ」


パリパリと、薄く張った氷を踏み鳴らして近づいてくる人影。それを見た俺は、驚きを隠せなかった。そこには、王都に行っていたはずのヒルがいたのである。彼は近づく度にその動きを鈍らせる。氷にはそういった効果もあった。


「あなたは?」

「僕も管理部の人間で、ヒルと言います」


それでも、ひょうひょうとした笑みは崩さずにヒルは言った。


「あなたも……悪者」

「心外だなぁ。僕はあなたに良い提案をしようと思っているのに」

「良い……提案?」

「はい。ここで施行されている『依頼義務化』についてですが、正直言うと王都にある本部はあまり良く思っていません。もしも、この制度を止めさせたいなら、あなたがここで経験されたことを、本部に言えば良いんですよ」


「……ヒルっ!」


思わず声をあげてしまった。彼の口からそんな言葉が出るとは思わなかったからだ。


「あなたは、ここの職員じゃないの?」

「職員ですよ。ただ、今しがた聞いた話は知りませんでしたね……テプト部長?」


唇を噛み締める。最悪のタイミングでヒルに聞かれてしまった。


「本部に行けば、『依頼義務化』を止めさせることぐらい、造作もありませんよ」

「ほんとう?」

「えぇ。ただ……」

「ただ?」

「あなただけの意見では少し弱い気がします。ここは、もっと多くの協力者を集めないと」

「協力者?」

「もしも、さっきの話が本当なら、ここの冒険者たちは協力者してくれるのではないでしょうか? その人たちと共に王都にある本部に報告すれば良いんです。幸い、僕は本部とそれなりの繋がりを持っています。よろしければ、お手伝いしますが?」


聞いていたギルド職員たちは、誰もが唖然としていたに違いない。今まさに、身内から裏切り者が出ようとしているのだ。それも、最悪の方法で。もしも本部に報告をされれば、処分は免れないのではないだろうか? それを、知っていたかどうかは別として。


「わかった。……具体的な方法を教えてくれたあなたは、少し信用しても良い。でも、騙そうというなら容赦はしない。その時は永遠に生ける見世物として氷付けにしてあげる」

「それでかまいませんよ」


フッと、氷が侵食するのが止まった。漏れでていた冷気はなくなり、気温が戻っていく。バリッと、腕の氷が割れて剥がれ落ちた。彼女は俺の手を放して、ヒルに歩み寄る。



「おい、聞いたか?」

「あぁ。どうする?」

「レイカか、このギルドか」


気づけば、周りで見ていた冒険者たちが口々に話し合いを始めていた。

嫌な予感がした。


レイカは、ヒルと何か言葉を交わし、そのまま冒険者ギルドを出ていった。ヒルは、素早く俺に駆け寄ってくる。


「お前……なんてことを」

「すいません。でも、場を収めるにはああするしかなかったんですよ。でも……テプト部長なら何とか出来るんじゃないんですか?」


その試すような目は、わざとこの状況を作り上げた事を物語っていた。


「僕はあちら側につくので。では」


そう言ってヒルは俺から離れる。


「あぁ、それと王都での新魔術式の件ですが、上手くいきましたよ。危ない魔術式として、禁止が言い渡されたようです。取り調べのため、多くの魔術師も捕まりました。これも、全てテプト部長のお陰です」


振り返ってそう言ったヒルは、いつもの彼に戻っていた。それから、まるで何事も無かったかのように冒険者ギルドを出ていく。


俺は、額に手を当てた。


(してやられた)


レイカが起こした事件と、冒険者ギルドを本部に売るかどうかの話は、瞬く間に冒険者たちの間に広がる。そして、冒険者たちの中で、『ギルド派』と『レイカ派』の二大派閥が生まれてしまう事態に発展した。

ギルドでは、臨時会議が行われたが、彼らを説得する以外に方法はないと結論づける。だが、過去にこの冒険者ギルドが起こした過ちは消えないため、どう説得するかで行き詰まってしまう。どう足掻いても薄っぺらな言い訳になってしまう気がするのだ。




それを、見かねた者たちがいた。



『ギルド派』の冒険者たちである。


しばらく、冒険者視点が多くなるかもしれません。ご了承下さい。

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