表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
騒がしいタウーレンの町編
140/206

四十七話 プレゼント

冒険者ギルドでセリエさんに会うと、俺は製作した懐中電灯を取り出した。


「これ、この前約束していた物です」

「え? うそ!? ほんとに?」


挨拶がてら渡すとセリエさんはとても喜んでくれた。


「というか、何これ? 初めて見るんだけど」

「そこの魔法陣をスライドさせて下さい」


言われた通りセリエさんはスイッチをずらす。すると、魔石に眩い光が灯った。


「……すごい」

「夜道はこれを使って下さい」

「本当に貰って良いの? なんだか凄い高そうだけど」

「俺が自作した物です。それに、セリエさんのために作りましたから」

「私の……ため……」


彼女は、しばらくその言葉を繰り返していた。


「ありがとう。本当にうれしい」

「なら、良かったです」


なんとなく、温かな空気が二人の間に流れた。それは、少し照れ臭くてなんだか心地良いものだった。パアッと笑うセリエさんの表情が、そうさせるのだろう。

その笑顔が眩しすぎて、照らされた俺は自分の無防備さに心もとない気持ちになった。セリエさんの気持ちはなんとなく察している。そして、いつか俺はこの笑顔を壊してしまうのではないかと、根拠のない不安にかられてしまったのだ。


ーー今はまだ。


「テプトくん」


セリエさんが俺の名を呼ぶ。


「なんですか?」

「……いや、やっぱりなんでもない」

「なんですか? 言いにくいことですか?」

「本当になんでもないの。ただ、呼んだだけ」


(なんだよ……それ)


それから彼女は、困惑する俺に対してフフッと嬉しそうに笑みを溢した。なんというか、もう怖い。


ソカを見かけたのはその日の午後である。彼女を呼び止めて冒険者ギルドを出て裏手に回った。


「なに? ……今からやることあるんだけど」

「約束していた物ができたんだ」


そう言って、空間魔法にて自作した剣を取り出した。


「差し支えないなら、これを使ってくれ」


そう言って剣を差し出す。ソカの表情は怪訝そうだった。


「差し支えあるわよ。なんで、バスタードなの? 私はショートって言ったわよね? こんなの振れないわ」

「だから、これも用意した」


そして、オーガのガントレットも渡す。


「これを装着すれば振れるはずだ。やってみてくれないか?」


半信半疑というように、ソカはガントレットを受け取り、腕に装着する。手を広げたり握ったりして動きを確認してから、バスタードソードを鞘から抜き去って手に取った。


ーービュン。


「……なにこれ」


振ったバスタードの風切り音が響き、本人が驚きの声を発する。


「それはオーガの怪力を宿したガントレットだ。それをつけていればオーガ並みの力を得られる」

「……信じられない。これ、あなたが作ったの?」

「あぁ。約束していたショートソードじゃ、すぐに壊れると思ってな。どうせ渡すなら長く使える剣にしたくて、耐久性のあるバスタードを振れるよう開発した」

「あなた……本当になんでも出来るのね」

「大抵のことは出来る。なんでもじゃないがな」

「なによその言い回し。どっちにしても凄いわよ」

「気に入ってくれた?」

「えぇ。ただ、この剣は少し重いから持ち運びは疲れそうね。あと、これ魔剣じゃないわよね?」

「魔剣だぞ。ちゃんと魔物も倒せる」

「はぁ? これ普通のバスタードじゃ……え?」


剣に魔力を通したのだろう。刀身が淡く発光した。


「ミスリルは内部にあるよ。それと、その剣自体が一つの存在として成り立ってるから、魔物にも効くはずだ」

「……言ってる意味がわからないんだけど」

「魔物には魔石があるだろ? その剣は、ミスリルが魔石と同じ役目を果たしてる。魔物みたいに意識はないが、魔力を通すことで剣に力が宿るんだ」


ソカはしばらく唖然とした表情でバスタードソードを見つめていた。


「それと、その剣だが。真名(マナ)を授かった」

「……まな?」


彼女は首を傾げる。俺は、空間魔法にて手元に大剣を取り出した。


「これは、俺が以前つくった俺専用の剣だ。こいつにも真名がある。見ててくれ」


それから、俺は真名を唱える。


業火(エンバーザ)


すると、刀身が瞬く間に炎に包まれる。


「……燃えてる」

「これが、この剣の本当の力だ。それが、その剣にも付いてる」


それから、エンバーザをしまった。渡した剣に真名があると判明したのは、昨日の夜だった。柄を装着して、完成した剣を外で素振りしていた時に、剣が光って頭の中に言葉が浮かんだのである。


「そいつの真名はーー」


詐偽(エセクト)


ソカがポツリと呟いた。その途端、彼女の手にあるバスタードソードにヒビが入り、ボロボロと崩れ去った。残されたのは細い刀身のみ。それは、先の姿とは想像もつかない程に頼りないものだった。


「……なんで分かった?」


ソカが真名を唱えたことに驚きを隠せない。


「魔力を流したときに頭に浮かんだの。なぜかは私にも分からない」


剣をまじまじと見つめるソカ。そういうものなのか?

その剣は、真名を唱えるとなんとも微妙な外見になってしまうと言う効果を持っていた。昨日の夜にそれを確認したとき、思わず「なんでだよ」そう、つっこんでしまった。本来の力を目覚めさせる真名で、弱体化することなど誰が想像できただろう? 俺は何が何やら分からなかったが、それがこの剣の本質なのだろうと勝手に納得して今に至る。


「……重さも変わるのね」


ソカが呟く。


「正直、それについては俺にも分からない。エンバーザは真名を唱えると魔力を消費し続けるが、そいつは姿を変える一瞬だけ魔力を喰らう。もう一度真名を口にすると戻るぞ」

「……詐偽(エセクト)


刀身が本来の姿を取り戻す。


「一応、細い刀身用の鞘も作ってきた。どちらを選んでも良い」


そして俺は、彼女に細い刀身用の鞘を渡す。ソカはそれを受け取り、もう一度真名を唱えると、それを鞘に収めた。


「別に入らないならこのまま預かるよ。剣はまた作ればいい」


だが。


「いえ……このまま貰っちゃっても良い?」


彼女はそう答える。


「……良いのか?」

「良いに決まってるじゃない。それに……」


ソカはそこで言葉を切る。


「それに?」

「……なんでもないわ。ありがとう。大事にするわね」


そして、その剣を腰にぶら下げた。


「手入れは本来の姿でやること。それから、もし刃溢れをしても鋼の部分を打ち直せば蘇る。その時はいつでも俺に言ってくれ」

「わかったわ」

「以上だが……何か質問は?」

「うーん。いろいろあるけどさ。一番はほんとあなた何者? って感じ。こんな魔武器見たことない」

「俺が独学で編み出した製法だからな。とはいっても、基本は父親に叩き込まれてる。安心して使ってくれ」

「……剣じゃなくてあなたの事を聞いたんだけど」

「俺はーー」


それから、思わず笑いながら答えてしまった。


「ほんっと、何者なんだろうな?」

「なによ、それ」

「いや、ほんとにそう思うんだ」


神から力を貰った時に、この力は何なのかを聞いておくべきだった。今のところ不自由はないし、障害となったのは全て俺の性格だけだ。こんな奴を転生なんかさせて、神は一体何を考えていたのだろうか? 目的はあったのだろうか? それとも奴の気まぐれに過ぎなかったのだろうか? 疑問に思うことは多々あるものの、それを考えても仕方のないことだった。


「まぁ、俺は俺だ。それ以外に答えようがない」

「羨ましいわね。それを堂々と口にできて」

「お前だってそうだろ?」


それにソカは「うん」とだけ答える。


「それじゃ、もう行くわね」

「あぁ、時間を取らせて悪かった」

「気にしないで。私こそ、無理言ってごめん」


彼女の口から『ごめん』という言葉が出てきたことに、かなり驚いた。


「……なにその反応。なんか変なこと言った?」

「やめろ。そのガントレットで人を殴れば、とんでもないことになる」


ソカは振りかざした腕を下ろす。


「そのガントレット、ほんとに危ないから加減の訓練をしろよ? 何気なく握手をしたら、相手の手が無くなってたなんてことになりかねない」

「……なんでそんな物作ったのよ」

「わるい。少し夢中になりすぎた」

「私に?」


そう言って彼女は上目遣いをしてくる。


「……いや、物つくりに」


ソカは呆れたようにため息を吐く。


「嘘でもいいから、頷いておきなさいよ」

「……わるい」

「まぁ、今に始まったことじゃないけどね?」


それには笑みを浮かべて返した。


「じゃ、本当に行くから」

「あぁ」


そうして彼女は去っていく。俺は笑みを崩して息を吐く。


(そんなの、簡単にできねーよ)


ソカは時に、冗談混じりに思わせぶりな言葉を吐く。それは、一種のやり取りとして俺は認識をしていた。だが、もしもそうでなかったなら……。

なんとなく、自分自身が弱気になっているのを感じた。仕方ない。俺は『そういう事』に関して、全く関与してこなかった。慎重になるのも無理はない。


なんとなく空を見上げてみる。そこには、鮮やかな青に白い雲が浮かんでいた。

こういう時は、空を見上げるものだろう。その発想こそが、俺がいかに『そういう事』に対して、ド素人であるかを自覚する。


「……どうなることやら」


呟いた言葉は、のんきな景色の前だと馬鹿みたく聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ