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ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
騒がしいタウーレンの町編
139/206

四十六話 懐中電灯製作

翌日、工房に行くと人だかりが出来ていた。


「おお! きたきた!」

「あんたか! 冒険者ギルド職員職人ってのは!」


(いや、それ混じりすぎて訳わからなくなってるからな)


「魂のこもった物作りと、細やかな作業は見るものを魅了するようだな?」


(それどんな奴だよ。というか、そんな事になってんのか)


そんな感じで駆け寄ってくる暑苦しい集団と、少し離れた場所から冷たい視線を送ってくる集団がいた。目が合うと、「けっ!」と嫌みな態度をしてくる。


「すいません。テプトさんの事が職人たちの間で広まってしまって……皆様子を見にきたのです。そして、彼らには職人としてのプライドもあるため、快く思わない者も中にはいるようです」


バイルさんが小声でそう耳打ちしてきた。


「じゃあ、なんでここにいるんですかね?」

「気にはなってるみたいなんですよ。ヤンコブ様が変わり始めたのは、テプトさんたちのお陰だと既に皆知ってますから。ですが、彼らは恥ずかしがりやも多いので、素直にお礼も言えないようなのです。可愛い人たちなので、許してあげてください」


(なんだよ、そのギャップ)


試しに、可愛いに脳内変換をして、もう一度そのゴツい集団に視線を戻してみる。



「本当にあのひょろい体で職人業ができんのかねぇ?」

=『職人は、そんな体じゃ務まらないわよ?』


「どうせ、少し作業が出来る程度なんだろうよ」

=『そう! そんなに甘い世界じゃないわ!』


「まぁ、最高の一品を作ったなら認めてやらんでもないがな」

=『私たちを満足させたら認めてあ・げ・る』



「おぇぇぇっ」

「どうしました!? テプトさん」

「いや……なんでもないです」


なんだか、危ない世界が垣間見みえました。


「はぁっ! 今日もあんたの技を見せてくれ! 俺は楽しみすぎて、今日は仕事も手につかなかったんだ!」


暑苦しい連中の中には、そう叫んでいる者がいた。本当に職人だよな? そう問いかけたくなった。



セリエさんの贈り物には、携帯式の昭明……懐中電灯のような物を贈ろうと思っている。ラントで夜道を歩いているとき、彼女がよく躓いていたのが気になったからだ。どうやらセリエさんには、少しドジッ子属性があるらしい。


職人たちを気にせず、工房に入って作業台に座る。今日はちまちまとした作業になるため、職人たちにとっては不満かもしれないが、そんなのは関係ない。


まず、魔石を取り出してから加工をする。加工とは、魔石に属性を付与するということだ。


属性には『風・火・水・土』と古代属性の『雷・氷』がある。

そもそも、属性とは何なのか? その議論は古くからされており、現在は『魔の流れる速度が関係している』と言われている。


説明しよう。魔石とは魔素が固まった物である。その魔素は固まったまま動くことはなく、魔石はそれだけでは何の属性も持たない。しかし、魔石と魔石を繋げると、魔石同士の魔素が移動して『属性』が生まれるのだ。


ちなみに、

魔石を二つ繋げると『風』

魔石を三つ繋げると『火』

魔石を四つ繋げると『水』

魔石を五つ繋げると『土』となる。


魔素の移動速度は魔石の少ない『風』が最も早く、魔石が多い『土』が最も遅い。


では、『雷』と『氷』はどうなるのか。


『雷』は魔素の移動速度を『風』よりも早くする必要があり、『氷』は、『土』よりも移動速度を遅く……殆んど止まりかけの速度にしなければならない。

だが、魔石を繋げる以上、どうしても属性は『風』になるし、『氷』を付与するには、魔石をなん十個も繋げなければならない。それは、かなり厳しい条件である。

オーガのガントレットを作る際に説明した、スライムの中に魔石を二つ以上注入すると死滅してしまうというのは、この事が関係していると思われる。スライムは、たった一つの属性しか使えないからだ。二つまでなら『風』の一つだけだが、二つ以上注入すると『火』も使えるようになってしまう。だが、彼らは一つしか属性を扱うことが出来ないため、死滅してしまうのである。まぁ、一つしか属性を使えないというのは強みでもあるので、ムーンスライムなどの稀少種もいるわけなのだが。ちなみに、人は魔法を使うとき、魔力を練り込む速度変化で属性を操る。だが、その幅には得意・不得意があり、速く出来る者は『風』が得意だが反対の『土』が苦手。その逆も然りだ。それを補う方法として詠唱があり、詠唱によって得たイメージは、魔力の速度変化を大いに助けた。そして、俺は無詠唱で全てを操れた。


そんな俺が、今回加工して作ろうとしているのは『雷』である。


そう。俺は、『雷』を付与するための方法を知っている。

解決の糸口は、魔石の生成課程にあった。



これは、転生前の記憶を持つ俺だから理解できることだが、魔素の中には、正の性質を持つ魔素と、負の性質を持つ魔素がある。正の魔素には急激に負の魔素が集まるのだが、ある程度集まるとその表面を、集まろうにも集まれない負の魔素が漂う。この時、漂っている流れが属性『土』を持って石化する。こうして魔石は出来上がり、それを命とする魔物が生まれる。


ちなみにミスリル鉱石の生成は、どちらか一方だけの魔素が狭い空間に凝縮された状態から始まる。最初は魔素が活発に反発しあうため属性『風』となるのだが、密閉された空間では風が起こらないため、強制的に属性が『火』に変わる。火は酸素を必要とし、空間内の酸素が無くなったことで、再び属性が『水』に変わるのだ。魔素の流れは『風』なのに、起こる現象は『水』。この矛盾した現象により空間内は魔素が活発に動く水で満たされ、それが長い年月を経て鉱石として固まるのだ。これがミスリル鉱石である。


まぁ、これは俺の仮定に過ぎないが、間違ってはいないように思う。属性『風』のスライムを密閉した空間に一日放置したら、『水』のスライムに変わっていたのだ。そしてこの仮定を元にして、俺は『雷』の魔石を作ることに成功している。ということは、仮定は正しいといえる。


方法としては、魔石の中の魔素を減らして移動できる空間を作ってやれば良い。魔石を増やして属性を付与するのではなく、魔素を引いて属性を付与するのだ。


ーースキル『魔力吸収』によって。


だが、普通の魔石からは『魔力吸収』が出来ない。魔石の中は魔素の塊であって、魔力ではないからだ。

だから一旦、魔力を発生させる必要があった。


俺は魔石と魔石を炉で熱して、頃合いを見てから取り出した。それから、皮の手袋をして、二つを繋げる作業に移る。魔石は歪な形をしているため、繋げるのはそれなりに難しい。パズルのようなものである。もしも上手くつなげられなければ、魔素が移動することはない。その作業は繋げれば繋げる程難易度を増していく。昔、『氷』の魔石を作るため、魔石を何個も繋げようとした職人たちがいたが、成功した者は数える程しかいない。それほどに難しいものなのだ。


魔石が繋がると、確認のため魔力を流す。すると、魔石から風がそよいだ。成功である。そして、その魔石から『魔力吸収』によって、中の魔力を抜き取る。おそらく、魔石の中では魔素が減ったため、残った魔素の移動速度が増したはずである。


もう一度魔力を流した。


ーーバチッ!


その音と共に魔石が光輝く。成功だ。


「「「「はぁ!?」」」」


いきなり職人たちから声が上がった。見れば、皆唖然としている。


「……てっ、テプトさん。もしや、その魔石は『雷』ですか?」


バイルさんが一人前に出てきた。


「はい。そうです」

「……どうやったのですか?」

「とあるスキルで作れるんですよ」

「……なんと」


俺は作業に戻った。勿論このままでは危ないため、絶縁するための容器を作る。木材を使って持ちやすい大きさに円形型の筒をつくり、魔石の周囲は銀を平たく伸ばして光が反射するよう仕上げた。中には魔石に魔力が伝わるよう、ミスリル鉱石を細く伸ばして先にはもう二個、ミスリルと接合したただの魔石を設置する。こうすることにより、二個の魔石の間に魔力が生まれ、それがミスリルを伝わり加工した雷の魔石に供給される仕組みだ。たが、このままだと光が放ちっぱなしのため、容器自体に『魔力封じ』の魔法陣を施す。この魔法陣は普段の生活にも多く使われている。魔法陣の発動源は封じるはずの魔力である。


魔力を封じるために作った魔法陣は、封じる魔力によって発動。この何ともおかしな関係を発明した人は天才だろう。もしも、この魔法陣を取り消したいときは、陣自体を壊してやればいい。だから、容器の表面をスライドして魔法陣を壊せるよう細工を施した。これがスイッチとなるわけだ。


こうして出来上がった物は、ほとんど懐中電灯だった。転生前の記憶に引っ張られすぎである。


「すっ、少し、見ても良いかい?」


職人の一人が申し出てきた。


「大丈夫ですよ」


そう言ってそれを渡す。すると他の職人たちも集まり、彼らは魔法陣を取り消すスイッチを何度もスライドさせては、光が付く度にどよめいた。その中には冷たい視線を送っていた人たちもいて、皆驚いている。


(なんとか完成したな)


ソカとセリエさんのために作った品々。それにかけた時間は約一週間。かなり根気のいる作業だった。職人業は大変だ。


「バイルさん、工房を貸して下さってありがとうございました」

「いえいえ。こちらこそ、良いものが見れました。また何かあれば是非」

「こちらこそ」


そうして、長い工房にさでの作業が終わりを告げる。この時、バイルさんが深く何かを考え込んでいたのに俺は気づかなかった。早く帰って休みたかったのだ。





魔素:この世界に漂う魔。+と-がある。

魔力:魔素の行き来によって発生するエネルギー。

魔石:+の魔素に-の魔素が集まって出来た。魔物の核。

ミスリル鉱石:反発しあう魔素同士が長い年月を経て形作った物。


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